高校3年の卒業編~屋神リリア(3)

 女性のリングドクターはペンライトを照らして屋神の充血した左眼を確認、内容は聞こえないが何かしら問いかけているようだ。


ドクター:「私の指、何本か分かりますか?」


屋神:「1本です」


ドクター:「上下や左右に視線をずらしても痛みはない?」


屋神:「ないです」


ドクターが腫れている左瞼を触るとほんとに僅かにだが屋神は顔をしかめた。


ドクター:「だいぶ腫れたね。軽く触れただけでも痛いでしょ。ひとまず大丈夫だけど状態によっては中止もありえます」


アナウンス:「ドクターによるメディカルチェックですが、試合続行の判断がおりましたのでこれより最終第3ラウンドを行います」


一色:「今の屋神は左の視界が狭くなってるから右の攻撃は当たりやすくなる」


エビス会長:「タイミングみて右ストレートだ」


次が最終ラウンド。


メディカルチェックの数分でボディのダメージはだいぶ回復できた。1、2ラウンドは攻められたが、次は私の番だ。レイナの敵をとるって、屋神をぶっ潰すって誓ったんだ。



「最終ラウンド開始!」


ゴングが鳴ると屋神は小走りするように接近、いきなりの左ハイ。私のロー同様に蹴り終わりの足の引きが早くスピードもある。


ガードしても頭の中に響く威力だが、私は蹴り終わりに奥足へ右ローを返す。距離をつめる屋神に再度、右ローを放つ。それでも屋神は止まることなく接近すると高速でパンチの連打を上下に散らす。


一見すると右ジャブと左ストレートを顔面とみぞおちに打ち分けているようだが、もはやジャブもストレートのような威力。屋神の硬い拳から放たれる打撃は脳を揺らし、胸骨を折るような強打。

この最終ラウンドでもパワーは落ちず左の視界が狭いのにも関わらず屋神は高速で強打を叩き込む。


私はガードを前に出し、顔を揺らして打撃をかわすが、全てはかわしきれず被弾。みぞおちへの打撃は不可避、まともに喰らってしまった。

後ろや左右に避けても屋神も同じように平行移動、強打を打ち込む。


何とかしないと。


屋神は左右ストレートを顔に4発、みぞおちに2発、そして右フック。そして1歩下がると左の三日月蹴り。


一色:「右ストレート!」


レイナの声が聞こえた私は屋神の三日月蹴りと同時に右ストレートを屋神の左眼に返した。


「ダウン!」


三日月蹴りは耐えたが、屋神はさらに膝を高々とあげて私の顎を撃ち抜いた。数秒か当たった瞬間だけか分からないが私の意識は飛んだ。

レイナやエビス会長の声で目を覚ますとカウントは5まで進んでいた。


「シックス、セブン、エイト、」


またしてもカウントギリギリで私は立ち上がる。


試合はもう1分しかない。


「試合再開!」


屋神はまたしても高速強打の手に出るため接近、ダメ元で私は右ストレートを放つ。


やはり左眼は視界不良か、右ストレートはクリーンヒット。それでも屋神は私にパンチ連打、私は圧倒され一気にコーナーまで後退。


「タイムストップ!」


レフェリーが突如試合を止めた。


私のウェアは肩からお腹のあたりまで血で濡れていた。私の頬にも血が付いている。


私の血?


いや私の血ではないようだ。屋神の腫れていた左瞼からは血が流れ、屋神のウェアにも滴っている。

そうか、私の右ストレートで腫れていた左瞼が切れたんだ。


アナウンス:「屋神選手へのドクターによるメディカルチェックのため一時中断となります」


屋神の瞼から勢いよく流れる鮮血に会場からはどよめきが聞こえた。


左瞼からの流血を、ガーゼをあてて止血するドクターの顔は険しい。


ドクター:「かなりの出血ね。試合はもう、」


屋神:「やれます」


ドクター:「傷跡残るわよ。視力低下や視野損傷、最悪は失明のリスクもある。残念だけどこれ以上は…」


屋神:「既に覚悟は決めてます。この試合は立ち技最強を決める戦い。私にとって人生をかけた挑戦。後悔したくないので最後までやらせてください。その結果、例え2度と試合出来ない傷や怪我を負うことになっても構わないです」


ドクター:「少しでも血が吹き出したら無条件で止めますよ」


その後、1分程止血するとドクターは険しい顔のままリングから降りた。


アナウンス:「まもなく試合再開となります」


屋神は私を完全に仕留めにくる。


私は呼吸を整えた。


屋神は誰よりも強い。それはもう認めざるをえない。でも私は諦めたくない。それに後悔したくない、だから全力でぶつかるまで。


「試合再開!」


勢いよく迫る屋神に私は前蹴り。屋神は力強くさばき私のバランスを崩すと強打を打ち込む。私はガードを固め耐えしのぎながら少しずつ後ろに下がる。屋神は下がる私に左の三日月蹴り、さらにパンチ連打で圧倒。私は更に下がりロープを背負うと同時に、フックのごとく力一杯に右肘を繰り出す。


見事に肘は左眼へ炸裂。屋神の瞼から血が流れる。


残り30秒。


屋神は流血をものともせず私の肩に手をかけるとボディへ膝蹴り。そして頭を掴んだ。同じ手は何度と喰らわない、私は両手で屋神の顔を押し退ける。屋神は怯まず膝を脇腹へ突き刺す。

私も負けじと今までにないくらいの力で顔を押し続ける。その際に左眼にグローブが触れたのかついに屋神は私の頭から手を離す。


頭から手を離した今この瞬間、もっとも無防備な状態だ。私は右ストレートから左フック、右ストレートと3連打。面食らった屋神はついにバランスを崩した。


私はそこへタックルするかのように突進、勢いそのままロープ際まで押し倒した。


あと10秒ちょっと。もう時間がない、急がないと。


ロープを背負わすと左眼を潰すべく私は右肘を挙げた。あとは肘を振り下ろすだけ。


そうすれば私は屋神の左眼を破壊しレイナの敵をとれる。


ずっとずっとこの時を待っていた。





程なくして試合終了のゴングが鳴り響いた。

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