第1話 初恋  掛け替えの無い仲間達

@undyinglove

第1章 掛け替えの無い仲間達

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                              ミスターT

 中学を卒業して初めての高校生活のためか、夕べは眠れずに過ごした。母の声で目が

醒めた。

「勇貴、今日から学校よ、入学式から遅れていく気なの、早くしなさい」

「今いくよ、ご飯は要らないから」

「駄目よ、食べていきなさい、用意してるから」

食卓には簡単に食べられるように焼いたトーストに、ハムエッグを乗せて、牛乳が用意されていた。あまり口うるさく言わない優しい母であった、父は平凡なサラリーマンで、母はコールセンターで、主にクレジットカードの顧客への確認をする仕事をしていた。

彼の名は柏木勇貴、ごく平凡な家庭に生まれた一人っ子であった。

「勇貴、お母さん先に出るね、行くときは、ちゃんと鍵かけておいてね、気を付けていくのよ」

「わかった、お母さん、行ってらっしゃい」

 本日は入学式、他の生徒はいないだろうと思っていたら、意外にも校庭を歩いていたら部活中の生徒が沢山いて驚いた。流石は運動部系で全国に名前を知られている学校だけはあると思った。その中にひと際輝く姿を見つけた、グランドを走るその姿は誰よりも美しく勇貴の心を鷲掴みにした。凍り付いたその視線は、生まれて初めての恋に落ちた、そして傍にいて、共に走りたいと切に願った。陸上部への入部を、一瞬で決意した。

翌日陸上部顧問の服部康弘先生に入部届を提出した、あまりの速さにもう少し考えるようにと言われたが、決意は変わらなかった。

 一週間後、入部希望者は二年生、三年生の前で自己紹介をさせられた、全部員で百名を超えるので、とても覚えきれないと思った。少しづつ覚えるしかなさそうだった。

当分はグランドの整備と先輩たちの使う道具の手入れと洗濯が仕事だった。ただ本格的な練習の前と後に、必ず体慣らしの為のジョギングがあった。大好きな先輩の走る姿が見れる唯一の時間であった、もちろん話などできないし、声を掛けることもできなかったが、見てるだけで、幸せな気分になれた。それから二週間後に彼女の名前が分かった、小西明日美どんどん彼女に惹かれて行くのが分かった。どんなに沢山の部員の中でも彼女を見つけることが出来た、それ程彼女は特別だった。

 翌日の放課後から色んな種目を体験させられた、一週間後各自で種目を決めるようにとの指示であった、勿論明日美先輩と同じ種目を選んだ、将来は明日美先輩と同じようにマラソンをやりたいと思った。

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 4月も終わりに近付いた頃、学園内で他校との練習試合があった。一年生は掃除と準備、さいごの片づけまでは、見学しておくようにと、部長さんからの指示があった。勇貴は明日美たちの練習をコッソリ見つめていた。明日美の走る姿は、純情な少年の目には尊く輝いて見えた。試合に出ているのは殆どが三年生だったが、期待されているのか、何と二年生の明日美も試合に出ていた。確かに他の二年生に比べると早かったが、全国に通用する程では無かった。一通り練習が終わりお昼になった。午後も二時間ほど合同練習が有ると部長の指示があった。一年生はグランド整備をする様に言われたのだった。勇貴は明日美たちの傍に居たので、二人の話し声が聞こえてきた。

「明日美君弁当どないしたんね、今日は飯抜きか、まさかダイエット中……」

「違うは、バスの中に忘れたのよ、愛するお弁当はバスで遠くまでお出かけしたの」

「弁当に振られたんかい、可哀想にのう、ほれ梅干しでも喰うか」

「なんでやねん、いらんわ」

勇貴は二人の会話を聞いて、有りっ丈の勇気を振り絞って、明日美に声を掛けた。

「あのう、小西先輩、弁当無いんですよね、此れどうぞ、迷惑でなければ食べて下さい、母が作りすぎて二つ持たされたんです」

「え、いいの、有難く頂きます。え~と誰だっけ」

「はい、柏木勇貴といいます。宜しくお願いします」

「おお~可愛いのう、後輩君やな、明日美のファンか」

「…… 」

「図星かいな、顔真っ赤にしてから、ほんま可愛いのう、食べちゃうぞ」

「裕子、いい加減におし、可哀想でしょ、勇貴君一緒に食べましょう」

「おお~すげぇぞ、凄い豪華版じゃ、わしの弁当が霞んで見える、お坊ちゃま、お母様はとても料理がお上手なのね、それともお手伝いさんかしら」

「裕子先輩、お手伝いさんなんかいませんよ、母の手料理です。料理好きなんです」

「ほんまに、わし食べるの大好きなんよ、一度お邪魔してよろしいかしら」

「家に遊びに来るんですか、いいですけど……」

 明日美と二人だと、緊張して話す事も出来ないだろうが、裕子が一緒だと、気軽に話せた。

「なんやその嫌そうないい方は、わしには明日美と言うおまけ付きやぞ」

「小西先輩は、早いんですね、裕子先輩も以外と早いんですね」

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「以外は余計じゃ、だがもっと早くならないと、役立たずのままじゃ、何かいい方法はないかのう、一粒飲んだら百馬力みたいな感じで」

「それじゃあ薬物服用で失格です。地道に鍛えるしかありませんね」

「明日美君、僕らに未来はあるのか、人間五十年下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり」

「止めなさい、ごめんなさいね、こいつ時代劇マニアなの」

「楽しい人ですね、裕子先輩、僕なりに方法を考えてみますね」

「頼もしい後輩じゃ、仲良くしようではないか、フハハハ」

「うちの部、変なのが多いの気にしないでね、此れからもよろしく、出来たら全体的な底上げ出来ないかな、陸上女子の」

「パソコン得意ですから、調べてみますね、先輩たちの為になるなら、僕も嬉しいです」

「おお~明日美君、素晴らしい助っ人ゲットしたね、どうやって口説いたの」

「何の話よ、変な想像しないで」

「明日美君も漸く女の魅力を発揮出来る様になったんだね、え~ん私にも分けておくれ」

「何言ってるの、そんなことする訳無いでしょう、勇貴君、今度の山岳練習、参加するよね、一緒に行こう、今日のお弁当のお礼がしたいの、私が弁当作ってくるから」

「いいんですか、有難う御座います」

「わしも参加していい、仁美と聖美も呼んでいい、多いほうが楽しいよ」

「お馬鹿コンビ呼んで何をする気なの」

「失敬な、わしらは美人姉妹なだけじゃ」

「時代劇ばかと昭和のアニメばかね、楽しすぎて可笑しくなりそうよ」

「まあ酷いわ、男を知らない乙女を虐めて楽しいの」

「誰が乙女よ、それに何時も意地悪してるのは誰よ」

「あのう、皆さん何時もこんなに楽しい会話を」

「少年よ大志を抱け、いや違った。人生は一度きり楽しく生きねば損じゃ」

 週末、山岳練習に参加した。男女合わせて、半数以上の部員が参加していた。

「越後屋、久し振りじゃ、元気にしておったか」

「お代官様もお顔の色も宜しいようで、本日は如何致しましょう、情報では途中に評判のホットドッグを車中販売してるそうな、如何です」

「越後屋、そちも悪よのう」

「いえいえ、お代官様ほどでわ」

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「あなた達何しに来たの、嘆かわしい」

「あれ?遠足じゃないの、楽しみにしてたのに」

「勇貴君、馬鹿は相手にしないで走りましょう」

山道を並んで走りながら、明日美を見ては、胸をときめかせていた。時々心配そうに声を掛けてくれた。その優しさにも惹かれた。明日美の走る姿はやはり美しかった。お昼には一緒に手作り弁当を食べた。何と裕子たちは本当にサボってホットドッグを貪り食ってた。

「あなた達本当に遊びに来たのね、呆れるわ」

「明日美君は厳しいのね」

「皆がどれだけ待ったと思ってるの」

「ごめんなさい、もうしません、え~んママが怒る」

「こいつ、殴ったろか、え~い早くバスに乗んな」

バスを降りて、皆思い思いに帰宅の途に就いた。

「ただ今」

「お帰り、どう楽しかった」

「うん、景色も良くて、とても気持ち良かった」

「大分慣れたみたいね、学園生活楽しんでね」

その夜、来週から始まる楽しい練習が待ち遠しくて、眠れぬ夜を過ごした。日ごとに募る想いに心を焦がしたが、届かぬ想いでもあった。

月曜日、彼女と初めての練習に心を弾ませながら準備していた。

「勇貴君、今日からよろしくね、あ、裕子も一緒だから」

「明日美、弟子にしたの、それとも使い走り」

「失礼な子ね、そんな訳ないでしょ、一緒に練習するのよ」

「あら、珍しいわね、あんまり仲間と走りたがらないのに、どうしたの」

「この子は、特別なのよ、私と同じ少しの酸素で運動ができる特異体質なの、つい嬉しくて誘ったの」

「なるほど、そう言う事ね」

「仲島先輩、よろしくお願いします」

「じゃあ、ジョギングやって、勇貴君にタイムとって貰おう」

三人はジョギングの後、校庭の外苑四百メートルを五周するコースのタイムを計ってみた。

「仲島先輩、思ったより早いんですね」


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「勇貴、余計なことは言わないでよろしい、私たちは駿足姉妹と呼ばれてるのよ」

「先輩、僕呼吸法とかランニングフォームとか、研究してみます、もっと早く走れるかもしれませんから」

「裕子、色々試してみるのもいいかもね」

「そうね、じゃあわたしたちで、陸上部全国制覇一番乗りやっちゃう」

「裕子、大きく出たわね」

「先輩、夢は大きいほど叶うって言いますから、いいと思います」

裕子は話し好きで聞き上手でもあった。相手の話を聞き出すのも上手であった。勇貴は裕子のおかげで、緊張することなく話ができることに感謝した

「よっしゃー!じゃあ一周のタイムを三人で計っておわりにしよか」

 8月に入り、眩いばかりの日差しと暑さに辟易していた。暑さも彼岸までと言う定説も最近では役に立たなくなった。厚さは走る者にとってかなりの負担となる、お盆前に勇貴たちも身体を慣らすため、暑い中走りこんでいた。今日は明日美は、生徒会の行事で参加していなかった。

「勇貴、今日は外苑5周2㎞のタイムを計って終わりにしましょう」

「先輩、例のフォームを試しましょう」

「OK」

二人は走り出した、そしてゴール間近で、突然勇貴が倒れた、突然の事でパニックになり、慌てて救急車を呼んだ。病院で貧血と診断された、医師は土曜日にもう一度検査に来るように言った。

「ごめん、つい慌てちゃって、でも勇貴、軟弱だぞ貧血なんて、ちゃんと鉄分取りなよ」

「僕のほうこそごめんなさい、驚かせちゃって、鉄分て何を食べたらいいですか」

「決まってる、鉄を食べたらいいんだよ」

「鉄、食べられるんですか」

「アハハ!そんな訳ないでしょ、勇貴、真面目だよね、すぐ真に受ける、そこが好きなんだよね、えーとね、確か緑色の野菜、ほうれん草とかにらとかモロヘイヤなんかもいいんじゃないかな」

「なるほど、よくわかりました」

「勇貴、今日のことは内緒ね、大病でもなかったし、明日美に知れたら馬鹿にされそう」

「分かりました」

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 土曜日、再検査のため朝から病院へと出かけた。予約していたので、検査は直ぐに終わった、しばらくして先生に呼ばれた医師の名は橘誠吾、瘦せ型で優しそうな人だった。

「柏木勇貴君だね、結果から言います。貧血ではなくて、先天的に心臓の血管が細く、心臓に負担がかかると先日みたいに倒れたり、胸に激しい痛みを感じたりといった症状が出ます。限界を超えると心不全、心筋梗塞などを引き起こす可能性があります。但し激しい運動をせずに普通の生活をやってれば、何の問題もありません」

「先生、僕は陸上部の部員なんです。走るのを止められません、どうしても走りたいんです。走るのはダメですか」

「運動量にもよるけど、走ることはかなり心臓に負担がかかります。あんまり感心しませんね、特に短距離走、マラソンはまず無理です、死ぬことになります」

「先生、どの程度までなら走ることが出来ますか」

「それは計測してみないと分からないけど、先ずはご両親に連絡して、今後のことを決めましょう」

「駄目です、絶対に知らせないで下さい、お願いします」

「何か訳がありそうですね」

勇貴は先生に全てを話した。どうしても彼女と走りたい旨、生き甲斐であり、人生の全てだと、先生に縋り付いて懇願した。

「先生、両親に知られたら、やめさせられます。先生の言う通りにしますから、決して無理はしません、誓います」

「本当に真剣なんですね、初恋か僕も苦い経験があるから応援してあげたい、明日もう一度ここに来てください、スポーツ選手のリハビリとかやる施設があるから、押さえておきます。色々測定してみましょう」

「先生、高校生にそんなお金ありません」

「そんな心配はいらない、言っただろう、初恋の手助けだと」

「先生、有難うございます」

「ただ結果次第では色々約束してもらいますよ」

 日曜日、朝から施設のなかで準備に勤しんでいた。

「先生、おはようございます」

「おはよう、そこに座って待っててくれ、久しぶりなんで、手こずってる」

「はい、よろしくお願いします」

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 先生は、運動量と心臓への負担を色んな動作と運動で計測していった。

「先生、色んな機械があるんですね、初めて見ました」

「いい勉強になっただろう、何か知りたいことがあったら、何時でも来なさい」

「先生、走る時のフォームと呼吸法の因果関係とか、呼吸とフォームの最適な数値の測定とか出来ますか」

「これはまた、いきなり難しい質問だね、本格的だね、走る時の完璧なフォームの検証だね、いいのがあるトップ選手の映像から検証してみたら面白いかも、後でフォーマットを貸してあげるから、自分でやってみたらいい、パソコンは持ってる」

「はい有ります。是非やってみたいです」

「結果をいう前に勇貴君、君は普通の人の半分ほどの酸素量で同じ運動ができる゛特異体質と言うやつだね、このことを考慮しても一時間程度が限界ですね、しかも前後に運動をしていないと言う事が条件ですね、診断書を出しますから、先生に言って体育の授業も休んでください、喧嘩もご法度、通学もバスに乗るようにして下さい、約束ですよ」

「分かりました、約束します」

「それから、少しでも心拍に違和感を感じたり、身体に異変を感じたら、直ぐに知らせて下さい、絶対に無理はしないと約束して下さい、いいですね!」

「分かりました、誓います。絶対に無理はしません」

「それじゃあフォーマットを渡すから、私のオフィスに行きましょう、それからこう言う運動時にわ、この時間で血流量が最大になると言う詳しい資料を作っておきますから、確か県立福岡南高等学校てしたね、練習も見たいし届けてあげますよ」

「先生、何から何まで有難うございます。これからもよろしくお願いします。」

「勇貴君、青魚とか酢の物を食べなさい、お母さんに作ってもらいなさい、少しは負担が減ると思います」

「はい、お母さんにそれとなく、頼んでみます」

「ところで勇貴君、一緒に来てた子は、初恋の人じゃないんだね、結構美人だったけど、もっと美人がいるということだね、そりゃあ楽しみだ」

「先生、いったい何しに来る気ですか」

「若い子に会うのは、おじさんの楽しみだよ」

「目の保養に来るんですか」

「ははは、悪いことはしないから、安心しなさい」

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 九月に入っても暑さは一向に衰えず、連日の猛暑日に辟易していた。ランナーにとっても過酷な練習に気がめいってしまうありさまで、皆木陰で休んでばかりの有様であった。

「本当に暑いわね、一番暑い時間から練習なんてあんまりだわ」

「裕子先輩、授業終わってからの練習だから仕方ないですね」

「ところで勇貴、貧血は良くなったの」

「はい、先輩に言われて鉄を食べてますから」

「おぉ、冗談が言えるようになったんだ」

裕子は指を立てて見せた。

「あなた達、何時からそんなに仲良くなったの」

「実は明日美が居ない間にやっちゃったの、私たち」

「な、何を」

「タイムトライアルやって、燃え上がったんだよね」

「それだけ」

「明日美、何を期待してんのよ、、そんな訳ないでしょ、この子わ明日美のことが、好きみたいだよ」

「先輩、何言ってるんですか」

「顔、真っ赤にして、可愛いわね、勇貴は、ついいじめたくなっちゃう」

「裕子、やめなさい可哀想でしょ」

「明日はどうする、雨降らないかな」

「先輩、実はフォーマットを借りて、過去に優勝した選手、記録保持者などの映像データから呼吸法とフォームの関連性をデータ化して、完璧なるフォームとスムーズな走りを実現する呼吸を検証中です。まだ少ししかデータ化できてませんけど、それを元に少しフォームの改善をしてみませんか、体育館でも出来るかと」

「わぁお、本格的になってきたね、まるで本物のスポーツ選手みたいじゃない」

「裕子、面白いかも、試してみる価値はあるかも」

「大ありね、フフフ越後屋、お主も悪よのう」

「裕子先輩、何ですかそれ」

「裕子ギャグはいいから、あんた時代劇の見過ぎ、それより私たちも協力しましょう、私たちも記録や映像を沢山持ってるから、みんなで共有しましょう」

「先輩、よろしくお願いします」


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 翌日、体育館に集まった三人は、マラソン界の絶対王者と言われるケニアのエリウド・キプチョゲの呼吸法とフォームを検証していた、まずはフォームを取り入れてみようと、自分達に合ったフォームに変えて取り入れてみた。

「裕子先輩、違いますそれじゃあ手足がバラバラです、何度言ったらわかるんですか」

「ああぁ、勇貴、私を馬鹿にしてるな、余を誰と心得るひかえい」

「滅相もありません、お代官様何卒ご容赦ください」

「漫才コンビじゃないんだから、いい加減にしなさい、勇貴もこいつに合わせなくていいの、本当に直ぐ脱線するんだから」

「明日美先輩ごめんなさい」

「でもこれって役に立つの」

「自分に一番合った呼吸法とフォームを見つける、一番の近道だと思います」

「私もそう思う、とりあえずためしてみよう」

[裕子先輩、若いのに時代劇好きなんですね、オヤジみたいです]

「悪いか」

「いいえ、素敵な趣味だと思います、僕は韓国ドラマが好きなんです」

「私も好きだよ」

「へぇー意外、明日美ドラマとか見るんだ、走るの一筋かと思ってた、じつわ私も韓ドラファンだよ」

「そうなんだ、二人と趣味が同じで嬉しいです」

「韓ドラと言えば、やはり冬ソナだよね」

「ぼくは、会いたいとかごめん愛してるみたいな、泣けるドラマがすきなんです」

「私は、私の幽霊様とか主君の太陽みたいな面白い系がいいかな」

「私達って前世でも、つよい絆で結ばれてた気がするね、話題が一緒だもん、生涯友でいようぜ」

「あんたは趣味が多いだけと言う気がするけどね」

「何だと、明日美、私をのけ者にしたいの」

「ごめん、ごめん、仲良くしましょう」

「それじゃあ早速、日曜日に三人デートでもする、映画見て、買い物をしてチョメチョメ・・・勇貴頑張るんだぞ」

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最後は小声で勇貴に言った。

勇貴も小声で返した。「無理です」

「裕子、チョメチョメって何よ、変な事考えてないでしょうね」

「飛んでも八分歩いて十分、私日本語良く分からないあるね」

「ごまかすな」

裕子のおかげで、無言の多い二人と違い会話が弾んだ、勇貴も三人でいると楽しかった。

こんな日々が永遠に続けばいいと思った。

 十月に入り、少しづつ秋の気配を感じさせるようになってきた、だがまだまだ昼間は、暑かった。朝夕は涼しくなり服の調節が難しくなってきた様だった。冬の駅伝大会のための練習に勤しんでいた。

「先輩、ラストスパートに短距離走のフォームを少し取り入れたらどうでしょうか」

「短距離走とは形態が全然違うでしょう、無理言わないで、そんな走り方したら死んでしまう」

「待って、短距離の筋トレを取り入れたらどうかしら、裕子の嫌いなやつ」

「それっていじめかしら」

「やりましょう、それに合わせたフォームも考えてみます。僕は試合には出ませんけど、いっしょに練習します」

「ほんまに全国制覇を目論んでるんやね、ついてくしかないみたい」

「来週から、他の駅伝の選手、補欠もいれて十一名が合流するから、女ばかりだけど、勇貴、マネージャーやってね、部長には言っておくから」

「分かりました、頑張ります」

「勇貴、ハーレムじゃん、選り取り見取り」

「何言ってるんですか」

「顔、真っ赤にして、本当に可愛いね、お姉さんが可愛がってあげる」

「裕子、やめなさい、すぐ調子に乗るんだから」

 翌週、駅伝メンバーが合流し、大所帯になった。三年生が5名、2年生が8名の計十三名、出場する選手は5名だけなので、8名は補欠ということになる、大会の前に一番仕上がっている選手を選抜する事になるその任務を勇貴が任された。駅伝の場所は京都一区~五区距離の長い区間坂の多い区間、楽な区間などないが選手の負担の大きい区間はある。選手の能力に合わせて決める必要がある。

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 十一月に入り・冬の匂いが深まってきた、部員たちの練習にも熱が入ってきたかんじであった。勇貴はそろそろ区間別の練習に入るべきだと思った、そして日々の練習を見てきた彼は、既に部員の割り振りを済ませていた゜

「明日美先輩、皆に話をしてもいいですか」

明日美に話の主旨を話し、全員に伝える事を承諾してもらった。練習の終わりに集まってもらった。

「皆さん発表が有ります、そろそろ区間別の担当を決め、本格的な練習に入りたいと思います゜区間担当者は、あらかじめ実際の区間と似た場所を探し距離も測っておきましたその地図もコピーしてますから、後でお渡しします。では担当区間を発表します。一区は距離は短いですが下りが多く、脚力が求められます。そこで、足腰の強い中村里美先輩に補欠には小林仁美さんにお願いします。二区は一番コーナーの多い区間ですアクシデントに強い相原架純先輩にお願いします。補欠には鈴木奈穂さんに三区は起伏の激しい区間なので度胸のある高橋瑠美先輩にそして補欠には石田春美先輩にお願いします。四区は登り坂の多い区間なので山登りに強い小西明日美先輩にお願いします。補欠には仲島裕子先輩に、五区は一番距離が長いので、持久力のある飯倉洋子先輩にお願いします。補欠には戸坂夏美さんにお願いします。呼ばれなかった人はそれぞれの区間の練習に交互に参加して下さい、何が起こるかわかりませんから、よろしくお願いします。」

「おぉ~素晴らしい、もう名監督ですなぁ、勇貴殿」

「裕子先輩茶化さないで下さい」

「良く観察してるわね、性格、癖、得意分野、何でもお見通しな感じ」

「相原先輩、まずかったですか、ごめんなさい」

「馬鹿ね、褒めてるのよ」

「練習場所まで用意してるなんて、凄いマネージャーですね」

「勇貴君、此れからはコーチとしてもみんなの指導をお願い、例の呼吸法とフォームも指導してあげて、よろしくね」

「明日美先輩、有難うございます。こちらこそよろしくお願いします」

「念願のベストテン入いけそうな気がするね」

「瑠美、今年の助っ人は過去最強の助っ人だね」

「過去最強のチームになりそうだね、それじゃあ掛声を石田が行きます」

「南高、ファイトオー、南高ファイト、南高おお~、オー」

  初恋            12ペーシ

「裕子先輩、大丈夫です、その為の意識改革、環境改善、タイムを上げる為の能力向上を進めてますから、必ず結果が出ると思います」

「名コーチが言うなら、あり得るかも」

「何か褒められてる感じがして、やる気満々という感じです」

「純子までやる気にさせるなんて、流石は名コーチ、本校始まって以来の快挙になりそうだね、明日美こうなったら、区間賞取りなよ、あんたの出来次第で変わるよ」

「そうね、目標は大事ね、夢は大きいほど叶うって言うから」

 金曜日五区は距離が長く平地が多いので、ピッチとストライド走法を考えて、一番合う歩幅の検討、なるべく疲れないようにそれでいて、力強い走法を考えていた。かなり難しいがやりがいがある。

 月曜日、一区に戻って、彼女たちの走りを観察した。

「お疲れ様でした、まだ怖がってる感じで姿勢が悪いです、自分でもわかってると思いますけど、ブレーキがかかってる感じがします」

「やっぱりお見通しね」

「ブレーキがかかった状態だと、足を痛める可能性が有ります。重力に身を任せて降りてゆく感じで走ってみてください」

「成程、OKやってみるから、つぎは期待していいよ」

「分かりました、また来ますね、気を付けて帰って下さい」

 三週目を回って月末を迎えた、急に寒くなり駆け足で冬がやって来た感じだった。年の瀬も近い、あと二週間程で大会当日である。勇貴も明日美たちの応援の為に京都まで行く事にした。両親も快く承諾してくれた。大会も近いので仕上げに入る予定だったが、まだ少し感覚をつかめないチームがあった。勇貴は丁寧に説明し一緒に走って見せた、残り一週間あまり無理をすると疲れが残り結果が出せなくなる。そこで、全体練習として姿勢の矯正を徹底的に行った、いわゆる基本が大事ということを実践した。

十二月十五日大会の前日に出発した。

 大会当日、男子チームがスタートした。男子は前回と全く同じ二十八位であった。翌日女子チームがスタートした、何と一区の中村が十四位という快挙をやってのけた、皆驚きの結果に沸き立った。だが勇貴の指導の効果はこんなものではなかった。全員がタスキに賭けた一念には凄まじいものがあった。二区の相原は最後まで順位を守り抜いた、三区の高橋はゴール直前で抜かれたが、凄い気迫の走りを見せた

  初恋            十三ペーシ

 そして四区勇貴の想いか指導のおかげか明日美の才能が開花する。驚いたことに明日美は、一人抜き、又一人と何と八人のごぼう抜きをやってのけると言う快挙を成し遂げた。

そして五区の飯倉はすぐ後ろをはしっていた選手とデットヒートを繰り広げ、ゴール前で抜き去り順位を死守したのだった。福岡南高は全国7位と言う快挙を成し遂げた。ゴールではまるで優勝したかのような大騒ぎであった。勿論、明日美は区間賞を獲得した。学校始まって以来の快挙に学園中がお祭り騒ぎであった。帰りの新幹線の中でも、話題はそれしか無かった。皆、興奮冷めやらぬと言った表情であった。

「私、明日美の走ってる姿を見て、滅茶苦茶に感動しちゃった。涙が止まらなかった。走ることであれ程、人を感動させることができるんだって」二区を走った相原が言った。

「私もです」田中が応えた

「凄かったよね、まるで鬼神の走り」鈴木が言った

「明日美の走る姿、綺麗だった、人が走ってる姿を見て、美しいと思ったの初めて」

「確かに、輝いて見えた」

「やっぱり、中村さんのおかげだよね、中村さんにたすき貰うとき、いける絶対やれるって自信が沸いたもの」相原が言った。

「皆さん凄かったと思います。応援に力が入りました」田中が言った。

「いやいや、何と言っても、こちらにいらっしゃる、コーチ様のおかげ、コーチ無くして、今回の快挙は無いかと」裕子が言った

「忘れてた、確かに、仲島の言うとおりね」中村が応えた

「そうね勇貴君の存在が大きいよね、走ってる感覚が凄く楽で、全然苦しくなくて、身体が勝手に進んでく感じは、初めての体験でした、風を感じて走るとは、あんな感じなのかな、もう一度味わってみたいです」

「明日美だけ、いいな~私も感じてみたい」

「夏美、あんたには一生無理よ、いつも楽しようと思ってるでしょ、ばれてるわよ」

裕子が言った。何でもズバット言う、姉貴肌なところがあった。

「ひど~い、でもよく見てるのね」

「今回の快挙は勇貴のおかげだよね、よ~し皆で胴上げしよう」

「何言ってるの、電車の中でできる訳ないでしょ」

「勇貴、お姉さんがチュウしてあげよう」

「わぁ、裕子さん止めて下さい」

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 駅に着くと、バスが迎えに来ていて、学校へと向かった、学園内の出迎えは凄かった、一夜にして彼女たちは有名人になっていた。盛大な出迎えと校長先生の感謝の祝辞に労いの言葉は、余程嬉しかったのか、いつにもまして長かった。

「陸上部の皆さん今日は早めに帰ってゆっくり休んで下さい」

拍手で送り出された、中庭で部長の挨拶があった。

「駅伝女子、君たちはわが校の誇りです、今後も精進して陸上部全体をもりあげて行きましょう、次回の部活は木曜日からとします。それまでゆっくり身体を休めて下さい、では解散とします」

「駅伝女子集合、祝杯を上げに行くぞ、カラオケにも行くぞ」

「お酒飲むんですか」

「馬鹿者、未成年なんだぞ、ジンジャーエ―ルに決まっとる」

「え~何でジンジャーエールなんですか、コーラがいい」

「何でもいいから、行くぞ」

「宴会部長の裕子には、お手上げね」

三年生も裕子には、押し切られてしまうらしい、全員がカラオケボックスにあつまった。

「どうして、いきなりカラオケ何ですか」

「ただの節約じゃ、勇貴、主役じゃけん一番に行ったれ」

「え、何で僕なんですか゛カラオケなんて一度もやった事ないです」

「まずは乾杯、お疲れ様でした」

みんな上機嫌で、思い思いの歌を歌ってたのしんでいた。勇貴は明日美の隣りに座り、滅茶苦茶に緊張していた。隣りにいても、何も話せないでいた。

「勇貴君は一人っ子なの」

「はい、そうです」

「ご両親はなにされてるの」

「父はサラリーマン、母はパートのおばさんです」

「平凡な家庭ね、私のとこと一緒だよ」

「うちはスーパーを三軒経営してるよ、夫婦でね」

「裕子、何であんたが入ってくるのよ、あなたには聞いてないわ」

「明日美は冷たいのね、淋しいんだから混ぜて」

「さっきまでバカ騒ぎしてたじゃないの」

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