第7話 ジャマ者の邪魔なモノ
朝、兵太が学校へ向かっていると、その目の前に龍海が姿を見せた。
「おー、ようやっと来たか」
「え……なんですか?」
「なんですかじゃねぇよ、こないだお前なんも言わねぇで帰ったろーが」
「……? 何の話ですか?」
兵太は何もわかっていない。
「あの戦いのことだよ。お前がストームバスターに乗って霊魔を倒して……お前もしかして、俺が見てたこと気づいてねぇの?」
「……え?」
兵太は記憶を辿る。戦いが終わり格納庫からエレベーターへ向かう途中、2人の少年がいた気がする。その片方が矢次龍海だったことに今更気がついた。
「あー…………なんで矢次さんがあそこに……?」
「それはこっちのセリフだ。いろいろ聞かせてもらう」
兵太は後ずさりする。
「えーっと……学校行かなきゃで……」
「別に向かいながらでいいぞ」
龍海は引く気はないらしい。兵太は仕方なく学校へ向かい歩き出した。龍海も後ろに着いていく。
「で? お前なんであそこにいたんだ?」
「あの、神様? に連れてこられたんです。戦えって」
「ほーん、しかしお前みたいのが戦うとはなァ? あんなアホ共に絡まれてビクビクしてたようなやつが、どういう気持ちの変化だよ」
「それは……アイツが許せなくて……気がついたら乗って戦ってて……」
兵太は優しかった青年を思い出し、倒したはずの霊魔への怒りがまた込み上げる。
「許せないって、あの霊魔が? なんだそれ? まぁいいや。で、また乗んのか?」
「……それは……わかりません」
兵太は一瞬立ち止まる。
「わからない? んだそれ。まぁ別にどうでもいいけどよ、また乗るってンなら、俺の邪魔はすんなよな?」
「え、邪魔ってどういう……」
「俺も乗ってんだよ。マグマレックスってやつだ」
「矢次さんも……?! あれ、じゃああの時あそこにいたもう1人の人も?」
兵太はもう1人の少年のことを思い出す。龍海はすぐにそれが刀魔のことを言っているとわかり、急に機嫌を悪くする。
「ア゙? 知るか、あんなやつ。覚えるだけ無駄だ、忘れとけ」
なぜ龍海が不機嫌になったのか兵太はわからなかった。
気がつくと兵太の通う学校の目の前だ。
「じゃあな」
そう言うと龍海は去っていく。
「……そういえば、今日は誰にも絡まれなかったな……」
龍海が去った後に兵太は気づいた。
* * * * *
授業中、刀魔は兵太の戦いを思い出していた。
無駄のない動き、敵の動きを予測してピンポイントで狙い撃つ。あの時の兵太は冷静さを欠いた様子だった。それでもあれだけの戦いを魅せている。俺にはあんなことができるのか? 刀魔はそんな風に考える。
龍海に言われた言葉が頭に浮かぶ。
「足手まといなんだよ、お前。なんも考えねぇでバカ丸出しで突っ込んで」
何も考えてないのは龍海だって同じだ。そんな風に考え腹が立つ。
「刀魔ー、おーい」
鈴音が刀魔を呼んでいる。
「えっ? 何?」
刀魔は鈴音の方を見た。鈴音は教卓の方を指差している。教卓を向くと教師が刀魔をじっと見ていた。
「霧沢君、この答えは?」
教師は黒板に書かれた英文をチョークで叩く。
「えっ……と……すいません、聞いてませんでした」
「真面目に授業受けろ。浅羽さんわかる?」
教師は刀魔を窘める。刀魔のせいで指名された鈴音は面倒ながらもしっかりと問いに答えた。
一方で、叱られたにも関わらず刀魔は授業を真面目に聞いていない。前の戦いで死にかけたせいでそのことばかり考えてしまう。授業に集中なんてできない。
ふと窓の外を見る。空には相変わらず、不気味なひびが入っている。
授業が終わり放課後、刀魔達は帰路に着く。
「刀魔、最近ずっと考え事してるよね」
鈴音が言う。
「えっ!? いや……そうかな?」
刀魔は焦る。やはり幼なじみに隠し事をするのは難しいらしい。
「今日だって授業中ずっと難しい顔してたし」
「そ、そう……?」
鈴音はじっと刀魔を見る。刀魔は目を逸らしてしまう。
そんな2人の横に1台の車が止まった。
「よう、おふたりさん。調子はどうだい?」
車の窓が開き、中から樹が話しかけてきた。
「あれ? お兄ちゃん、お仕事は?」
「今日は早上がりになってさ、明日に備えろだって」
「あー、そっか明日からかー」
兄妹はそんな風に話している。
「明日? 何かあるんですか?」
刀魔が聞く。
「うん、今度土日でウチの会社がやるイベントがあってな。スタッフとして駆り出されちゃって、泊まりで行かなきゃでさぁ。明日は準備日なんだけど」
樹は語る。
「先輩にさ、初めて現地スタッフやるんなら早く帰って休めって言われて、それで早上がりになったわけだけど……2人乗ってく?」
後部座席には何もない。刀魔達が座るスペースは確保されている。
「いいの? やったー!」
鈴音は早速、車に乗り込む。
「すいません。失礼します」
刀魔も車に乗ろうとする。しかし
ドオオォォォォォォンン………………
太鼓の音が聞こえる。刀魔は空を見た。ひび割れから瘴気が漏れ出ている。
「刀魔? 乗らないのか?」
樹が刀魔に聞くと刀魔は開けた扉を閉める。
「すいません! 忘れ物したみたいで、俺学校戻ります!」
刀魔は振り返り走り出す。
「えっ!? 刀魔!」
鈴音が車から乗り出して叫ぶ。
「また明日!」
刀魔はそう言い、手を振って去っていった。
刀魔がしばらく走っていると神が姿を見せた。
神は近くに建っていた家屋の玄関扉を開けると中へ入っていく。刀魔も続けて入っていった。扉はやはり研究所に繋がっている。
エレベーターで降り、格納庫へ入ると宮村が待っていた。
「来たか、刀魔君」
宮村はモニターに霊魔の姿を映す。
体を岩で覆った巨人と全身に棘を生やした巨人、大きな牙の生えた猪の怪物が各々のやり方で空間のひびを攻撃している。
「こいつら……みんな前に戦ったやつだ!」
「そのようだ。しかし復活したというわけでもないだろう、別の個体を連れてきたのかもしれない。そうなれば個性も能力も違うかもしれないし、前の戦術も通用しないだろうね」
宮村が話していると龍海と兵太がやってきた。
「ほー、今度は違うタイプが一気に3匹か。パーティー気分だな、こいつは」
龍海はそう言うと、今度は兵太の方を向き話しかける。
「で、結局来たわけか」
「あ、はい。その……」
兵太は龍海に問いかける。
「……矢次さんはどうして戦えるんですか?」
「は? どういう意味だそれ? 面白ぇからやッてんだろ」
「お、面白い……ですか」
目をギラギラさせる龍海に兵太は少し引き気味だ。兵太は続けて刀魔に問う。
「あなたは……えっと……」
「刀魔、霧沢刀魔だよ」
「霧沢さん……は、その……どうして戦えるんですか?」
「どうしてっていうか……青木君も言われたと思うけど、やらないと地獄行きだって神様に言われたからさ」
刀魔は答える。
「でもまぁ、俺が戦って守れる人がいるなら悪い気はしないかな」
「守れる人……」
龍海と違い爽やかな感じの刀魔に兵太は少し安心する。しかしすぐに龍海が茶々を入れる。
「綺麗事かよ。弱っちいクセに偉そうなもんだなァ?」
刀魔はムッとする。
「どういう意味だよ」
「どういう意味だと思ってンだ?」
「え……あの……」
揉め出す2人に戸惑う兵太。
「またか……」
宮村が呆れながら止めようとすると、そこに神が現れた。
「何をして居る」
プレッシャーを放ち、刀魔達を見ている。
「霊魔が居る。早う乗れ」
「……わかったよ。やればいいんだろ」
刀魔は苛立ちながらデモンカイザーに乗り込んだ。龍海も苛立ったまま黙ってマグマレックスに乗り込む。
「あ……僕も行きます」
兵太はストームバスターに駆け寄り、車体後部のハッチを開け、コクピットに入っていった。
「大丈夫かなぁ……」
宮村は調子の合わなさそうな3人を心配している。
霊魔達はひびに攻撃を続けている。そこへ大量に弾丸が飛んでくる。岩の霊魔が前に立ち、弾丸を防いだ。岩が削れて土煙が舞う。すると煙を突き破って炎の塊が飛んできた。
「フレアバットォォォッッ!!!」
炎を纏ったマグマレックスの頭突きが岩の霊魔に直撃、他の2体も巻き込み遠くへ飛ばされた。
マグマレックスにデモンカイザーとストームバスターが追いつく。霊魔達も起き上がった。
「やるぞ、デモンカイザー!!」
刀魔の声と共にデモンカイザーが霊魔達に突っ込んだ。
「おおおおオオオオオッッッ!!!」
デモンカイザーの拳が猪の鼻面を打ち抜く。
ゥゴオオオッ!?
猪は怯んで後退りする。ここぞとばかりに追撃をかけるデモンカイザー、しかし猪の後ろにいた棘の霊魔がデモンカイザーめがけ大量の棘を発射した。
「ぐっ……! こいつッ!!」
咄嗟に防御姿勢をとるデモンカイザー。するとその後ろからマグマレックスが迫ってきた。
「邪魔すんなァ!!」
マグマレックスはデモンカイザーを踏み台に高く跳んだ。
「うわっ!?」
デモンカイザーは突然踏み潰されて体勢を崩す、そんなことお構いなしにマグマレックスは火炎を放つ。
「バァァァァニングロアアアアァァァァッッ!!!」
業火が霊魔達を焼く、しかし岩の霊魔が炎を防ぎ、なんと岩の腕をマグマレックスめがけ飛ばしてきた。
「ッらァァッッ!!」
マグマレックスは空中で体勢を変え一回転し、回ると同時に尻尾で霊魔の拳を叩き落とした。
霊魔達はマグマレックスを睨む。するとそんな霊魔達を囲むように、4本のミサイルがそれぞれ別の方向から飛んできた。爆発が霊魔達を包む。
「よし、上手くいった……!」
着弾を確認して、兵太はストームバスターを前に出す。
煙が晴れるとその中心には棘と岩を大量に身につけた猪が、2体を守るように立っていた。
ゴウアアアアアアアアッッッ!!!
猪は吠えると同時に、身につけていた棘と岩を全部一気に解き放つ。勢いよく撃ち放たれたそれらはデモンカイザー達を襲ってきた。
「ッぐぅ……!」
デモンカイザーはまた防御姿勢をとる。
「アームサイス……ッ! ブーメランッッッ!!」
反撃のつもりで腕に生やした刃を飛ばす。しかし刃は霊魔だけでなく、マグマレックスとストームバスターにまで牙を剥く。
「なぁッ!?」
マグマレックスはブーメランをギリギリで躱し、巨大な顎で噛み付き動きを止めた。
「邪魔すんなって言ってンだろォがァァッッ!!」
ブーメランをデモンカイザーめがけ投げ飛ばす。ブーメランはデモンカイザーの肩をかすめた。
「うわああッッ!!」
突然自分の武器が飛んできたものだから刀魔は驚いて、デモンカイザーを転倒させてしまう。そんなデモンカイザーにマグマレックスが飛びかかる。
「ぐアァっ!?」
マグマレックスが勢いよくのしかかるせいで、強い衝撃がデモンカイザーのコクピットに伝わる。
「お前いい加減にしねェとマジでブッ殺すぞ……!!」
龍海の怒りが刀魔を襲う。そんな風に揉めていると、2人に向かって猪が突進してきた。
「2人共!! 前!!」
兵太が警告するが間に合わない。猪は2機を突き飛ばした。
「うわあああああっっ!!!?!」
勢いよく吹っ飛ぶデモンカイザーとマグマレックス。追撃とばかりに棘と岩の拳が飛んでくる。
「間に合えッ!!」
ストームバスターが機銃とミサイルを撃つ。なんとか拳は撃ち落としたが、棘を全て防ぐことはできなかった。
「ッ!! バァァァニングロアアアアアアアアア!!!」
空中で体勢を変え、上手く着地したマグマレックスが火炎放射を放つ。撃ち出された棘のいくつかは燃え尽きたが完全には防げない。棘がデモンカイザーとマグマレックスに傷をつける。
「不味いな……相手は上手く連携してるがこっちはまるで息が合ってない……よし、だったら」
モニターを見ている宮村が呟く。
「みんな聞こえるか? このままでは勝ち目はない。奴らを分断して1対1で倒すんだ! あの連携を崩せば勝機はあるはず!」
宮村は3人に指示を出す。
「ストームバスターが爆発で煙を上げて奴らの視界を潰す。その後にそれぞれで1体ずつ引き込んで戦うんだ! 兵太君、やれるね?」
「は、はいッ!」
兵太はグリップを強く握る。ミサイルを撃ち、霊魔達の足下に落とす。ミサイルは爆発し、爆煙と土煙が霊魔達を包み視界を奪った。
グゴゴオオオ……!
霊魔達は辺りを見回す。しかし何も見えない。そこへストームバスターが突っ込んだ。
「エレクトリクホォォォォンン!!!」
電流が走る角が棘の霊魔を捕まえた。
オオアアアアアァァッ!??
高電圧の激しい痛みに悲鳴を上げる霊魔。ストームバスターはそのまま霊魔を連れ去った。
2体の霊魔には何が起きたかわからない、そんな2体に巨腕と大顎が迫る。
「お前は俺が倒す!!」
「ブッ潰す!!」
デモンカイザーは猪の牙を掴み投げ飛ばす。マグマレックスは岩に噛みつき、引きずり回して壁に叩きつけた。
「よし! 上手くいった!」
宮村は小さくガッツポーズをした。
「レイニーッ!!」
ストームバスターが2発のミサイルを撃つ。ミサイルは空中で破裂し、中から無数の弾丸が飛び出す。
オオオオオオオオッッ!!
棘の霊魔も全身から大量の棘を発射した。互いの弾幕がぶつかる。弾幕をすり抜けた棘と弾丸がストームバスターと霊魔を襲った。
オオアアアッ!!
霊魔は弾を避けるため、高く跳んだ。しかし跳んだ先でストームバスターの放った光線が直撃した。
「当たった!」
兵太は狙い通りに霊魔を倒せたと、そう思っていた。しかし次の瞬間、煙の中からストームバスターめがけ無数の棘が飛んできた。兵太は慌てて回避する。
「ッ! あれは直撃していた……防がれたのか……? どうやって……」
煙が晴れて中にいる霊魔が見えた。そこにはさっきまで見ていた人型ではなく、球状の棘の塊が姿を現した。
「アイツは……ッ!? そうか……! 防いだんじゃない……吸収したんだ!!」
兵太は青年を殺した敵を思い出し、怒りに燃えていた。
マグマレックスが岩の霊魔に喰らいつく。
「硬ェモンはよーく噛んで食わなきゃなァ!」
マグマレックスはついに岩の体を噛み砕いた。堪らず振り払う霊魔。マグマレックスはそのまま霊魔を投げ飛ばした。
グオオオオオオオオッッ!!
霊魔は岩の腕をマグマレックスに向かって飛ばしてくる。だがマグマレックスはそれを尻尾で打ち返し、霊魔の体をぶち抜いた。
「俺から三振取ろうなんざ百年早ェんだよ」
体に亀裂を入れながらも再び立つ霊魔。マグマレックスは勢いよく走り出し、霊魔の体を蹴り飛ばした。
「野球の次はサッカーだぜェ!!」
岩の巨体が地面に転がる。
グオオ…………
力が出ない様子で立ち上がる霊魔。体表の岩が剥がれ落ち、中の核が見えている。
「さて、名残惜しいが終わりにしますかァ」
しかし周辺の土や岩が霊魔の周りに集まりだした。それらは霊魔に張り付いていき、最終的には元の岩に覆われた姿に戻ってしまった。
「ア゙ァ……? んどくせェなァァッ!!」
霊魔はマグマレックスに突撃する。
デモンカイザーがダークネスブレイドを振り下ろす。猪はそれを大きな牙で受け止めた。
「クソッ! だったら……!」
体を引き、剣を真っ直ぐ突き出す。しかし霊魔はジャンプして避けると、デモンカイザーに体当たりを食らわせた。
「うわあああッッ!!」
突き飛ばされるデモンカイザー、ダークネスブレイドを放り出し、地面に叩きつけられた。猪は追撃をかけようとさらに突進する。
「負けるか……こんなやつに……っ!」
間一髪のところでデモンカイザーは躱した。
「刀魔君! そいつは前に戦ったのより、パワーもスピードも格段に強くなっている! 正面からぶつかるだけじゃ勝てないぞ!」
宮村の声がコクピットに響く。
猪はまたも突進してくる。
「そんなこと言ったって!!」
猪の牙を掴み、押し合いになる。少しずつ、後ろへ下がっていく。
龍海の言葉が頭に響く。考えなしに突っ込むだけ、デモンカイザーに頼りきりの無価値な木偶、弱っちい奴。
龍海だって何も考えちゃいない、なのにアイツは戦えている、俺とアイツと何が違う。刀魔はマグマレックスを見た。やはり何も考えず突っ込んでいるように見える。しかし、マグマレックスは敵の直撃をまるで受けていない。躱し、受け止め、利用する。龍海は霊魔の攻撃をものともしていない。
刀魔は気づく、龍海は本当に何も考えていないわけではない。暴れているだけに見えて、内ではかなり冷静に、瞬発的に判断している。瞬間ごとに相手の動きを見切り、周囲の状況を読んで行動しているようだ。
「……っ! あんなこと……できるかよォ……!」
刀魔は一瞬落ち込むが、すぐに自身を奮い立たせる。
「戦いは気分、気持ち……! 心で負けてたら、勝てる相手にも勝てない! けど、それだけじゃダメだ……!!」
刀魔は目を見開く。瞳の奥には闘志が燃えている。
「余計なプライドはいらない……俺は弱い……! 弱さを認めて、強くなればいい!」
デモンカイザーは強く踏み込む。
「魔皇撃神……! デモン……ッ! カイザアアアアアァァァァァァァッッッ!!!」
霊魔の勢いを利用して、回転しながら霊魔を投げ飛ばした。
ギャアアオオオオオオオオオ!!?!!
霊魔は地面に叩きつけられ悲鳴を上げる。
刀魔は龍海の最初の戦いを思い出している。マグマレックスは霊魔を岩壁に叩きつけていた。
「……やってみるか!」
刀魔はグリップを握り念じる。デモンカイザーはアームサイスを展開した。
「サイスッ! ブゥゥゥメランッッ!!」
腕の刃を飛ばす、だがその刃は猪ではなく岩と棘の霊魔の方へ飛んでいく。ブーメランは2人の戦う中を飛び、地面に突き刺さる。
「テメェ……! またやりやがったなァ!? どういうつもりだ!!」
龍海は刀魔に怒声を浴びせる。しかし刀魔は怒りもしなければ落ち込みもしない。
「龍海! お前の言う通りだ。俺はお前達みたいに強くはない。だから、2人を信じることにする!」
「ハァ!? 何の話だよ!!」
「方法は任せる。俺が合図をしたら3秒後、2人は霊魔をブーメランのところまで誘導してくれ! 2人ならできるはずだ!」
刀魔はそう言うとデモンカイザーを猪に向けて走らせた。
「随分勝手だなァ、オイ!」
龍海は文句を言うが兵太は特に反発をしない。
「……やってみます。敵が強すぎる……このままじゃいずれストームバスターもエネルギー不足で押し切られますからね」
「ありがとう! 兵太!」
兵太に礼を言う刀魔。龍海もマグマレックスのエネルギーを気にしてみる。ゲージは底を尽きそうになっている。
「……まぁいい、これでダメだったらマジでぶっ殺してやる……」
龍海も渋々ながら刀魔の作戦に乗ってみる。
「あぁ、今度は上手くやってみせる!」
ダークネスブレイドを拾い、地面に突き刺す。猪はデモンカイザーに突っ込んだ。しかしデモンカイザーは突進を躱す。勢いを殺せず猪は刺さったダークネスブレイドに激突した。
デモンカイザーは胸の前で手を広げ、そこに散らばった岩や鉄の破片を集める。
「ファントムストォォォォンン!!」
金棒を持ち、猪を挑発する。
「よし、2人共頼む!」
刀魔が合図を送った。
「うあああアアアアアアアアアアッッッ!!!」
ストームバスターが棘に突っ込む、角を突き刺し動けないようにする。角が電流を帯び、砲身が熱くなってくる。霊魔は目の前のストームバスターに棘を食い込ませようとする、しかし遅かった。
「エレクトリクカノン……!! 発射ッッッ!!!」
主砲から雷が放たれる。霊魔は反撃もできぬまま勢いよく飛んでいった。
「バーニングロアアアアアア!!!」
岩の霊魔を業火が包む。
グゴオオオオッ!!
霊魔はその中を突っ切ってマグマレックスに殴りかかる。それを打ち消すほどの勢いでマグマレックスが走ってきた。
「ブレイズドロォォォォッッップッッッ!!!」
マグマレックスは跳ねて空中で回転し、霊魔に両足蹴りを見舞った。霊魔は体がひび割れ、そのまま弾き飛ばされた。
味方がピンチとも知らず、猪はデモンカイザーめがけ一直線に突っ込んでくる。だが猪とデモンカイザーの間、その地面には2枚の刃が刺さっていた。
「……今だッ!!」
デモンカイザーは高く掲げたファントムストーンを振り下ろし、地面を叩く。地が鳴り、震える。すると目の前に巨大な石柱がそびえ立った。
オオオオオオオッッ!!
ゴオオオアアアアッッ!!
2体の霊魔が刃の位置まで飛んできた。猪はその2体に勢いよく突っ込み、そして3体は石柱に激突した。岩の破片と棘が霊魔達に突き刺さる。
3体は痛みに狼狽えている。デモンカイザーは高く跳び、石柱の上まで到達する。石柱の頂にはダークネスブレイドが突き刺さっている。デモンカイザーはその手に剣を掴み、真下へと飛び降りた。刀身は妖しい光を帯びている。
「ダァァァァァクネスッッ!! ファイナァァァァァァァアアアルッッッ!!!」
巨大な刃が魔物共を襲う。激しい光が辺りを包み、断末魔さえ飲み込まれ、大爆発を巻き起こした。
爆発が止むとその場所には巨大な窪みができていた。その中心にデモンカイザーが立っている。
「か、勝った……」
モニターで見ていた宮村は安堵した。
「ヤロォ……美味しいとこ全部持っていきやがった」
龍海がボヤいている。
「2人共ありがとう、それとさっきはごめん。巻き込んでしまって」
「いえ、勝ててよかったです」
兵太は特に文句を言わない。
「そっか……それで、物は相談なんだけど……」
「……? なんですか?」
「友達になろうよ、俺達3人」
刀魔は突拍子もないことを言う。
「はァ?」
龍海は意味がわからないという顔をする。
「俺、2人みたいに強くなりたいんだ。デモンカイザーに相応しいような強い奴に。さっきも言ったけど俺は2人を信じることにした。俺だけじゃダメでも2人がいれば強くなれると思ってさ……だから強く信じるために俺は2人と友達になる」
「友達……」
兵太は少し戸惑っている。
「そう、よろしく! 兵太!」
「あ、その……よ、よろしくお願いします……霧沢さん……」
「うーん、どうせなら苗字じゃなくて刀魔……せめて刀魔さんにしてほしいけど……どうかな?」
「じゃ、じゃあ刀魔……さん……」
名前を呼ばれ刀魔は笑顔になる。
「お前もよろしくな! 龍海!」
「ハァ……知らん、勝手にしろ」
龍海は呆れている。
そんな様子を見ていた宮村が兵太に話しかける。
「そう言えば兵太君、さっき2人に戦う理由を聞いていたね。君自身はどうして戦うんだい? 地獄行きが怖いってだけじゃなさそうだけど……」
「それは…………勇気がほしいんです……勇気を手に入れて、強くなりたくて……」
兵太は小さい声で答えた。
「強くか……じゃあ俺と同じだ!」
刀魔はそう言い笑っていた。そんな時、刀魔の頭の中に何かが流れ込んできた。
「ッ……! ゥグ……ァ!?」
苦しみ出す刀魔。
「どうした……? 刀魔君?!」
「刀魔さん……?」
宮村達は突然苦しむ刀魔に驚き慌てている。
何も無い真っ暗な空間、その中に刀魔は立っている。
「……なんだここ……?」
辺りを見渡す。どこにも何も見えない。
「お前か、デモンカイザーを動かしているのは」
声が聞こえた。声の方を向くとそこには1人の老人が立っている。
「……誰だ?」
刀魔は老人に問いかけた。老人は不敵な笑みを浮かべている。
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