第20話 大人たちの時間

「ふうー。」


 鼠色の煙が空を舞う。


「いやー。それにしても私の弟子は随分と活躍するようになったものだねえ?」

「そう思わないかい?唐松クン。」


 地雷系のメイクをした女は、耳につけたピアスを揺らしながら唐松と呼ばれた男にスマホの画面を見せる。


「……」

「あれ?唐松クーン?」


 反応のない唐松に「おーい」と顔の前で手を振り、反応を確かめる。


「…すみませんタバコ臭かったので。」


 唐松は顔をしかめて鼻を抑えている。


「アハハ…ひどいこと言うなあ。おばさんショックだよ。」

「…貴方はおばさんではないでしょう。」


 無表情ながら若干呆れたトーンで返事をする唐松がスマホの画面を見る。


「…!蓮枯勇也君じゃないですか。面識あったんですか?」


 いつもの無表情が崩れ、少しうれしそうな顔になった唐松に、女は目を丸くする。


「私としてはキミが彼のことを知っていることに驚いたよ。」

「オレは一度、彼とお茶してますから。」


「むむっ…いつの間に。私の弟子も隅に置けないな…」

「初回の彼の配信見てないんですか?最後にオレ映ってると思うんですが。」

「いや~。私あの時忙しくてね…配信はリアタイ勢だからなるべくアーカイブは見ないようにしてるんだよ。」


 「あ、勝った。」とスマホの画面を見ながら嬉しそうに笑う。


「…それよりも、蓮枯君は貴方の弟子なんですか?」


 男は再度タバコを吸い始めた女にそう聞く。


「ああ…私が彼に直接探索者の知恵を教えたわけではないんだが、彼の幼少期によく遊びに行っていてね。その時にいろいろと教える機会があったのさ。」


 だから実質的に私の弟子。そう付け足しながら懐かしそうな顔をする。


「……」


 そんな時、ガチャリと喫煙室の扉が開く。


「あんさんら、盛り上がってるとこ悪いけど、邪魔すんで。」


 似非な関西弁で入室してきた男。それに少し遅れてもう一人入ってきた。


「あ、お、お邪魔させていただきますぅ…」


 気の弱そうな男だった。


「おぉおぉ、野郎ばっかだねえ。」


 女はケタケタと笑いながらタバコの灰をトントンと灰皿に落とす。


「あんたが言いはります?それ。」


 いつの間にやら取り出したタバコを銜えながらそう言うのは狐目でどこか胡散臭い顔をした男。


「あ、あんまりそんなこと、言わないほうがいいよ。吉田くん。」


 少しどもりながらも狐目の男に注意する男は、女のような顔つきにたれ目。それに加えて声もハスキーな部類に入るため、庇護欲をそそられる容姿をしていた。


「片岡クン、私は気にしていないから別にいいよ。それよりも、一本どうだい?」


 ナインスターと書かれた箱から一本取り出し、片岡の手に渡す。


「せ、先輩が言うなら、一本いただきます。」


 そうして手の指から火をボッと出し、タバコに火をつける。


「いやー。君のその炎。便利だよねぇ。一家に一台必要なレベルなんじゃない?」

「そろそろぼく専属のライターにしよか迷うとったところどす。」


 煙をフーッと吐き出しながら狐目の男。吉田はそう言う。


「ところで、唐松はんはタバコ吸わへんのになんでおるん?」

「…いちゃダメなのか?」


 やや険悪な態度で返す唐松。吉田とそこまで仲が良くないようだ。


「いちゃあかんなんて言うてへんけど、ゆーしゅーな唐松はんがここにおるんは少し場違いとちゃいます?」

「…ダンジョン攻略数この中で一番少ないお前が何言ってんだか。」


 チッと舌打ちしながらそう毒づくのは唐松。


「ええ?万年A級のあんたがS級のぼくに何言うてんのん?」


 それに対して吉田も見下すような態度で返す。


「残念ながらオレは申請していないだけだ。お前と同じだと思われたくないからな。」

「あ?」


 火花を散らす二人から少し距離を置き、女と片岡は話していた。


「あちゃー…また喧嘩始まっちゃったか…」

「そ、そんなに仲悪いんですか…?」


「うーん…昔は仲良かったんだけどねぇ…」

「は、はあ…」


 そんなことより、と話題を変え、五分ほど女は弟子である蓮枯勇也について語る。


「さて、そろそろ私は戻ろうかな。弟子の布教もできたしね。」


 そう言って女がタバコを握ると内部でチャプッと水につかる音がする。


「じゃあ、私は一服できたし、あとは頼んだよー。また飲みにでも行こうね。」


 女はそう告げるとそそくさと部屋から出て行ってしまった。


「ちょ、ちょっと…」


 部屋に残されたのは口喧嘩をしている二人と一人。


「…どうしよう。これ。」


 片岡はもともとそこまで強くない胃を痛めるのだった。

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