高校1年の春~出会いの季節(2)
気づいたら私はジムの扉を開けていた。
どちらかとえば内向的で慎重な性格だがレイナに見とれてつい開けてしまった。
「入会! ありがとう! 学生さんかな? レイナ、待望の女性会員で年齢も近そうだぞ。よかったな」
レイナとは小学生の頃から塾も中学も高校も同じで、今はクラスも一緒だ。けど中学入学後はそんなに絡んでない。小学生の頃は親しかったけど、今となっては友達というより、ただのクラスメイト、ただの知り合い。私が入会しても嬉しくはないだろうし、むしろ迷惑かな。
やっぱり私なんか……
「エレナ、格闘技に興味あったんだね。一緒に頑張ろ。あ、会長、この子は私の友達!」
レイナはニコッと微笑んでくれた。私のことを友達だって、言ってくれた? お世辞だとしても目の前で友達だと紹介されて、少し照れてしまい思わず目を伏せてしまった。
「お友達か。俺は会長のエビス、よろしく。格闘技経験はあるの?」
「えっと、格闘技経験はないです」
勢い任せで入会しにきたが、格闘技経験の有無を聞かれ自信なく小さい声になってしまった。未経験どころか運動そのものが自信ない。
「未経験ね! オッケー! じゃ俺が基礎から教えるからゆっくり自分のペースでいこう」
「私もエレナに教えるよ。大会が近いからそこまでみっちり教えられないと思うけど。入会手続き済ませたら早速やってみない? 練習着も私のがあるから」
「よし、決まりだな。入会手続きっていってもすぐ終わるからささっと済ませよう」
私は入会手続きをするためにジムの受付にエビス会長と腰かけた。
「まぁこの数枚ある書類やら同意書に名前書いてくれればオーケーよ。あと、ここだけの話だけど俺とレイナは親戚。だからね、レイナは会費とかはないのよ。つまりはサービスサービス! んで、エレナちゃんはレイナの友達。んだから、エレナちゃんも会費無料で。もちろん、ここだけの話にしてくれよ」
「え、いいんですか、私、頑張ってバイトとかして会費払いますよ」
「いいっていいって! エレナちゃんから会費もらったらレイナにも怒られるわ。まだ高校生でしょ? バイトより勉強や練習を優先して欲しいから遠慮は要らないよ」
「お気遣いありがとうございます。私、練習頑張ります!」
手続きを済ませるとレイナと更衣室へ行った。 ジムには大きめのリングやサンドバッグ、筋力マシーンも数台ある。私もこんなすごいところで一緒に練習できるんだ。私も強くなれるかな。
「ここが女子更衣室。ロッカーもあるから荷物とかはここに入れてね。ここでは女子は私しかいなかったからエレナが入ってきてくれて嬉しいよ。エレナも格闘技に興味あったんだね」
「うん、たまにテレビで格闘技の試合を見たりしてなんかカッコいいな~って思ってて、家からも近いから入会しちゃったよ」
まさか、ジムの裏口から覗き込み、レイナに見とれて、入会を決めただなんて恥ずかしくて言えるわけない。
「そうだったんだね。着替え終わったら今日は私がバンデージ巻いてあげる。これは拳を守るために必要不可欠だから」
私は着替え終わるとバンデージを巻いてもらい、更衣室を出て柔軟体操まで終えた。
「今日は俺がエレナちゃんに教えるからレイナは大会に備えて対人練習を。ブロックからの返しを意識してな。……そしたらエレナちゃん、始めようか」
「お願いします!」
私とエビス会長は鏡を正面にした。床から天井までの大きな鏡だ。
「構えは二つ。右構えか左構えか。利き腕とか関係なしに直感でいい。どっちが動きやすいかで構えは決める。まずは鏡を正面にして肩幅まで足を開いて両拳を顔の前に持ってくる。そのまま右足を引く。この状態をキープしたまま前後左右に動く。前進するときは前足である左足を先に前へ、下がるときは奥足の右足を先に後ろに。左移動なら左足を、右移動なら右足から移動。そしたらもう一回正面に立って今度は左足を引く。この状態で前後左右に動く。最初に移動させる足はさっきの構えとは逆足になるぞ。この二つの構えでどっちが移動しやすいか。やってみよう」
私は言われた通りに構え移動していく。エビス会長に言われた通り私は直感に従った。
「右足を後ろに引いた構えの方が動きやすいです」
「ってことは右構え、オーソドックスだな。前の手、つまり左手でジャブを出して相手との距離を計り、そして右のストレートでぶっ倒す! だな。割合としてもオーソドックスのほうが多いかな。俺とレイナもオーソドックスだ。まぁ最近は左構えのサウスポーも増えてるけどな。なにんせよ一番大事なのは、常に顎を引くことだ。最初は引きすぎなぐらいでいい、というのも試合してると段々熱くなって顎を引く意識が薄れることもあるからな。相手の打撃は顎を引いておでこで受ける。おでこは打撃もらっても痛みを感じにくく、脳へのダメージも抑えられる」
その後も基本動作、パンチやキックについてみっちりと指導を受けた。
「今日はパンチだけでミット打ち、やってみようか」
ジャブ、ストレート、フック、アッパー、ボディ、と指示を出されたパンチを打っていく。
「うん、上手いよ。もっと肩の力は抜いてもいいな、力まない方がスッと打てる。あとはミットの真ん中を拳骨で打ち抜くイメージで」
2分×2Rのミットを終えた。合計4分ではあるが、思っているより息切れしている。
「初めてにしては、パンチを打つにあたって焦りもなく落ち着きがあってよかったよ。特にミットを打つ時の距離感がパーフェクトだった。俺が少し後ろに下がったり、前に出たり、横に動いたりしてわざとパンチを出しにくい距離感にしてみたが、エレナちゃんも一緒に移動してパンチを出していたこと。常に自分がパンチを出しやすい距離感を自然と保てていたのはナイスセンスよ」
「ありがとうございます。私、もっと頑張ります」
自分が思っていた以上に格闘技は奥が深そうだなと思った。
「強要はしないが、ゆくゆくはレイナみたいに大会目指してもいいかもしれんぞ~」
私はふと壁に貼ってあるポスターをみた。『打撃王GP』という大会の予選が7月にあるようだ。
「『打撃王GP』?」
「そうそう、この『打撃王GP』の予選にレイナも出場するぞ。20歳未満の学生で競うアマチュアキックボクシングの日本一を決めるトーナメントだ。12月の決勝トーナメントに進むためまずは予選を勝ち抜かないといけない」
日本一を決める大会……すごい。レイナは男子選手とのスパーリングでも互角以上に、いや圧倒するほどの実力。同じ女子なのに、こんなにも遠い存在にいるなんて。やっぱりカッコいいな。
*
気づけば外は暗くなり19時をまわっていた。
私は男子選手とのスパーリングを終えレイナと一緒に帰ることにした。
「エビスさん、今日はありがとうございました。また明日練習しに来てもいいですか?」
「毎日でも構わない。いつでも来てくれよな」
*
「ビックリしたよ。いつも通りジムでウォーミングアップしてからエレナが突然入ってきて、入会しに来たって言うから」
レイナは可愛い八重歯を見せながらはにかんだ。
「ごめん、驚かせちゃったよね。でも格闘技には興味があったから。私もレイナがまさかいるなんて思ってなかったけど。ひょっとして迷惑……かな」
「迷惑?? なんで? うちら友達でしょ。小学生からずっと一緒じゃん。中学受験で千徳大附属の合格発表の日、ふたりで手を握りながら祈ってたよね。お互い合格して嬉しくて泣いたの覚えてる? 入学後は喋る機会も減ったけどこれからは前みたいに戻れそうだね」
「よかった。また宜しくね、レイナ」
「うん、宜しく。また明日から練習頑張ろ」
ジムを出て10分ほど歩いたところで、私たちは別方向へと向かった。キックボクシング、頑張りたい。沢山練習してレイナみたいに強くなりたい。そしていつかは……大きな試合に出れたらな……痛そうだし恐いけど、でももし試合に勝ったら、なんだろ、カッコいいよな~
そんなことをボヤボヤ考えてるうちに私は家に着いた。
……うん?……あ!
お使い忘れてた!
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