魔界転生して現世に帰ってきた女子高生ですが何か?

苑崎頁

第1話 転生した後なにか生えた

私、真島乃亜は登校途中でトラックにはねられ、魔界に転生した。


魔界を旅して、七つの大罪を冠する大魔王たちを配下にして、最強の悪魔召喚師になった。


そして、闇の堕天使の名も大魔王から頂いた。


その後、どうにか現世に再臨した私を待っていたのは、怠惰な現実世界だった。



魔界から帰り現実世界に戻って目が覚めたのは、病院の一室だった。


医者は事故の大怪我から奇跡の回復だと言った。


両親と姉は泣いて喜んだ。


私が目を覚まして、一言を発するまでは…。


「我は魔界より再臨せし、闇の堕天使ノア!我が闇の眷属たちよ心配かけたな!」


私は魔界にいた頃の話し方そのままで、声高に叫んでしまったのだ。


両親と姉は口をあんぐりと開け、医者と看護師は見て見ぬふりをした。


両親はすぐに、うちの娘は頭を打ったのではないかと医者に詰め寄ったが、医者は脳に異常はないと答えたと言う。



私は怪我の後遺症もなく、ほどなくしてすぐに退院できた。


そして、すごくつまらない学校生活が始まった。


怪我が治り、学校に登校した初日。


「我は現世に再臨せし闇の堕天使ノア!我が元に跪くがよい!」


私はクラスメイトにそう挨拶した。


事故から復帰したら、中二病になったと噂された。


噂にも飽きたクラスメイトは、私を無視しだした。


べ、別に悲しくなんかないもん!


休み時間もトイレで過ごすようになった。


もちろんお昼休みもトイレでお弁当を食べる毎日。


あまり使われていない女子トイレだから汚くないし。


そう自分に言い聞かせる毎日。



微妙ないじめにあってるかわいそうな女の子。


それが私。真島乃亜。


そんな見方もあるだろう。


しかし、そんなことよりも困ったことがあった。


実を言うと、魔界で過ごした記憶は薄ぼんやりとしかない。


思い出そうと思っても、靄がかかっている感じだ。


でも、魔界から現世に再臨して変わったことがある。


魔界で何があったかよく思い出せない。


でも、身体の奥がすぐに火照ってしまう。


花も恥じらう女子高生なのに。


まだ一年生なのに…。


なんでこんな身体になってしまったのだろう?


わからない。全くわからないのだ。


私は頭がおかしくなってしまったのだろうか?





私は毎晩何度も同じ夢を見ていた。


魔界の回廊を歩いて、彷徨っている夢を…。


内臓のような壁や床をした奇怪な回廊をあてもなく歩き続ける夢を。


私は白い貫頭衣を着ているだけだった。


壁や床は生きているように蠕動している。


裸足で床を踏むと、ブニュっと凹み、そこから透明な液体が飛び出した。


私の足元にその液体がかかる。


液体がかかった足元から身体までじんわりと浸透してくる。


内臓のように生きている迷宮。そして飛び散る謎の液体。


気持ち悪いはずなのに、私は夢遊病のようにただ歩いている。


壁からは腸に似た触手が生え、触手の先端から透明な液体が飛び散る。


私の上半身にも、その液体がかかる。


私を包んでいる貫頭衣はぐっしょり濡れた。


服も身体も濡れたまま、無心に歩いている…。


どのくらい時間が経ったであろうか?


また歩いていると、肉塊のような床に足がめり込んで来た。


ズブズブと私の足を飲み込んでいく。


あっという間に私の太ももまで飲み込んでいく。


私、もしかして食べられている!?


もがいても全然引き抜けない。


下腹部も飲み込まれる。


「はあぁっぁ…!」


あまりの気持ち悪さに声を上げてしまう私。


このまま全身を食べられてしまうのだろうか?


そんな思いさえ頭をよぎる。


瞬く間に胸まで飲み込まれる。


全身を得体の知れない肉塊に、弄られているようだ。


もうすでに顎まで飲み込まれている。


もうだめだ!食べられちゃうんだ…。


私は魔界の片隅で観念するしかなかった…。


いつもそこで目が醒める。


いつもの私の部屋。私を包み込んでいるはいつもの布団だ。


でも、全身はぐっしょり汗をかいている…。


パジャマもぐっしょり汗で濡れていた。


やっぱり頭がおかしくなってしまったのだろうか…?




またあの夢を見た。


目覚めた私は、ぐっしょりと汗で濡れた身体をベッドの上で起こした。


部屋の中は、朝焼けで光り輝いていた。


堕天使たる私は、朝日が苦手だ。


単純に眩しい光が苦手なのもある。


それ以上に新しい一日が始まる前兆なのが嫌だった。


時計を見てみる。まだ午前6時前か、起きるのには間がある。


シャワーでも浴びようかと思ったけど、脱力してしまいまたベッドに寝た。



もう晩秋だというのに、身体中が火照っていた。


私はパジャマのボタンを外した。


まだ成長していない膨らみかけの胸が、朝の冷気に晒された。


その冷たさが気持ちいい。


もうとっくに下着をつけないといけない年齢だが、恥ずかしくて買っていない。


胸を自分の手で摩ると、汗で濡れた感触でぬるぬるだった。


夢で見た肉塊に飲み込まれた感触が蘇る。


幼さの残る自分の身体を、触ってみたのだった…


魔界に行ったことが、私の身体にこんな影響を残すなんて…。


魔界に行ったことは、誰も信じてくれないけど。


親も姉もクラスメイトも誰も信じてくれない。


事故にあって私は長い間意識不明だったらしい。


目が覚めてから、いきなり中二病とも取れることを叫んでしまった私。


奇人だと思われても仕方がない。


そんな靄っとした思いを、忘れられるのが夢から覚めた時の妄想だ。


私はドキドキしたり変な妄想(中二病的妄想)したりすると…。


なんと、額がムズムズしてきて小さなツノが2本生えてきてしまうのだった。


私は、立ち上がろうと思ったのだけれど…。


なんだか、腰にまったく力が入らなくなっていて…。


ぜんぜん、立ち上がれなくなってしまっていたのだった…。


うぅ、やばい、また額がムズムズしてきてしまう…。


魔界にいたときの堕天使魔王であったときの力の残滓なのかわからない。


うれしいドキドキでも悲しいときのドキドキでも…。


とにかく感情が大きく揺れ動くと額がムズムズしてきてしまうのである…。


うぅ、この癖早く治さないと生活に支障が出てしまう…。


私は、心底困り果ててしまうのであった…。


その時、部屋のドアがバーン!と開いた。


「朝から何事ですの!?へんな声あげて何をしてますの!?」


姉だった。姉が私の声を聞きつけ駆けつけて来たのだろう。


「あら?なんなんですの?その額に生えてる変なものは…?」


や、やばい、これはマジでやばい!


しかし、私の中二病口調もあれだが、姉の口調もどうなんだ。


とんでもない状況だが、頭の片隅で冷静になってしまう私だった。

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