第47話 やっぱり休みって幻なのかにゃ……

 迷宮から地上へ戻ると、眩しさに一瞬だけ目を細めた。だが、街の喧騒と、ほんのり漂うパンの匂いに包まれて、自然と肩の力が抜ける。


「にゃあ〜っ……地上の空気、しみるにゃ〜……!」


「戦いが終わったって実感が湧くのは、こういう瞬間だよな」


 ミャアが両腕を伸ばしながら、通りに寝転がりそうな勢いで感動してる。俺も一息ついて、スマホを片手にアプリを開いた。


 ──【激安通販】残高:14,628テム/即時配送:ON/転売価格帯:市場連動型


 報酬を現金化したぶん、通販スキルの即時使用にも余裕がある。街での補給と調査のためにも、今のうちに準備を進めておくか。


「セリス、しばらく街に滞在しても問題ないか?」


「ええ。魔術院からの依頼報告もあるし、今回の“王器”回収は格別な成果。精査だけでも時間がかかるわ」


「にゃっふふ、じゃあじゃあ、ごほうびタイムにゃ! ささみ十本! あと肉まんもにゃ!」


「ミャア……胃袋に限界というものはないのか?」


「それ、聞くにゃ? 猫獣人の誇りを……」


「いや、もういい」


 俺は苦笑しつつ、通り沿いの店を見渡して、屋台通りに向かって歩き出した。


 今回は運もよかったし、しばらくは調整の時間に充てられそうだ──そう思っていたのだが。


 その夜、宿に戻った直後。


 ──コンコン。


「大地様。魔術院より急報です」


 ドア越しに響いた声は、宿の主人ではなかった。これは、セリス経由でしか届かない“優先指定報告”だ。


「……入ってくれ」


 ドアを開けると、そこにいたのは魔術院付きの使者。きっちりと仕立てられた上着と、無表情な顔つきが、ただごとではないことを物語っている。


「本日、王都魔術院より緊急要請が発せられました。対象──大地様、ミャア殿、並びにセリス殿。内容は、“王印に関する解析結果の早急開示と、次なる封印箇所への同行命令”」


「……は?」


「ちょ、ちょっと待つにゃっ!? もう少し、ささみ休憩が欲しいにゃっ!」


「急すぎるわ。あの杖の解析、まだ終わってないはずよ」


「それが──部分解析により、他の封印場所を示す符号が浮かび上がったとのことです。それに……前回の王器封印の周囲に存在した“黒獣”の残滓が、別の迷宮でも同時発生したと──」


「……連動してる、ってことか」


 嫌な予感が背筋を這った。封印されていた“古の王”、あの不完全な個体が、別の場所でも同調している──?


 それが本当なら、次は……もっとヤバい展開になるかもしれない。


「わかった。指令は受ける。ただし、明日の昼までは猶予をもらう。装備と物資の再調達が必要だ」


「承知しました。正式な文書は明朝届けさせていただきます」


 使者が一礼して去ると、部屋に沈黙が訪れた。


 ミャアはベッドの上でうつ伏せになり、しっぽでぽふぽふと毛布を叩いている。


「にゃあああ……やっぱり休みって幻なのかにゃ……」


「どうやら、そうみたいだな」


 俺はスマホを取り出し、リストからいくつかのアイテムを選ぶ。


「【激安通販】──《高速展開型テント・S2》《常温保存食パック・高カロリー仕様》《補助魔晶石・小型》、即時配送セットで発注」


 ──ピピッ、ピピッ。


 床の上に、音と光と共にアイテムが順に届く。すぐに使える備品を最小限にまとめて、明日の旅に備える。


「セリス。今回の指令、どう見る?」


「……おそらく、魔術院は“王印”だけでなく、“王座”そのものを探している。古代王朝の封印管理は、表に出せるような歴史じゃないはずよ」


「なるほどな。つまり、あの杖は氷山の一角ってわけか」


「その通り。迷宮に潜るほど、真実に近づいてしまう」


 俺は頷いて、荷物をまとめ始めた。

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