33 災害で誰も死なせたくない!

 私が王立学院に編入してから二年が経った。

 その間私は常にトップの成績を修め続け、アンリエッタが次席という盤石のスタイルが続いていた。


 私とアンリエッタはいつも多くの生徒達に囲まれ、注目の的になっている。


 どうやら私とアンリエッタが付き合っていると思っている生徒も少なからずいるみたい。……。

 ちょっと待って、私とアンリエッタは女同士よ!


 ……まあ、注目されると言うのはそれだけ色々と誤解や敵なども作る可能性が高い。

 現に今の人生で私の敵になっているのは聖女教や悪徳貴族だと言える。


 前の人生でコイツらが味方だったのかと言えば決してそうではない。

 コイツらは無知で愚かだった私をもてやはして自身の私腹を肥やしたり利権にあり付いていただけだ。


 だから今の人生での私は彼等にとって利権を脅かす脅威であり、アンリエッタと同等に王妃にさせたくない人物扱いになっているのだ。

 まあそれもそうだろう、この二年で私が起こした事業は冒険者ギルドと工業ギルドの一体化、そして建築ギルドの新規立ち上げといったもので、商人ギルドと組んで荒稼ぎしていた利権族の悪徳貴族や聖女教にとっては敵でしかない。


 まあ私の父であるドリンコート伯爵は眼の前の利益にしか興味の無いバカなので、天才少女であると思い込んでいる私が次々と新事業を立ち上げて大金を稼げば私の言う事をほいほい聞くだけの存在になっているので、今の人生ではそれほどの存在ではない。


 それよりも、あのバカ王子オウギュストの事だ。

 第二王子オウギュストは勉強も嫌いなら武術の練習も嫌い。

 好きな事は贅沢と女遊びという下衆だ。


 これは私の前の人生と何ら変わっていない。

 どうやらこの国にはもう一人の王子がいるらしいが、前の人生でも私は彼に会った事が無い。

 何処にいるかも謎な人物だと言えよう。


 この国の現状から考えても、あのバカ王子オウギュストが王位に就くのは国の崩壊の未来につながるだけ、そうなると貧しい人達が大勢死ぬ事になる。

 この国は数年後に未曽有の大災害に襲われる事になるが、これは当時本当の聖女を失った事への神の怒りだと言われた。


 実際には単に遠国での無人島の火山の噴火による地面への衝撃、それによる海の海面上昇からの大津波が原因なのだが、今のこの国の人達がそれを知る由もあるまい。

 やろうと思えば私の財力だけでも、今からこの大災害の為に大規模工事をすれば多くの人達を助けることは出来るかもしれない。


 だが、それで救えるのはほんの一部だけの人で終わってしまう。

 この大災害は国を挙げた大事業として工事、流通等を指示しなくては決して避けられるものでは無い……。

 やはり今は私が心を鬼にして泥をかぶるしかないのね。


「レルリルムさん。アタシ達、いつまでも友達ですよね!」

「ええ、そうですわ。私と貴女はずっと友達ですわ」


 アンリエッタ、本当はこんな事したくないけど……やはり貴女には隣国に行ってもらうわ。

 この国を立て直すには今の貴女は居てもらうと困るの。


 前の人生とは違い、やってもらう事は隣国からの援助になるけど……あの英雄王クローヴィスの隣にいるのは貴女でないとダメなのよ。

 本当なら私がクローヴィスと組んでこの国を立て直す方法もあるかもしれないけど……今のこの国の聖女教や悪徳貴族の事を考えると私がワガママ娘を突き通す以外にこの国を救う方法は無い。


「あら、レルリルムさん……どうしました? 何か難しい顔をしていますけど」

「い、いえね。あと数週間でデビュタントでしょう。ちょっとその事を考えると憂鬱になっちゃってね」

「そうなんですね。実はアタシも不安なんだ。オウギュスト殿下との婚約発表。パーティーで大体的にお披露目されると聞いてちょっと……」


 やはりもう時間が無い。

 ここはあのバカ王子をさっさと篭絡して私に気を引かさないと。


 今の人生で心からわかり合い、仲良くなれたアンリエッタを突き放すのは本当は辛い。

 ――でも……それをやらないと、この国の主導権を握る事が出来ずに工事や災害対策が出来ないまま多くの人が死に、折角の今までの国の体制立て直し計画がダメになってしまう。


 私はモヤモヤした気持ちのまま家に帰った。


「おや、レルリルム。どうしたんだい?」

「アンリさん。一つお聞きしたい事がありますが、良いですか?」

「何だい? 突然改まって」

「実は……今まで黙っていましたが、これを信じてもらえるかどうかわかりませんが私は愚かだったのです」


 私はついに観念し、アンリさんに、前の人生の話をする事にした。

 アンリさんは驚きもせず、私の言う事を素直に聞いてくれていた。


「成程、それで合点がいったよ。キミがあまりにも未来に精通している理由もね。それで、アンリエッタを追放しないとこの国が救えないというわけか……」

「アンリさん、こんな馬鹿話を信じるのですか!?」

「まあ信じるしかないだろう。キミがやってきた事は前の人生の罪滅ぼしだと言うんだろう。そしてこれからやる事も人を不幸にする事ではないなら、キミはキミのワガママを貫き通せば良いんじゃないのかい。アンリエッタは賢い子だから、追放されても逞しく隣国で生き残るだろう。あのクローヴィスとなら国も取り戻せるだろうし」


 アンリさんは私の話を聞いた上で今後の作戦にまで乗ってくれた。


「それじゃあキミはあのバカ王子との婚約の為に自らを差し出すつもりなんだね。本当にそれで後悔は無いんだね」

「はい、これが今私のやるべき事なんです」


 アンリは眼を閉じて何かを考えていた。


「良いだろう、それじゃあいかにあのバカ王子を誘惑してキミのモノにするかを考えてみるんだね。キミの前の人生の事は、僕は誰にも言わない事にするよ」


 しかしもし私があのバカ王子と婚約という事になると、私に好意を持ってくれているザフィラやギュスターヴがどんな顔をするのだろうか。

 裏切られたと思って私の敵になるのだけは勘弁してほしい。


「レルリルム、キミが今何考えているか当ててみようか」

「えっ!?」

「あの二人の事だろう。獣人の元王子ザフィラとキミの忠実な騎士ギュスターヴ、それにあの堅物神父のクロフトも」

「何で、それが……」


 アンリがまた鬼畜眼鏡モードに入った。


「そりゃあ分かるよ。前の人生でキミを軽蔑していた騎士団長に、処刑した革命軍と傭兵団のリーダーだと言っていたね。でもそれは本人よりも仲間や国民を蔑ろにした、前の人生のキミへの復讐心であって、今の彼等の嫉妬心はそれ以上に仲間や国民を助けた恩義の方が勝るから敵になることはないはずだよ。キミはキミのやる事を貫けばいい」


 彼がこういう場合、『僕は手助けしないよ、キミ一人の考えでどうにかするんだね』というのと同じ意味になる。


 それならやってみようじゃない!

 あのバカ王子を誘惑するくらい、何てことないわ。

 少しアンリエッタを騙す事で心が痛むけど、それもこの国の為。


 ここを乗り切らないと、この国は大きな災害で破滅する。

 例えアンリエッタが本当の聖女だったとしても、あの火山の爆発からの大地震、大津波から国民全員を助ける事は無理だと私は地学や過去の文献から確信した。


 私が我慢してあのバカ王子と婚約する事でこの国が救えるのなら……それも仕方が無い事。


 私は次の日から少しずつオウギュスト殿下にアプローチする事にした。

 あれだけ私を敵視していたはずのオウギュストは、いきなりしおらしくなり彼に従おうとした私に簡単に落ちた。


 そしてついに運命の日がやってきてしまった。


 この日はオウギュスト殿下の誕生日パーティーが行われた日だった。

 私の前の人生でもこのパーティーには大勢の人物が出席し、このパーティーには私の父ドリンコート伯爵やアンリエッタの父親であるバートン子爵等も出席していた。


 ザフィラとギュスターヴ、それにシロノの三人も正装して私の護衛やメイドとして参加している。


 そして、この国の命運を決めるパーティーが始まった!

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