彼女を女友達にNTRされましたが、なぜかドキドキしてます。

三坂鳴

第1章 三人の日常と小さな違和感

第1話

「悠太、今日は何の曲練習してるの?」

「いや、特に決めてないんだけどさ。何度弾いても飽きない曲って、あるじゃん。」


 玲奈がストレッチをしながら笑う。

ゆるく巻いた黒髪が肩にふわりと落ちて、スタジオの蛍光灯を反射していた。


「私、ちょっと絵描いてるから、気にしないで。」


 その横でスケッチブックを抱えた真由が少し遠慮がちに口を開く。

黒髪のショートボブがよく似合う彼女は、どこか伏し目がちに見える目元が印象的だった。


「真由、また玲奈の姿を描いてるの?」

「うん。ストレッチしてる姿とか、見ててきれいだなって思っただけ。」

「そうなんだ。いつか私も、真由の描くイラストみたいにキレイに動けたらいいな。」


 玲奈が軽く背中を反らせると、真由はチラリと視線を上げて、そのしなやかなラインを見つめる。


「……いいね。そのポーズ。」


 ぽつりとつぶやいた声は、いつもの落ち着いたトーンよりも少しだけ上ずっていた。

悠太はその小さな違和感を気に留めるでもなく、ギターの弦を一度かき鳴らす。


「おっ、いい感じ。玲奈は今度のライブでステージ上で踊る予定とかあるの?」

「まさか。軽音サークルなのに私だけ踊るわけにもいかないでしょ。まあ、ちょっと振り付けを考えてる曲はあるけど。」

「そっか。それ面白そうだよね。」


 悠太は適当な相づちを打ちながら、チューニングをもう一度確かめる。

そのとき、真由が玲奈に視線を向けつつ、どことなく浮かない表情をしているのが見えた。

けれど、彼女が何を思っているのかまではわからない。


「ねえ、悠太。」

「ん?」

「私と真由、どっちが好き?」


 玲奈が冗談めかして言うと、悠太は一瞬ぽかんとする。

だが、すぐに「玲奈が一番に決まってるだろ」と笑顔で返した。


「ひどいなあ。私のことも好きって言ってくれてもいいのに。」


 真由がふわりと笑う。

そのときの笑みは、どこか寂しげなように見えた。

悠太も玲奈も、その一瞬の表情にあまり気づかない。


「じゃあ、そろそろ練習始めようか。」

「うん。私も描き終わったら聴かせて。」


 玲奈が軽快に立ち上がり、真由はスケッチブックを抱えたまま微笑む。

ごく自然に見える三人のやり取りだったが、真由の瞳に映る玲奈の姿は、少し特別な輝きを帯びていた。


 部室の空気には、仲良し三人組の楽しげな雰囲気が満ちている。

しかし、真由の胸の内には言い知れないざわつきが生まれていた。

そんな微妙な違和感を覚えるまでもなく、悠太は「三人でいるのが当たり前」としか思っていない。

けれど、この日を境に、彼女たちの関係はゆっくりと揺れ始めていく。

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