その思いは、長い時を経て

ぽんた

はるくんとの出会い

私は、大学で歴史の研究をしている。

主に日中戦争、太平洋戦争の辺りだ。

子供の頃からこの時代の歴史に興味があり、

祖父母や近所のおじいさんやおばあさんに話を聞いたりする。


1996年7月6日。

今日は、広島県の原爆資料館に来ている。

小学校の修学旅行で1度行き、

それから何度か訪れている。


原爆資料館と言うと、この人形だろう。

広島出身の方々が声を揃えてこう言う。


『実際はこんな物じゃない』

『この人形は綺麗な方だ』


それはそうだよな…と、私も思う。



資料館を出た私は、原爆の子の像を見ていた。


「ん?」


何だろう…。何度も見ている像なのに、

違和感が…


「うわぁ!!」


目を開けていられない程の強い風が吹いて、

私は尻もちをついた。



「いてて…」

「大丈夫?」


目を開けると、小学校低学年ぐらいの男の子が私を見つめていた。

服装が、現代と違う様な…。


「びっくりしたわ。

お姉ちゃん、突然現れたんじゃもん。

どこから来たん?」

「え…。広島市だけど…」

「いや、ここも広島市じゃけど」


私は立ち上がり、周りを見渡した。


「!!」


原爆ドームが…!!

周りも全然違う!!


「ね、ねぇ、今って何年の何月何日!?」

「えっと、1945年の7月6日じゃけど…」

「え、それ…本当?」

「うそをついてどうするんじゃ?」

「そ、そうだよね…ごめん…。」


男の子が嘘をついている様には思えない。


「それより、おねーちゃん怪我しとらん?」

「え?…あぁ、してないよ。大丈夫。」

「うで、すりむいとるよ」


これぐらい大したことない!

と言ったけど、男の子に腕を引っ張られて、恐らくこの子の家であろう場所へ連れて行かれた。


「かーちゃーん!!けがなおせるものなーいー?」

「晴彦!!まーたやんちゃして!!」

「ちがうちがう!!おれじゃなくて、そこの姉ちゃん!!」

「え?」


はるひこくん…って言うんだ。

晴彦くんのお母さんは、私を見て固まった。


「こがぁな人、この村におったかのぉ?

服装とかも、ぶち綺麗じゃが。」

「あ、あの…!明らかに怪しいですよね!私!!失礼します!!」

「ちぃと待って。怪我の手当ばっかしでもして行きんさい。」



「あ…ありがとうございます…」


随分丁寧に手当をしてくれた。

部屋をチラッと見渡すと、確かにカレンダーには“1945年”と書かれていた。


「あんた、どこから来たん?」

「あ…広島市です。出身は静岡なんですけど。」

「そう…。お名前は?」

「小篠凛(こしのりん)です。」

「てあて終わったー!?」


お母さんとお話していると、晴彦くんの声が聞こえた。


「終わったよ。晴彦、凛お姉ちゃんに遊んでもらいんさい。」

「りんちゃんって名前なん?」

「うん。」

「おれは晴彦!!“はる”ってよんで!」


はるくんは私の手を掴んで、勢い良く外に出た。

戦時中の広島市をよく見て回りたかった気もしたけど、

はるくんとそのお友達と遊ぶのは本当に楽しかった。

いつの時代も、子供は可愛い...。



「凛さん、お家は遠いん?」

「遠い...と言うか、帰り方が分からない...と言うか...。」


この時代には。


「そう。じゃあ、帰り方が分かるまで家に泊まる?」

「え...でも...」


食料が不足しているのに、

お世話になるのは申し訳ない。

と、1度断りを入れましたが


「おれ、お姉ちゃんとまたあそびたい!!

とまっていきなよー!!」


はるくんにそう言われ、私は有難くこのお家にお世話になる事になった。



はるくんが学校に行っている間、

私ははるくんのお母さんと一緒に家事をします。


「ふぅ...一つ一つが大変...」


家にある家電は、ボタンを押せば良い物が多いので、中々の重労働。


「凛ちゃん、ありがとうねぇ。」

「そんな!お世話になるんですから、これぐらい当然ですよ!!」


そろそろはるくんが帰ってくる時間だ。


「ただいま!!」

「おかえりなさい!!」

「りんちゃん、あそびに行こう!!」


はるくんに手を引かれ、一緒に遊びに行く。

そんな日々が続きました。

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