第7話「三年目」

翌年、エレナは十八歳になっていた。


マーガレットは、ボーイフレンドと充実した日々を送っているようだ。


「ねえ、聞いて!彼がねお店始めたいから結婚は待ってくれって。でも、私はエレナと違ってもう今年で十九よ!」

「マーガレットそんなに焦んなくたって………」

「もう、エレナは呑気なんだから。いくらロスハーゲンでも二十歳が適齢期、二十二になったら行き遅れって言われちゃうんだから」


マーガレットの言うとおりだった。

エレナの故郷の女の子たちは続々と結婚しているようだった。

年に二回ほど来る両親からの手紙もその手の話が多い。そして、いつも決まって最後にはいつ帰ってくるのかとの文言で結ばれていた。

誰かいい人がいればその人と帰ってきて欲しいとの親心だろう。


だが、それらはまだ彼女には当分先のことに思えた。



その年の大規模討伐は予定外に順調だった。


ロスハーゲンの街も年々人口の流入が増えており、それに伴って冒険者の数も増えていっていたことでこのギルドにも強い者も所属するようになったのだ。


このままではカーティスがいなくても今後は大規模討伐を終えることが出来るのではないかと言われていた。


ダンジョンで命を落とす者もいるのでその難易度が下がることは喜ばしいがカーティスが来なくなる可能性を考えるとエレナの胸中は複雑だった。


エレナの思いに呼応したのか想定外の事態が発生した。

ダンジョンの下層の方が例年よりも活性化しており、大勢の負傷者が出たのだ。


事前にダンジョンから伝達係が送られておりギルドからテントを出して、病院の医師たちを派遣してもらう。討伐後、負傷者を担ぎ病院に運ぶもの、ギルドのメンバーで治療可能な者に振り分けていく。野戦病院さながらの状況だった。

この非常事態にギルドの受付をしている非戦闘員も皆、駆り出されていた。


またカーティスが怪我をしたのではないかと気が気ではなかったが、ダンジョンの入り口から出てきた。血はついているが、モンスターの返り血なのかギルドメンバーの介助を手伝っている。


「カーティスさん!大丈夫ですか」

「ああ、俺は無傷だ。それよりこいつを頼む。回復系のアイテムは中で使い切ってしまった」


そう言って男を置いていくと、他の者の介助に再度向かった。

お互いそれ以上会話する余裕もないまま怒涛の一日を終えた。

夜になり部屋に帰宅する。


血生臭い匂いが自分から漂っている。

溜息を押し殺してシャワーを浴びた。

こういう疲れた日は簡単な食事で済ませたい。シチューの具材が冷蔵庫にあったはずだ。


重たい体を引きずってシチューを作る。途中睡魔に襲われながらも完成した。

お皿に盛ろうとすると玄関の方から音が聞こえる。


カーティスだった。


「………すまない。………気づいたら足が向いていた」


なんで。今回はあの奇妙な約束はないのに。

グルグルと頭を疑問が駆け抜けるが部屋へと招き入れる。


「…あの、食べて行かれますか」


そう、前回よりも簡素だがシチューがエレナの手元にある。

明日以降も入院の手続きやら家族への連絡で忙しくなると予想して多めに作っておいたのだ。


「お願いしてもいいだろうか」


カーティスは黙々と食事をとった。

彼もエレナもとんでもなく疲れていた。


「あぁ、うまい」


エレナの目には彼が泣きそうに見えた。



翌日最後の討伐を終えるとその年も彼はロスハーゲンの街を去って行った。

それから、彼は毎年ふらりと約束も無しにうちに現れるようになった。




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