一章 三話 運命の出会い
(そろそろ例のミーシャーナという娘は母上との謁見に
乾《ほ》し
(母上の意向を最大限に
リレイナ自身にも好ましい選択ではある。だが何故か今日は着飾りたい、着飾るべきだと
となると実務に傾倒した姫君には何が正解なのか全くわからない。国の威光を示すべき公務ではない日常の装いにおいて
しかしそのある種の剛直さは今になって全くもってリレイナ自身を追い詰めている。いざ年頃の娘らしく着飾ってみようと思ったのに、適切なコーディネート以前に
より良い為政者たるべく生きてきたことが貧しい価値観に
「殿下!今日から新しい侍女を迎え入れることになっているのですよ!そんな質素な服装で…」
「すまん、わかっている。今日来るのは単なる侍女では無くて母上が選んだ一種の客人であるという事も。だが、レーンドの世話をさぼる訳にもいかんのでな。それでさらに迷惑をかけるのだが…」
「まさか客人を迎えるのを私に任せるというのではございませんよね⁉」
「違う違う、特別な客人だから普段のなるべく質素にしている衣裳では無くて少し着飾ってみたいという気になったのだが…
「まぁ!」
「重ね重ねすまん、言ってみただけだ。忘れてく…」
「いいえ、違います!殿下がそのような事に関心をお持ちくださったというのがこのセーランにはとても嬉しゅうございまして…ご安心ください、殿下がいつか気紛れを起こしてくださることを夢見て、わたくしの私費でお似合いになりそうなお召し物を取り揃えてございます!」
リレイナはある意味で母にも並ぶ付き合いの老侍女の入れ込みように
やはり自分は母上の娘なのだなと一番気に入った
その様子を見てなにやら勘違いしたらしいセーランが声を掛けてくる。
「殿下、実際には客人とはいえ侍女として入ってくるのは間違いないのです。栄えあるシャグナートの王太子が女一人にそんなに緊張するのもいかがなものでしょう」
「む?確かに妙に気にかかってはいるが…ああ、違う違う。こんな見事な服など普段身に
「まぁ、殿下ったら!お気になさいませんように、殿下が毎日所望なさっても良いようにまだまだ取り揃えてございますよ」
「うむ…ひょっとして今まで
「左様でございますね…」
セーランとの会話が弾みかけた所で、
「殿下がお許しになりました。お入りなさい」
「失礼いたします」
セーランがリレイナ付侍女の筆頭として招き入れると、ややかすれたしかし熟練の楽師の
最初にリレイナの
銀色の娘はしゃなりしゃなりと歩を進めると、リレイナと言葉を交わすにはやや遠い距離で膝を突いて貴人に対する礼を取る。
リレイナの部屋の時が止まった。
聡明と果断双方を兼ね備えると
「顔を…」
しまった、声が裏返った。慌てて咳払いするとまるで即興劇に放り込まれた大根役者のような棒読みで取り敢えずやり直す。
「顔を上げなさい、リレイナがそれを許す」
「はい、リレイナ様」
再びリレイナを魅惑する
「
「は?」
「いえ、何でもないわ…良い、楽にせよ」
「楽に。立ちなさい」
もう一度リレイナが声を掛けてミーシャーナはようやく立ち上がり、一旦背筋を伸ばすともう一度立礼をほどこす。
「お初にお目にかかります、リレイナ様。ティアマト神より全てを受け継がれたメセナハトの
「ロシナンテ
「畏れ多いことでございます、私などリレイナ様の
「型通りのやり取りは良い。
礼法に則ってミーシャーナが挨拶しようとするのをリレイナは
だがそれだけではない。才気煥発ではあるが
(
「本当に遠い所を良く来てくれた。砂漠の旅は辛くはなかったか?そなたは体が弱いと聞いて少し心配していたのだが…」
「お気遣いいただきありがとうございます、リレイナ様。ご覧の通り生まれつき色素が薄いために夏の日差しは苦手ですが、さほどの事は。母が良く気を配ってくれたためか、この歳まで大した病も無く健やかに。旅はむしろ今まで見た事も聞いたことも無いものが途中で見られて楽しいほどでございました」
「そうか。
実際に少し心配していたことに触れると、屈託なくミーシャーナが応える。もちろんしっかり準備していたからこその気楽さもあろうが、本人の好奇心の強さもそうさせたのだろう。そういう気性ならば王宮での新しい暮らしもすぐに馴染むことだろうと内心でリレイナは
「さて、ではそなたのこれからについても話しておこうか。セーラン」
「はい、殿下」
「この者が
「さようでございます」
「うむ、故に王宮の全てを知っていると言っても過言はない。しばらくはこのセーランに
「よろしくお願いします、セーラン様」
「ミーシャーナ様、職務上は貴女様の上司となりますがわたくしは単なる平民。
ロミオ―サが王宮生活に付いてどう説明したのか、ミーシャーナは特別な立場に置かれたことに今更ながらに気付いた様子で戸惑い、リレイナとセーランを交互に見比べている。
「先ほど
「ありがとうございます、リレイナ様…リレイナ様の良き友となれるよう精一杯努力いたします。ティアマト神の祝福がありますように。セーランもよろしくね」
最後だけ型通りの初対面の挨拶を終えると、ミーシャーナは運び込まれた荷物を確認するようにとセーランに最初の仕事を言いつけられて、侍女たちが生活する部屋へと下がっていった。彼女が退室するとリレイナは少し肩に力が入っていたことに気付く。
(妾《わらわ》がこんな調子ではミーシャーナもやりづらいだろう、気を付けねば。それにしてもこの歳で突然妹が増えるとはな)
これからの生活が華やぐという予感を覚えてリレイナは湧き立つ心に任せて勢いよく立ち上がると、母にミーシャーナの第一印象を伝えるために女王陛下が執務中かどうかを確認するべく王宮の公的な区画へと歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます