32話 怒り
HR、一時限目の授業、どれもどうでもいい事だった
休み時間、俺は図書室に急いだ
このタイミングで成冨陸奥護郎の読んだ事のない本に出会えれば、何かが変わる気がしたんだ
「あっ」
思わず声が出る
目の前に成冨陸奥護郎の子孫が居たからだ
「尾崎?珍しいな、お前が図書館なんて」
尾崎葉子
五十嵐千早のいとこで、同じく成冨陸奥護郎の子孫だ
「家の調べ物でね、甲塚くんは?」
「あー成冨の弓と九尾のキツネの本探してるんだ」
成冨陸奥護郎の弓は、伝説になっていて実在するって噂がある
江戸時代に子孫がその弓で、キツネを退治したって話があるんだ
「なんでそんな本を?」
「成冨陸奥護郎の事を調べているんだ」
「甲塚くんが?意外ね」
「そうか?結構前から興味あったんだよ。伝記も読んだしな」
「九尾のキツネと成冨陸奥護郎って関係があるの?」
「そういう文献があるって聞いた事があんだよ。って言うか、尾崎って成冨陸奥護郎の子孫なんだろ?」
「よく知っているね。苗字が違うから、気づく人はいないって思ってた」
「じゃあさ、成冨が江戸時代初期の弓備城一揆の主犯って知ってるか?」
一揆は成功して、真藤家は滅んで、成冨家は生き残った
「そういう話もあるって事でしょ。弓備城の主が滅んで、成冨の子孫が残ってるって昔の人が知ったら怒っちゃうかもね」
「尾崎は、なんで滅んだと思う?」
「さぁ、一揆だから討ち死にとかじゃないの」
「俺はさ、九尾が関係があるって思うんだ」
成冨陸奥護郎の弓を使ったから、一揆に成功したなんて、そんな歴史があるはずない
九尾ってのは隠語で、成冨に力を貸した何かがいるはずなんだ
成冨陸奥護郎の子孫とこんな話が出来るなんて、俺は少し興奮した
……けど
「妖怪が本当にいるって、ははは。甲塚くんって子供みたいな事言うんだね」
尾崎は笑って、俺を否定する
「そうかな」
合わせるように、俺も笑う
「なんか千早っぽい」
あははと声を出して笑う尾崎
お前は、同じ子孫と子孫でも、五十嵐とは全然違うな
たぶん成冨の血もそんなに受け継いでないんだろう
二時限目
さっきの休みは、何も気分転換にはならなかった
むしろイライラが育ってしまう
こんな事なら図書室になんか行かなければ良かったと後悔していたら、日本史の小野沢が教室に入ってすぐに面白い事を言った
「今日は授業をやめて少し夏休みのイベントを考えてみようと思う。日直、号令はいいぞ。えーと我が校には地元では有名で、全国的にまったく知られてない成富陸奥護郎と所縁があるのは皆知ってるな」
もちろん知っている
知らなきゃこの学校に来る意味すらないといえるだろ
「五十嵐の家のお寺「天双寺」と尾崎の家の「双弓神社」は古い歴史があって、成富陸奥護郎とも縁のある家……だよな、尾崎、五十嵐」
尾崎も五十嵐も軽くリアクションをする
「そして弓備城(くびじょう)、もちろん成富陸奥護郎の所縁の城だ。で夏休みは自由研究として、みんなに二人以上の班を組んでもらい街の歴史をまとめてもらおうと思う」
そうだ
これで、花屋敷に頼めば眞藤がどう思ってるか知れる機会が作れるんじゃないか
誰かに必要とされてる実感が欲しい
「泪もきっと喜びますよ」
また朝の菖蒲の言葉を思い出す
菖蒲は不思議なヤツだ
クラス委員に推薦する声もあったけど、アイツは絶対にクラスの行事には参加しないし、日直さえも受けない
昨日は西藤(さいとう)が日直だった
だから今日、本当は菖蒲(しょうぶ)だったのに
眞藤(しんどう)が日直をやっている
眞藤が日直だったのを忘れるのも、わかる話だ
菖蒲は、外国での生活が長かったから、よく分からないとかなんとか言って、二学期からはやると約束して、自由奔放にやっている
たしか部活もやってないはずだ
その割りに、クラス全員と繋がりを持っていて、分け隔てなく仲が良かった
たぶん血液型は、AB型かB型だな
俺とは別次元の生き物だ
「わかった、花屋敷さん!私と行こうよ」
小野沢と花屋敷の言い合いに、菖蒲が割り込んで、またふざけて笑いに変えている
あんな感じで生きていれば、苦労なんてないんだろうな
あんな風に軽く眞藤を誘えれば
ふと眞藤を見ると、眞藤も俺を見ている
視線はじっと俺の目を捕らえて離さない
吸い込まれそうな感覚
俺は今日だと決めていた
だから望みがあるなら
眞藤
お前が俺を望んでくれるなら
「さっき小野沢がいってた自由研究だけどさ」
いきなり眞藤だけを誘う事に抵抗を感じた俺は、恋愛脳の花屋敷にまず言う
そうすれば世話焼きの花屋敷は、放っておかないだろうからな
「街の歴史に触れた何かを提出するってやつ?陽介ならもう調べてるんだし、一石二鳥じゃない、っていう夏休み前に提出出来そう」
笑う花屋敷は、何か楽しそうではあるけど、微妙な顔をした
陽介ならもう調べてるんだしって
宿題か俺に関わりたく無いなら、そう言えばいいだろ
「そうなんだけどさ、行ってみたいんだよ……夜の兜塚公園……」
夜の兜塚公園には幽霊が出るって話がある
一揆で死んだ武将の霊だとか、九尾の妖狐に殺された霊とか
「えー肝だめししたいって事??」
「そうじゃねぇーんだけど、歴史的にも昔から夜の兜塚公園は噂があるんだよ…………一人はさすがに……」
「あらあら、陽介くんオバケが怖いんでちゅか??」
赤ん坊をあやす様に頭を撫でてくる
はっきり言って腹が立った
なんでそんな事されなきゃいけないんだ
人をバカにするのも、いい加減にしろよ
でも目的の為に、俺は自分の怒りを殺す
「……だから、頼むよ」
もう一度頼むと
「陽介のお願いなら、聞いてあげるよ。バイトの帰りに時間作ってあげる」
とすんなり承諾してくれる
「あっあぁ……ありがとう」
怒りに耐えた、自分を褒めてあげたい
「……あと眞藤も行くかな」
と鈍感なのか、わざと知らないふりをしているであろう花屋敷に念を押す
朝の事を考えたら、眞藤を誘いたいって解りそうなもんだろ
「どうだろ、一人暮らしなんだし、暇なんじゃないの?聞いてみれば」
「俺が聞くのかよ」
「はいはい、私が聞けばいいのね」
しぶしぶ重い腰を上げた花屋敷と眞藤の席に向かった
「あっ陽介くん」
眞藤の席につくなり、眞藤は俺の名前を呼んだ
話すきっかけを、眞藤の方からくれるなんてラッキーだ
「泪はさっきの小野沢先生の宿題どうするつもり?」
と花屋敷
だからお前に話しかけたんじゃないだろ
俺だろー
「んー図書館に行ってみようと思ってるけど……」
眞藤の答えに、花屋敷のリアクションも薄い
チャンスだ
「夜の兜塚公園の噂って眞藤は知ってるか?」
「えっうん少しね」
ハッキリしない
興味がなさそうだ
俺に興味が無いって事か
変な男だ、何を言い出したんだって、呆れてるのか
別に付き合いたいとかじゃないんだ
そうじゃ……ないんだ
「男女が付き合ってもないのに二人で夜出歩いたらマズイだろ」
と自分の発言をフォローする
「うん、そうだね。不審者の噂もあるし」
花屋敷がまた牽制する
「だから俺と花屋敷と………眞藤で、兜塚古墳………肝だめしって言うか、噂の検証に行かね?」
そうだよ
3人で行こうって話だ
お前に必要とされなくても……いいんだ
「えっ!?」
眞藤が固まる
そんなに嫌なのか
「ほら泪ってまだ日が浅いでしょ、この街の歴史を調べるって一人じゃ無理だと思うって陽介と話してたら、陽介も夜公園に行ってみたいって頼まれてね」
「ダメか?」
眞藤の目を見る
嫌ならなんで、さっき俺を見ていたんだよ
俺の思い過ごしなのか?
「ううん!!いいよ!!」
眞藤は裏返った声で返事をする
無理して付き合ってくれなくていい
「31日は、私バイトが入ってるから終わって……夜9時以降だけど、もし遅れるようだったら先に二人で公園ぐらいまでは行ってて、その方がバイト先から真っ直ぐ行けるし」
花屋敷が話を進める
「じゃあ、バイト先出るとき携帯に電話して」
裏返ったままの声の眞藤
そっか
演技か
いいんだ……もう
話を終わらせたい
「花屋敷、バイト終わってからじゃ、門限大丈夫なのか?」
花屋敷の家は門限が厳しい
子供を心配する親の気持ちの表れだ
俺の家なんて、何時に帰っても無関心
と言うより
俺が帰っても、引きこもりの兄が居るだけで
何も無い
花屋敷は親に愛されている
羨ましい……かもな
「門限は9時、中学の時は5時半だよ?部活で遅くなっても怒られたんだから」
「親の勝手だよね」
この二人は分かっていないんだ
それがどれだけ、幸せなのか
どれだけ愛を貰っているかを
「親なんて本当に勝手だよ、こっちの言い分なんてお構い無しで、自分が正しいって思っている事、子供に押し付けるんだもん」
自分が正しいって押し付けてるんじゃないだろ
お前がわがままを通して大人になるよりも
怒っても、泣いても、嫌われたとしても
子供を守る為に、厳しくしてくれているんだ
「親を選んで生まれてこれたら、絶対私は今の母親からは生まれなかったな。子供は親のいいなりなんて、おかしいもん」
もうやめろ眞藤
それ以上言うんじゃない
「生んでくれなんて頼んだ覚え」
俺は眞藤の言葉を遮るように、頬を平手打ちした
生んでくれなんて、頼んだ覚えない
たぶん眞藤が言おうとした言葉
それを言わせたくなかった
だから俺は殴った
母親が、子供を叱責するように
「親がどんな思いで俺たちを生んだか本当にお前わかんのかよ!!生んでくれなかったら、俺らは存在してねーんだぞ。ふざけんな!!!」
心に溜まっていた膿を吐き出すように言葉を浴びせる
気づくと俺は、屋上に向かっていた
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