高校1年の秋~Bクラストーナメント
夏休みも終わり新学期もスタートして気付けば10月。合宿以降はひたすら走り込んだ。
ミット打ちでもスパーでも共通して言える課題はスタミナ不足。特に黒木とのスパーではスタミナが切れたことで集中力も落ち、もらうはずのない1発を浴びてしまったと分析している。トーナメントとなれば1日で3試合こなさくてはいけない。猛暑日も雨の日も毎朝6時に起きて私は3キロ走った。
そして迎えた『打撃王』Bクラストーナメント。
今日は練習の成果を発揮して優勝してみせる。
会場に入るなり計量を無事にすませ控え室へ向かった。
「格闘技始めて半年でもうBクラスで試合か。それも団体の運営から出てほしい! ってお願いされたんだよね」
「『打撃王』のことを知ってからは、自分でもこんなに早くBクラスに出れるとは思ってもみなかったよ。でも勝たないと、結果を出さないと意味ないから頑張る」
私はサンダージムの雷ロゴTシャツとキックパンツに着替えるとバンデージを巻いた。
「私が巻いて上げる。祈りをこめながらね」
レイナはニヤっとした。やっぱりはにかんだ時のえくぼと八重歯がまじ可愛い。
*
「よし。リラックスしてな。相手だって緊張してるんだ。焦らず顎を引いて、まずはジャブとローキックだぞ」
私はリングに上がった。
「これより、『打撃王』Bクラストーナメントの準々決勝を行います。青コーナーはサンダージム 155センチ 雷道エレナ。赤コーナーは昇龍道場 152センチ 海野リコ」
「第1ラウンド開始!」
海野はスピードのある選手だ。ガードを固めて軽快なフットワーク。中に入ると軽くジャブを当ててきた。私はローを出すもかわされる。
海野は上体を小刻みに左右に揺らしながらローを2発。そしてジャブから右ミドルキックときた。素早く動くため捉えにくいが、キックを打つときに右手のガードが甘いようだ。そこを狙う。
私はわざとジャブを出す、海野はジャブをパリングして右ローキック。そして半歩下がると右のミドルキックを出してきたので、カウンターでワンツーを入れた。近い距離になったので私は更にジャブ、右アッパー、左フックから右ローキックとまとめた。ローキックが効いたか海野は顔を歪ませた。そこへ左ボディフックから左アッパー、左ミドルと追撃した。
海野は1度下がると右ハイキック、私は上体を後ろに反らしてかわす。私はガードを崩さず前進していく。海野のジャブやストレートがきたらブロックしてロー、キックがきたらカットして即座にパンチを返した。海野の打ち終わりを狙い続けた展開で1ラウンド終了。
「いいぞ、エレナちゃん! このまま集中力切らさずに。ラッキーパンチをもらわぬようガードしっかりしてな!」
「第2ラウンド開始!」
拳を合わせると同時に海野は左ミドルを出す。足の着地を待たずに私はワンツーフックから右ローキック。海野は後ろに下がる。私はじわりじわり近づく。
海野はワンツーフック右ストレートとパンチ連打を出すが威力はない、打ち終わりに左ボディからの右膝蹴りで私はダウンを奪った。海野は険しい表情ながらも立ち上がる。不意にもらった膝蹴りは確実に効いたようだ。
「ナイス! フェイントみせて上(顔面)もいける!」
レイナの声も聞こえた。
私は足を上げて前蹴りのフェイント、海野は反射的にボディを守ろうとガードが下がったところに右のハイキックをお見舞いした。海野は耐えるも崩れ落ちた。デビュー戦に続いて右ハイキックで私はKO勝ちをおさめた。
「大丈夫? ごめんね?」
私はKOするも心配になり海野に近寄った。なんか、やりすぎた気もする。
「謝ることないよ? 試合なんだから。ってかこれが2戦目なの? めちゃくちゃ強いね」
*
そして私は準決勝もローキックで相手をKOし、このあと決勝戦へ挑む。対戦相手は矢吹カエデ。そう、レイナの『打撃王GP』予選の相手だった子だ。過去にBクラストーナメント優勝経験もある。間違いなく強敵。けど矢吹を越えられるか否か。決勝戦にして、私にとって重要な試合となる。
「エレナはもう気づいてるかもだけど、矢吹はメンタル強くない。身長あるから下から崩す、でいこう」
「うん! ちゃんと見守っててね」
*
「これより『打撃王』Bクラストーナメント の決勝を行います。青コーナーは168センチ ハピネスジム所属 矢吹カエデ。赤コーナーは155センチ サンダージム所属 雷道エレナ」
「第1ラウンド開始!」
矢吹は168センチのリーチを活かして遠い距離からジャブ、私はローを出すが当たらない。
矢吹はパンチのフェイントを見せながら距離を詰めると力強く組み付いて脇腹へ膝を連続で突き刺してくる。
「ストップ!」
レフェリーがクリンチを解くがワンツーからまた組み付いて膝蹴り。ボディがかなりきつい。クリンチから逃れてるも矢吹のパワーのある左ミドルを連続でもらう。反撃したいが胸辺りを狙った前蹴りで止められ中々入れない。
遠い距離のまま矢吹はガードをこじ開けるかのようにワンツーを放ってくる。
ふと鶴羽とのライトスパーを思い出した。今の私は棒立ちになってる。これではダメだ、的を絞らせぬよう動かないと。
矢吹のワンツーをパリングしながら左右に動くと、当たらなくともジャブを出して少しずつ距離を縮める。矢吹は右ストレートを出すが屈んでかわし、左フック、右ローキックとついに反撃できた。
この距離感を絶対に崩さない!
矢吹は下がるも私は同じ分だけ前進して右ローキックを放つ。そしてローのフェイントからワンツーと出していく。
矢吹はサークリングしながらジャブ、私は額で受けながら右ローを返す。コーナー際に私は追い詰めるとジャブで目を覆うと右ローを連続で3発繰り出した。嫌がる矢吹はクリンチで凌ぎ1ラウンド終了。
そして第2ラウンド
開始早々、矢吹は近づくと膝を出しながら組み付く。
「組み付かないで」
レフェリーから注意されるも矢吹はすぐに組み付いては膝を突き刺す戦法に出た。脇腹、そしてみぞおちを突いてくる。このままでは私のボディが限界を迎える。
だがこの時、私は自分の勝利を確信した。
矢吹はローキックをもらいたくないのと距離を縮められたくない、その一心で組み付いては膝蹴りを繰り返してる。ならばそれを利用するだけだ。
組み付きをレフェリーが解いたところ、私は腹をかばうように、右手だけガードを甘めにして後ろに下がった。矢吹は両手を伸ばしながら前進すると膝蹴りをぶち込んできた。私は効いたと言わんばかりに顔を歪ませ、少し前屈みになり、更に下がるとロープを背にした。矢吹はとどめの膝を入れてきた。
そして矢吹はマットに沈んだ。私は夏合宿で黒木に倒されたのと同じ技、死角を狙った右のオーバーハンドフックを矢吹の膝蹴りのタイミングに合わせたのだ。身長が高い分、膝蹴りを入れるときに両手を伸ばして肩にかけたがる癖も私は見抜いた。効いたふりをして矢吹に心理的に余裕を持たせることで油断させた。
「すごいぞ! エレナちゃん、Bクラス全試合KOで優勝だなんて!」
エビス会長はリングに上がると試合に勝った私より喜んでくれた。レイナもリングに上がるなり私に抱きついた。
え? 泣いてる?
「良かった。矢吹は強い選手だからさ。内心恐かったけど、心配は無用だったね。おめでとう」
私も気がついたら涙を流していた。キックボクシングを始めるまでは、エレナに憧れるまでは、ただの普通の学生だったのに。普通どころか、部活もしないし成績も悪いし、最近ではお母さんにも心配されるような、そんな私だったなのに。エビス会長、そしてレイナのおかげでこんなに強くなれた。
矢吹に勝利し、Bクラス優勝したこと、私の自信に繋がった。
「こんどは私がレイナにお返しする番。GPに向けて全力でサポートするからね」
*
「さぁ今日は俺の奢りで焼き肉とするか。会場の外で待ってるから、また後で」
私は支度をすませるとレイナと控え室を出た。
「すみませんー!」
後ろから声をかけられ、2人して振り替えると同世代の女の子が全力で走ってきた。
「はぁはぁ、間に合ってよかった。はぁはぁ」
遅れてもう一人やってきた。
「もうー、ナギちゃんったらそんなに全力で走っちゃダメだよ? 誰かにぶつかったら大変だよ」
誰?
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