デバック系ダンジョン配信者
ソル
第1話
近年、突如として出現した巨大な建造物。
内部では謎の生物――モンスターが徘徊し、罠や仕掛けなどが仕掛けられ、物理法則までもが捻じ曲がる。
その建造物はダンジョンと呼ばれるようになり、ほとんどが政府の監視下に置かれることになる。
しかし、その中には魔法という技術や、現代では見つかっていない希少な鉱物など、人類にとって有益な資源が多く眠っていた。
そのうえ、中で致命傷を負った人間は、入り口に戻されるもののそのまま死に至ることはないという特徴が見つかったことで、公営のアトラクションのようなものとして政府が運営することになっていった。
流行りに敏感な配信者たちは、命の危険のない場所ならば……と次々にダンジョンへ突っ込んでいき、その様子を魔法によって配信し始める。
世はまさに、ダンジョン配信時代。一大ブームとなったそれに乗っかるように、色々な配信者が現れ、それぞれが様々な配信を行っていく。
単純にダンジョンを攻略していくもの。一定の縛りを設けて攻略していくもの。炎上を狙い、ほかの配信者を襲撃しに行くようなものもいた。
……そんな中、異彩を放つものが一人。
『はいどうも皆さん。デバック系配信者の除錯器です。今回は、また個性的なダンジョンを視聴者の方に教えていただいたので、バグの検証しつつ潜っていこうと思います』
『では、ダンジョンに入って……おっと。はい、これが例の重力逆転ですね。ここは重力が無茶苦茶になっているダンジョンで、近くにあるスイッチをおしたりして重力を変動させながら進んでいくみたいです』
『んー作りこみが甘いなこれ。 重力制御にミスがあるからボタンの押し方とか押す回数次第では…… おっ? 上手く
○草
○バグ発見が早すぎるだろ
○何が見えてんだコイツ……
「やめて、お願いだから滅茶苦茶しないで……」
バグ。プログラムを書いた人間であれば、一度は経験するであろうそれ。
システム自体に重大な被害をもたらすものもあれば、誰も気づかないようなものもあり、笑って流せるようなものもある。
開発する側からしてみればこれほど忌々しい存在もないだろう。見つけようと思ってもすべてをあぶりだすのは不可能に近いし、発見したらしたで修正がめんどくさい。
当たり前だが、バグなどというものは存在しないほうがいいのだ。開発者にとっても、使用者にとっても害にしかならない。……普通であれば。
だが、好き好んでバグを発生させようとするものも存在する。
例えばRTAなどでは、あらゆるバグを検証しタイムの短縮のために動いている者もいる。
笑いながら横に落ちていく男も、つまりはそういう人種であった。
「何よデバックって!誰もそんなこと頼んでないでしょ! ……あー! 頑張って考えた謎解き!」
このダンジョンの製作者である神見習いの少女、セレンが金切り声を上げる。
彼女が見ている画面では、一人の男がダンジョンの攻略配信を行っていた。……作った者が全く想定していないやり方で。
完全にギミックを無視した方法で攻略されていくのは、彼女が数百時間かけて作り上げた自信作。
彼は、ダンジョン内の物理法則や単純な謎解きなど、少しでも取っ掛かりがありそうなものなら所かまわずバグらせ、その様子を配信することで人気を得ている配信者だった。
「ていうか何なのよコイツ! 人が何年もかけて作った傑作なのにー!」
人間側には知られていないが、ダンジョンは世界を管理する神々――の見習いがこれから作り出す世界の練習として作ったものである。
物理法則はしっかり機能しているか。独創性はあるか。人間を楽しませることができているかなどの事柄をポイントとして換算し、最終的にポイントの多かった者から神としての格付けが上がっていく。
問題は、そのポイントは全体で通知され、自分がいま何位なのかもしっかり通知されることだ。
要は、神見習い同士のこの先神として成長したあとの
こんな形で全世界に放送されているとなればなおさらである。
『お、でかい扉。中は……ボスモンスターみたいですね。なかなか強そうですが、今ならいくらでもやりようがあります。先ほど重力制御の機能を操れたので……、
はい、部屋の重力をあちこち反転させて壁や天井にボスをぶつけています。ダメージもしっかり入ってるみたいですし、たぶんこのまま倒せそうですね』
○意味わからん技術
○草
○ボス何が起こってるかわからない表情してて可哀想
○真面目に戦ってやれ
「ああ、もう勘弁して……」
『うーん、時間もいいところですし、そろそろ終わりにしますね。見ていただいてありがとうございました』
「はあ、はあ、やっと、終わった……」
開発者にとってバグをさらされるというのは、テストで間違えた問題を全校生徒の前で解説されているのに近い。実質公開処刑である。
配信自体は最後まで見ていたものの、動揺しすぎて途中から過呼吸になっていた。
「う、誰かからメール来てるし……」
自身のスマホに来ていた通知を確認すると、そこにはこんな内容が。
『やあやあ、君のダンジョンの配信すごいことになってるね! 数万人が見てたらしいじゃないか! 話題性だけはナンバーワンだね、羨ましいよw』
「キーッ!あの陰険女ー! いっつもいっつもこっちのことバカにしてー!」
メールを送ってきたのは同い年の神見習い、ミラ。 セレンとは神学校時代からの付き合いで、こうして煽ってくるのが日常茶飯事だった。……まあ、セレンの方も事あるごとに彼女を煽っていたので、はたから見ればお互い様だったのだが。
数時間後。悔しさからふて寝していたセレンだったが、ダンジョンを何とかしなければ将来が危ういことは変わらない。
どうしたものかとしばらく頭を悩ませていたが――
「……あっ!いいこと思いついた」
そうして彼女は、自身の神力で作り出したPCを使い、除錯器に向けてこんなメールを送った。
除錯器さん、こんにちは。
いつも楽しく見させていただいてます。
○○の××にあるダンジョンにもバグがあるらしいので、行ってみてはいかがでしょうか。
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