ダンジョンって戦えるんか?せや!探索者なったろ!

ゴンザレス次郎

一章 ──ダンジョン それは迷宮

第1話 ダンジョンに巻き込まれる

「ハァ…ハァ。」


 息を切らしながらも必死に走り続けるおれこと蓮枯 勇也はすがれ ゆうやは死にかけていた。


「ま゛て゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛!」


「待つわけねえだろボケがぁ!」


 薄暗い廃墟の中、背後から追いかけてくる白装束の女。そいつから全力で逃げている最中であった。


 今おれが迷い込んでいるの廃墟はダンジョンなのだが、二種類ある中でもイレギュラーに分類される偶発性のダンジョンだ。


「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!」


 偶発性は何よりも中で出てくるモンスターや怪異の質がべらぼうに高い。

 下手したら熟練の探索者でも死ねる。


「はぁぁぁ…」


 最悪だよ。まさか部活の帰り道で巻き込まれるとは。自分とは無縁だと思っていたダンジョンがこんなに身近に感じられるようになってしまうとは。


「こ゛ろ゛す゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!」


「チッ!」


 小さく舌打ちをする。あの女、どんどん距離を詰めてくる上に、目視する度に恐怖を感じてしまう。

 そのせいで一緒に帰ってた仲間はほとんど動けずに連れ去られたし、動いてたやつとも離れるしで最悪だ。


「…やるしかないのか。」


 このまま逃げ続けたとしていずれ追いつかれるのだ。もうやるしかないだろう。


 走るのをやめ、女の方へと振り返る。

 そのまま腰を低くし、足を開く。

 並々ならぬ恐怖が体をこわばらせるが、太腿を叩き、誤魔化す。


「こ゛ろ゛し゛て゛や゛る゛」


「かかってこいよクソアマがァァ!」


 女は懐から包丁を取り出し、おれの顔に切りつけようとしてくる。


「っふ!」


 頭を傾け、刃を避ける。

 ザクリと肩を切りつけられる。


「い゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」


「ぐっ…」


 女は顔をくしゃくしゃにしてさぞ嬉しそうに震え出す。

 油断している女の手を掴み、頭に3回ほど肘打ちを入れる。


「ぁ゛ぁ゛ぁ゛?」


「ハッ、寄越せよ!」


 女の手から包丁を奪い取り、そのまま腹に突き刺す。


「…?キ゛ァァァァァ!!」


 包丁を腹から抜き、頭に向かって突き出す。

 あとコンマ数秒で突き刺さる。


「…雷撃」


 どこかからそんな声が聞こえる。その直後、目の前に雷が落ちる。


「​───────!​────!」


「っはは…」


 女は声にならない声を上げながら、燃え上がり、苦しみ、やがて動かなくなった。その間、おれはただただ高揚して笑うことしか出来なかった。


「大丈夫か!?」


 気が抜けてへたりこんだ俺に真っ先に駆け寄ってきたのは見慣れた顔の男だった。


「奏太か?」


「おん、柳瀬だ」


「これ、お前がやったのか?」


 そう言いながら、黒焦げになった女を指さす。


「違う違う」


 奏太は大振りに手と首を振り、来た道を指さす。


「あの人がやってくれたんだよ。」


 その声とともに、奥から人が出てくる。


「やあ、僕は遥斗、怪我は…あるみたいだね?」


 おれらより少し低い身長の男。

 同じ学校の制服だし見覚えもある。たしか最近転校してきた新居さんだったっけ?


「おう、肩をちょっとやられたけどまあ問題ないな、そっちは大丈夫だったのか?」


「俺は新居さんに助けてもらったし全然問題なかったな。」


「じゃあそろそろ脱出しようか。」


 おれ達が話していると手を叩きながらその場を仕切る。そして、おれ達の後ろを指さす。


「あっち側に出口があると思うからね。行こうか。」


「はい!もちろんでごぜえます兄貴!」

「お前はいつから舎弟になったんだ…」


 媚びへつらう奏太に若干引きながら新居さんについて行く。


「ところでなんだが、新居さん、さっきの雷ってなんなんだ?」


 おれがそう疑問を口にすると少し笑いながら答えた。


「新居さんじゃなくて遥斗でいいよ。そうだね、あれは魔法ってやつかな。こう見えて僕は探索者だからね。」


「へえ、有名なのか?」


 おれが素朴な疑問を口にすると今度は奏太がありえないといった様子で口を開く。


「ばっか、お前HARUしらねえの!?ダンジョン配信してる!学校でも話題になってただろ!?」


 名前は聞いたことがあるがそんなに有名だったのか。


「ああ、知って貰えてて嬉しいよ、まあ残念ながら今は配信中じゃないけどね。」


 そりゃそうだろう、下校中にもカメラ回してたら怖いだろ。


「そろそろ出口だね。」


 そう言いながら数メートルほど先にある白く光っている場所を指さす。


「そうそう、出る前に行っておくけど、後ろを振り返ったらだめだからね。」

「振り返ったらどうなんだ?」


「さあ、振り返ってみたらわかるんじゃないかな。」


 そう言いながらおれ達は光の中へと溶けていった。


 ♤♠♤


 おれは二か月前のあの出来事を忘れられなかった。

 あの時の化け物と対峙した時のひりひりとした感覚、組み付いた時の高揚感がずっともやもやと残っていたのだ。


「…探索者か。おれもなってみるか。」


 探索者になり、ダンジョンに潜ればもう一度あの高揚感が得られる。ある意味一種の中毒のように追い求めるようになっていた。


「そうと決まれば情報収集だ!ダンジョン板で情報集めるか!」


 そうしていつもの掲示板へと入っていくのだった。

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