乙女座男子、恋をする。

荒井瑞葉

第1話 通学の朝

「いってきまーす」

 俺は声をかけて、家のドアを丁寧に閉めた。

 一歩外に出れば、「戦い」は始まっているんだ。高校の生徒会長っていうのは常に四方八方に、情報網をめぐらせないとならない。このご時世だ。

「炎上」なんてもんもあるからな。

 例えば、生徒会長の俺が「歩きスマホ」をしていたとしよう。

 それを見ていた誰かが動画にあげるとしよう。

 まあまあ、炎上案件だな。

 なんて思いにふけってはいるが、いい天気の四月半ばだ。俺の気持ちもほっとゆるんで、つい口元もほころんでしまう。どこかの家からカレーの匂いがしてる。朝からカレーなのか。夕飯の残りでも温めたのかなー。とか、あそこの梅の枝にウグイスがとまってキョロキョロしてるなあー。なんて、普段は気にならないことまで、アンテナが今日はやけに敏感だった。

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