名もなき辺境の闘食奇譚【試作品】

めたるぞんび

第1話 プロローグ

 ここは剣と魔法が織りなす冒険の幻想世界・アスガルディア。


 世界で最も広漠こうばくたる東方大陸では、かつて隆盛を極めた古代文明は滅び去り、人々の記憶すら全ての跡形も瞬く間に消え去った。

 生きとし生けるモノの倫理や秩序は崩れ去りて、不文律すらままならず。

 地上では悍ましい怪物どもが跋扈して、翼がある竜種どもも制空すれば我が物顔に周遊する。

 もはや有頂天外となった彼奴きゃつらは、勝手気ままに暴れ回り、ただひたすら闘争へと明け暮れていく。

 血で血を洗う狂瀾怒濤となりて、運命の濁流渦巻くかの如し混沌カオスの到来である。


 この大災厄の只中に残された眇眇びょうびょうたる人間たちは、自然の大災害や怪物相手に翻弄される他なかった。

 辛うじて生き残った人々は、過去の技術や生活の術はなく、貧困に喘ぎ、乏しい食糧不足の中で粗餐そさんを食む。

 まるで荒ぶる暴風に抗えず巻き込まれるまま、乾いた大地を必死に這いずり回ってでも辛うじて生きてゆく。

 この真っ只中では、ただただ耐え忍ぶしかない――昏迷極まる黎明期であった。


 この天地に属するは、人間と亜人、竜人族ドラゴニュート獣人族ライカンスロープ妖精フェアリーなどの知能を持つ人型生物、片や知能を持たず異形を成す怪物モンスターどもなどが多種多様に存在する。

 その中で最も際立たせるは、知性を持ち、膨大な魔力と暗黒魔術を武器に、全世界を席巻して支配する規格外生命体??そう、魔族であった。


 魔族に比べて人間は、他の亜種と比べて魔力は劣り、体格も脆く弱い。よって他とは異なり為す術がない。だがその中で残された武器はただ一つ。


 それは人類の智慧であった。


 智慧とは禁断の果実。偉大なる魔力か、無限に続く智慧との鬩ぎ合いか。

 故に人間と魔族は、数百年以上の長きに渡りなお争いが続くことになる??のちの伝承にて吟遊詩人バードが謳われることとなったその名は、聖魔戦争である。


 この物語は、のちの歴史書の中、たった一節のみ残されていた、誰しもが名もなき辺境の闘食奇譚である。

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