21話 二人とも助けたい
日直の眞藤さんに代わって、チャイムと同時に号令をかける花屋敷さん
僕はすぐに声をかける
「花屋敷さん、あの…」
声をかけると花屋敷さんは僕を見る
あれ?
泣いたの?
目が少し充血して、力がない
眞藤さんと甲塚くんが喧嘩してショックだったんだね
「何?五十嵐くん」
「あの…葉子と菖蒲さんって何か連絡受けたりしてない?」
二人の名前を出すと、花屋敷さんは目をギラつかせる
「先生から早退の連絡は受けてないけど………綾女さんなら保健室に行ったみたい」
「ありがとう」
花屋敷さんはそう言うと「まだ話しかけるの?」って感じの雰囲気で僕を見る
「千早~ちょっと来てー」
と剛志くんが崇くんの席で呼んでいる
「あっありがとう」
僕が離れると、また花屋敷さんは座ったまま遠くを見る
崇くんの席では、剛志くんが午後の予定を考えてテンションが上がっている
「今日はあと一時限で帰れるねー」
でも会話をしてる崇くんは、目線がずっと目蓋の裏側見て、脳裏に視界の映像とは違う何かを想像している事がよくわかる
崇くんの呪術を止めないと、僕しか気づいてないんだから……
「タカくん………あのさ」
「なんだよ」
「いや……あのね……」
「ん?」
言えない
やっぱり言えない
違ったらどうするんだ
友達を疑っているなんて
しかも呪ってるでしょって言うの?
どうすればいいんだろう
崇くんも、甲塚くんも助けたい
すると教室の前のドアが開き、眞藤さんが戻ってくる
そうだ
呪術の原因は、彼女だ
崇くんの甲塚くんへの怨みの原因
「………タカくんが怒ることじゃないよ」
呪術には触れない
崇くんが怒りを抑えられればいいんだ
「俺が何を怒ってんだよ」
「さっきの……眞藤さんと甲塚くんの事…関係ないんだから」
「は?関係ない??千早はクラスの誰かがイジメられても無視すんのか?」
するわけがない
あれはイジメじゃないでしょ
「でもあれは……痴話喧嘩だし……」
崇くんがグッと口を閉める
「僕もそう思うな。崇や千早が誰かに傷つけられたら絶対に、そいつは許さないよ。でも眞藤さんと甲塚くんはじゃれてるだけなんだからさ」
笑いながら剛志くんが言う
そうだよね
もっと軽く軽く考えよう
いつもの感じで
「崇は眞藤さん好きだからな、片想いはつらいねー 」
「そうなの!?」
そうこれ
この感じでいいよね
崇くんが僕に突っ込む番だよ?
崇くん
……崇くんってば
「俺はやれる事はやる」
僕は黙ってしまう
「3人でじゃダメ?」
剛志くんまた明るく言ってみる
「……いや、忘れよう。きっと明日は元に戻ってるか」
崇くんは明るく振る舞う
嘘だ
「二人が言うように、俺が気にすることじゃねーわ」
嘘だ
「だよね」
剛志くんと崇くんはハイタッチする
嘘だよね
本当にそう思ってる?
休みの時間が終わるチャイムが鳴る
「……本当だね」
僕はそう言い残して席に戻った
4時限目も崇くんからは黒いオーラが出ている
僕が話しても、呪術をやめてくれそうにない
あぁ~どうしよう
呪いで人が、甲塚くんの命を奪うとは考えにくい
でも呪いを行った崇くんには、きっと一生の心の傷を負ってしまう。上手くいっても失敗しても、人を呪う行為を一度すれば、それを延々と繰り返し、何でもそれで解決しようとすると思う
自分の心の成長がとまってしまう
妬みとか言い訳っていうのは、そういうもんだ
眞藤さんに言ってもらうしかないんじゃない?
崇くんは眞藤さんの為だと思って甲塚くんを呪っているんだから
4時限目が終わって、HRの前
眞藤さんに崇くんと話してもらおうと思って声をかける
話す内容なんて何でもいい
何かきっかけがあって、眞藤さんが笑顔になってくれれば崇くんだって納得するはず
「あの……眞藤さん」
「なんですか?」
さっきまで泣いていたとは思えないぐらい凛とした表情で僕を見る眞藤さん
「あっ……頬は大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ?」
話題を崇くんの話題を……
「………」
「……何か?」
「あ……保健室で菖蒲さんに会いました?」
そうじゃないでしょ
崇くんを止めてもらうんでしょ
「…うん でも先に教室に戻ったはずなんだけど……?」
「……いえ、大丈夫です」
「?」
接点が無さすぎる
眞藤さんからすれば、僕らチームTなんてモブキャラ、彼女の一人称の物語には"クラスの男子"の一人しかすぎないくらいだと思う
「泪、作戦思い付いたよ」
「夏蓮……あっ」
花屋敷さんがやってき、何でここに居るんだって感じで僕を見る
眞藤さんも迷惑そう
「あっ大丈夫です、ありがとう」
不甲斐ない、僕らの日頃の接し方の問題ではあるけど
HRが始まる
相変わらず崇くんは、呪術を行っているみたい
中尾美里先生は葉子や菖蒲さんがいない事には触れない。って事はちゃんと連絡して早退したのかも
眞藤さんにも菖蒲さんにも頼れない
なら、直接甲塚くんに言うしかない
あの時、僕の話を聞いてくれた甲塚くんなら、きっと話を聞いてくれる
そして眞藤さんに謝って、仲直りしてくれれば……
崇くんは失恋しちゃうけど、僕と剛志くんで支えれば、明日もきっと楽しい世界が待ってるよね
HRが終わって、甲塚くんが帰る前に、すぐ話しかける
「……五十嵐。なんだよ」
なんだろう、甲塚くんから覇気を感じない
野生と言うか、男そのものと言うか、甲塚くん特有の力強さが
「ちょっと、話があるんだけど」
「………」
甲塚くんは何かを言おうとするんだけど、沈黙してしまう
「今日は部活休みなんだ。武道場空いてるから、そこで話そう」
「………」
「ダメかな」
「いいぜ」
良かった、話さえ聞いてもらえれば、解決出来るかもしれない
甲塚くんは鞄も持たずに教室から出ていく
「ごめん、先に帰ってて」
僕は様子をうかがっていた崇くんと剛志くんに笑顔でそう言って教室から出る
武道場は体育館のさらに奥にあって、柔道部でない限り他の生徒は近づかない
甲塚くんは入り口に座り込み、僕を見る
僕は立ったまま、甲塚くんの目を覗く
二人っきりで話すのは、あの時以来
僕は緊張で少しだけ頭が痛い感覚になってしまう
「話って何だよ」
静かに甲塚くんが話しかける
いきなり呪いの事を言っても、わけがわからないだろうし、崇くんを貶めるだけだ
「今日はどうしたの?眞藤さんと喧嘩するなんて」
「お前もその話かよ」
「ゴメン、色んな人に責められたんだね。僕は責めるつもりはないから」
「………」
「甲塚くんがあんな事したのは、理由があったと思ったから、話を聞いて何か役に立てればって思って」
「……そうか」
道場の中を見渡すように目を動かす甲塚くん
「喧嘩……なんでしちゃったの?」
なだめるように、怒りが襲ってこないように静かにたずねる
「………ついカッとってやつ。眞藤が憎くてやったんじゃない」
理由はちゃんと聞かなくてもいい
甲塚くんは反省してるから
「やっぱり、そうだよね。仲良いもん」
「……五十嵐。お前が前に話してくれた事覚えてるか」
「もちろん」
「俺は堪えてるつもり……堪えれば堪えるほど……世界が馬鹿馬鹿しく見える時があるんだ。なんでこんな事するんだ、なんでこうなったんだって。お前をイジメてた俺が言える立場じゃないけど………」
「人には色々な運命があるから」
「俺は終わらせたいんだ、くだらない運命を」
力強く甲塚くんは答える
「くだらないなんて、そんな運命はないよ。それに甲塚くん変える努力をしてきたじゃない。僕は見てたよ」
「自分をコントロール出来ないんだよ。眞藤だって守ってあげたいって思ってたのに…な」
「……………」
「………眞藤があんな事言うなんて……」
そう言ってしばらく黙ってしまう
甲塚くんの口許は、何かを話そうとするんだけど、それを堪えるように口を結ぶ
「仲直りできる?」
それを見て、僕は出来るだけ優しく問う
「さーな、お前が気にすることじゃねーよ」
「……でも」
「お前も俺に関わらない方がいい」
「……仲直りして欲しいんだ」
「それこそ縁があれば、仲直りできるし、無きゃ出来ねーかもな」
でもそれじゃダメなんだ
崇くんが甲塚くんを呪っている
告げ口しようって言うんじゃない、でも甲塚くんと眞藤さんが仲直りすれば、止める事が出来るかもしれない
事実は伝える、崇くんがって言わなければ崇くんに被害はないはず
「……呪われているんだ」
「……………なんだって」
甲塚くんが一点を見つめたまま、動きを止める
「呪われてるから……止め」
突然の鈍痛
目の前に火花がチリ、視界がぶれる
息をするのを忘れる
僕の視界はボヤけたまま、顔に何かが衝突する
その衝撃でまた視界がぼやける
畳だ
道場の畳が僕の顔に押し付けられる
あぁ僕が畳に寝ているのか
音が聞こえない
反響して頭に入らない、グワングワンと
誰が話してるんだ?
甲塚くん?
そうだ、甲塚くんと話していたはずなんだ
頭が……熱い
あれ?
誰かが水かけてるのかな
僕、またイジメられてるのかな
水が目にかかる
視界が赤く染まる
なんでだろう
目を拭かないと何も見えない
僕の頭を誰かが触る
グッと押さえつけるんだけど、敵意がない事はわかる
僕の名前を必死に呼ぶ声
その声を聞きながら、僕は目を閉じる
大丈夫
ちょっとだけ
目を閉じるだけだから………
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