第23話
上級妖怪は武蔵の態度がよっぽど気に障ったらしく、今にも掴みかかりそうだ。
だが、そんな上級妖怪の態度とは裏腹に武蔵は小馬鹿にしたような態度だった。
「質問すれば返ってくるのが当たり前か?何でも答えてもらえるのか?」
「なぁぁぁにぃぃぃいいい!!!?」
武蔵の態度に上級妖怪の怒りのボルテージは、ドンドン上がっていく。
大きなマサカリは武蔵どころか、木だって一撃で両断できるだろう。
相手を怒らせれば危険なのは、武蔵だって分かっているはずだ。
「そんな事も分からないなんて、上級妖怪のくせに頭悪いんだな?」
「きぃぃぃさぁぁぁまぁぁあああっ!許さぁぁぁん!!」
上級妖怪はドスドスと部下たちの亡骸を踏み散らしながら武蔵に近づいてくる。
武蔵と比較すると、その身体がいかに大きいかわかりやすかった。
「武蔵殿っ!それ以上挑発しては危険です!!」
「大丈夫だ。こんなのたいしたことない」
薫の忠告を無視して、武蔵は上級妖怪を見下したように侮辱し続けている。
だが、その頬に一筋の汗が流れたのを薫は見逃さなかった。
「(武蔵殿も力の差が分かってるんだ!だが、あえてあんな態度を……!!)」
武蔵は自分たちと相手が正面から戦っても勝てないと分かっていた。
だから、相手の正常な判断能力を奪うために執拗に挑発しているのだ。
「こんな奴、お前の手を借りなくても……」
「死ぃぃぃねぇぇぇえええっ!!!」
武蔵の戯言を、これ以上聞きたくないと言わんばかりに上級妖怪は咆哮した。
手に持っていた大きなマサカリを振り下ろし、武蔵を両断しようとしたのだ。
「っ!?」
「武蔵殿っ!!」
もし一瞬でも武蔵に隙があったならば、彼は死んでいただろう。
挑発しながらも相手を警戒し続けていたおかげで、紙一重でマサカリをかわせた。
ドスンッ!と言う音と共に、マサカリは地面に突き刺さった。
「てめぇっ!動くんじゃぁねぇっ!!」
「無茶言うな!誰でもよけるに決まってるだろ!?」
大味なマサカリの攻撃は、威力は凄いが隙が大きくよけやすい。
喰らえば武蔵も一巻の終わりだが、彼はそんなにのろくない。
「そう言う事なら……むくろ共ぉっ!!」
「……あぁ~~……」
「……うぅ~~……」
バラバラに行動していた妖怪たちが、上級妖怪の声に応えるように集まり始めた。
そして、あっという間に武蔵たちを囲んでしまったのだ。
「こいつらを足止めしろぉ!!」
「……あぁ~~……」
「……うぅ~~……」
上級妖怪に命令されて、下級妖怪たちは急に統率のとれた動きを始めた。
さっきまでと動きがまるで違うので、薫には状況が飲み込めなかった。
「武蔵殿っ!?これはっ!!?」
「これが上級妖怪の能力だ!下級妖怪を統率する力があるんだ!!」
上級妖怪は、妖怪の中に極稀に現れる個体のことだ。
上級妖怪は言語を操るだけでなく、下級妖怪を操る事も出来るのだ。
「なきがら共よ、行けぇっ!」
「あぁ~~!!」
「うぅ~~!!」
上級妖怪の号令の元、下級妖怪たちは足並みをそろえて武蔵たちに襲いかかった。
統括された動きの妖怪たちは、今までとは比べものにならないくらい手強かった。
「でやぁぁぁっ!!」
「佐々木一刀流『鳶』二連っ!!」
武蔵たちも妖怪たちの勢いに負けまいと、気合いを入れて健闘した。
だが妖怪たちは半分の勢力になっても、なお有利だったのだ。
「だらぁぁぁっ!!」
「佐々木一刀流『鶴』五連っ!!」
おそらく武蔵たちは、先程の倍以上のスピードで妖怪を屠っているだろう。
だが死力を尽くした攻防のその瞬間、武蔵たちの足が止まってしまった。
「喰らえぇぇぇえええ!!!」
「っ!?」
上級妖怪の振り下ろした一撃は、まっすぐに武蔵に迫った。
反応が一瞬遅れたせいで、このままではよけきれない。
「武蔵殿っ!!」
「死ぃぃぃねぇぇぇえええっ!!!」
上級妖怪の振り下ろしたマサカリが、人影らしき物をあっけなく両断した。
その光景を目の当たりにした薫は、全身から血の気が引くのを感じた。
「武蔵殿ぉぉぉおおおっ!!!」
「ぐわぁぁぁっはっはっはっはっ!これで一匹っ!!」
上級妖怪は満足そうに下品な笑い声を響かせている。
悲痛な薫の叫びも、その笑い声にかき消されてしまうほどの大きさだ。
「……さん……っ!」
「ん?何だぁ?良く聞こえなかったぞ?」
薫は目尻に涙をためて上級妖怪を睨んだ。
彼女は今まで、妖怪に憎しみや殺意なんて抱いたことがなかった。
「許さんっ!例え、首だけになっても貴様を斬る!!」
「ぐわぁぁぁっはっはっはっはっ!馬鹿め、どうやってそんな事をする気だ?」
だが、今の彼女にはハッキリと目の前の妖怪を殺すと言う決意があった。
ほんの数日共に過ごしただったのに、薫は武蔵をそれほどまでに大切に思っていた。
「そうだぞ、薫?首だけになったら刀が振れないだろ?」
「……その声は……武蔵殿っ!?」
しかし薫はその声を聞いた途端、驚きと共に安堵した。
見ると、夜の闇から無傷の武蔵が姿を現したのだ。
「お前っ!?どうやってっ!!?」
「詰めが甘いんだよ。やっぱり馬鹿なんだな?」
上級妖怪には、確かに何かをぶった切ったと言う確信があった。
だが、目の前の武蔵にはマサカリの傷は全くなかった。
「武蔵殿、どうやって助かったのですか!?」
「すり替わったんだよ。すぐ隣に居た妖怪と」
武蔵はマサカリに襲われる瞬間に、自分を囲んでいた妖怪の一体とすり替わった。
体重がほぼ同じ相手と位置をすり替えるのは、そう難しいことではない。
「このやろぉぉぉおおお!一度ならず二度もこの俺様をコケにぃぃぃいいい!!」
「尊大な態度の割にセコい戦い方しか出来ないんだな?」
侍のくせに忍者のような変わり身を披露した武蔵は、再び相手を挑発した。
運良く攻撃をかわしたが、依然として戦場は厳しいのは変わらない。
「なぁぁぁにぃぃぃいいいっ!この俺様がセコいだとぉぉぉおおお!!?」
「ああ、セコいよ。そんな大斧使ったり、手下に足止めさせたり」
武蔵は安い言葉で、相手の無駄に高い自尊心を煽った。
普通だったら、こんな安い挑発に乗る間抜けはいないだろう。
「このやろぉぉぉおおおっ!!ゆるさぁぁぁあああんっ!!」
「だったらもっと強者らしい戦い方をしたらどうなんだ?」
武蔵は余裕たっぷりの表情だったが、実際は綱渡りだった。
もし相手がこちらの意図に気づけば、その時点で武蔵たちは殺されるだろう。
「強者らしい戦い方だとぉ?」
「俺はここまでの道中で満身創痍だ。簡単に勝てる、斧なんか捨ててかかってこい」
武蔵が必要に相手を挑発するその理由とは、口車に乗せるためだった。
上級妖怪と正面から戦っては勝てない。なら、正面から戦わなければ良い。
「斧を捨てろだとぉ?誰がそんな事を……」
「楽に殺しちゃつまらんだろう?俺の手足をもいで、俺が苦しむ様をみたいだろう?」
完全に見え見えの罠だが、上級妖怪にはその提案が魅力的に見え始めていた。
さっきから自分を執拗に馬鹿にした武蔵を、痛めつけてやりたいと思っていたのだ。
「……」
「手下共を下がらせろよ。一対一だ。楽しみを不意にしたくはないだろう?」
その時、武蔵はほんの一瞬だが薫に目配せをした。
それだけで彼女には、武蔵が何をしたいのか察することが出来た。
「来いよ。それとも俺が怖いのか?」
「ぶっ殺してやる!」
自分よりも小さな若造に怖いのかと挑発されて、上級妖怪の理性が飛んだ。
上級妖怪はまんまと、武蔵の安い挑発に乗ってしまったのだ。
「むくろ共なんて必要ねぇ!へへへへっ雑魚にはもう用はねぇ!!」
「……流石は上級妖怪だな」
上級妖怪の命令を受けて、下級妖怪たちがさがった。
そして下級妖怪たちは、武蔵たちを中心とした広い円を作った。
「こんなのも必要ねぇや。へへへへっ……誰がてめぇなんか怖がるか!」
「素手で戦うなんて勇敢だな。俺にはとても出来ない」
上級妖怪は、自分の得物までも投げ捨ててしまった。
これで上級妖怪は、武器も手下も失ってしまった。
「野郎、ぶっ殺してやぁぁぁる!!!」
上級妖怪は、文字通り徒手にて武蔵に挑みかかった。
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