第5話 心を喪った少年

5話 心を喪った少年

 格納庫で少年達が揉めている。

「お前よォ、もうちょっと丁寧に運べねェのか?」

「しょうがないだろ! デモンカイザーだってボロボロだったんだから!」

「にしたって引き摺るのはねぇだろ!」

 マグマレックスのオレンジの塗装が所々剥げて、薄らと銀色が見えている。

「つーかお前、あんなトカゲ野郎に苦戦してんじゃねぇよ! ボロボロになったのもお前が弱ェからだろ!」

「弱っ……! そっちこそ、最後あんな小さいのにやられそうになってただろ! 助けてやったのは俺だぞ!」

「ア゙ァ!? んなん知るかよ!! あんな雑魚やるのにお前みてぇのはいらねぇよ!!」

 そんな風にいがみ合う2人の間に宮村が割って入る。

「ハイハイ、2人共喧嘩するんじゃない! どっちも活躍していた。それでいいじゃないか」

 宮村は戦いを振り返る。

「最初にデモンカイザーが戦って、敵がどんな相手かわかっていたからこそ、マグマレックスもずっと優位に立っていられたんだ。最後もサイスブーメランがなければやられていたよ。マグマレックスだって正直、あそこまで戦えるとは思っていなかったよ。あの強さは、龍海君の戦いのセンスによるものだろうね」

 宮村はなんとか2人をフォローする。

「マグマレックスのあのトドメの技、スーパーキックだっけ? なかなか強烈な一撃だったよ」

「なんだよスーパーキックって……適当な名前つけて……」

 刀魔がボソッと呟く。

「んだよ。じゃあもっといい名前あるってのか!?」

「知らないよ! 自分で考えろ!」

 また、揉め出す2人。宮村はまた止めなければならなくなった。

「あーもう、名前! 名前ね! 炎を纏った飛び蹴りだからブレイズドロップ!! どう!?」

 宮村の言葉を聞いて2人は途端に大人しくなった。

「ブレイズドロップ…………」

 ハモった。互いを見て嫌な顔をする2人。

「……やっぱり気に入らない?」

 宮村が気まずそうに聞くと龍海が答える。

「いや……いい。もらうわ、それ」

「そ、そうか……気に入ってくれたならよかったよ」

 宮村は少しだけ安心する。

「ていうか、さっきは聞きそびれたけど結局、神様は何してたんだ?」

 刀魔は神の方を向き問いかける。

「我は地獄を治める者。常に己等を視て居る訳では無い」

「総理大臣みたいなもんか」

 龍海が言う。

「総理大臣……?」

 宮村には龍海の例えが引っかかってしまう。

「……で、結局何してたんだ?」

 刀魔は再び質問する。

「現世を生きる者に語る事では無い」

「……なんか神様の掟みたいなのがあるのか?」

 刀魔の問いに神は黙っている。

「はぁ……いいよもう、答えないんだったら」

 呆れてため息が出る刀魔。

「俺はもう帰ります。じゃあまた」

 そう言うと刀魔はエレベーターへと歩いていった。

「お疲れ様。またよろしくね」

 宮村は手を振り、刀魔を見送った。その後で今度は龍海の方を向く。

「君も、もう帰るかい?」

 龍海は無言のままエレベーターへ向かっていった。


 * * * * *


 日が沈み始めた頃、数人の少年達が少し離れた場所からコンビニを覗いている。その中にいる気の弱そうな背の低い少年を見ていた。

「うーわ、マジでやりやがったあいつ」

 1人の少年が笑いながら言う。見るとコンビニにいる少年は、棚に並べられた商品を自身の鞄に入れていた。

 少年がいくつか商品を盗っていると店員に見つかってしまった。すぐに店の奥に連れていかれる。

「うは、見つかってんじゃん!」

 連れていかれた少年を数人の少年達は馬鹿にして笑っていた。

「どーすん? これ」

「知らね、帰ろーぜ」

 少年達は見捨てて去った。


「なんでこんなことしたの?」

 気の弱そうな背の低い少年が店員に詰められている。少年は黙っている。

 店員は少年の鞄から、盗まれた物を出していった。

「ペン、お菓子、漫画……こんなの別に高い物じゃないでしょ。買えるよね? なんで万引きなんかしたんだ」

 少年は俯いたまま答えない。

「……君、学生? 学校どこ? 学生証ある?」

「……ありません」

 小さい声で答える。

「はぁぁ……」

 店員は大きなため息をついた。

「名前は?」

 店員は少年の名を聞く。少年はやはり小さい声で答える。

「……青木兵太あおきひょうた……です……」

「兵太君ね。スマホ持ってるよね? お父さんかお母さんに電話して」

 兵太はスマホを取り出し、父親に電話をかける。

「貸して」

 店員は兵太からスマホを取り上げた。しばらくして父親が電話に出る。

「もしもし? 青木兵太君のお父さんですか?」

 店員は兵太の父親に万引きの事を説明した。

「……お父さん来るってさ」

 兵太は下を向いて黙っている。そんな沈黙の中、20分程経った頃

「兵太!!」

小太りの男が部屋に入ってきた。青ざめた顔で、額に汗を滲ませている。

「お父さんですか?」

 店員が確認すると男は大袈裟に頷く。そして、すぐさま兵太に詰め寄った。

「兵太! お前なんでこんなこと……!」

 言葉に詰まる。いろいろな感情が行き交っている。兵太は相変わらず黙っていた。

 2人の様子を見ていた店員が口を開く。

「あのー……今回の事は学校に言いますんで、連絡先……」

「ま、待ってください!!」

 父親は焦って店員の言葉を遮り、店員に縋り着いた。

「どうか……! どうか学校には言わないでください!!」

 父親は床に膝をつき、額を擦り付ける。

「商品の弁償はいたします! 慰謝料もお支払いさせて頂きます!! なのでどうかこの事は……!!」

「あぁーわかった! わかりました!! 土下座すんのやめてください! もういいですよ」

 店員は嫌そうな顔をしている。

「俺だって別にただのバイトだし、責任とかメンドいし、とにかく商品代さえ払ってくれたらもういいですから!」

「も……申し訳ございません…………!!」

 父親は1度上げた頭を再び下げた。


 車の中、父と子が話している。

「なぁ兵太、なんで万引きなんてしたんだ?」

「……ごめんなさい」

 兵太は下を向いたまま言う。

「謝るだけじゃわからないだろ」

 しかし、兵太は話そうとする気配もない。

 沈黙が続く。いつの間にか車は家に着いていた。車を降り、玄関の扉を開ける。

「ただいま」

 2人が家の中へ入ると2階から1人の少女がやってきた。

「お父さんおかえり」

「ただいま、美宙みそら

 美宙と呼ばれた少女は父親の後ろにいる兵太に気がつく。

「お兄ちゃんもおかえり」

「うん、ただいま」

 兵太は引きつった笑顔を見せる。

雪翔ゆきとは? 2人共ご飯終わった?」

 父親は美宙に聞く。

「食べたよ。雪翔今宿題してる」

 美宙がそう言ったすぐ後に、2階から少年がやってきた。

「ねーちゃん、パソコンわかんない。あ、にーちゃん。おかえりー」

「ただいま……」

 兵太はまた引きつった笑顔になる。

「にーちゃんパソコン教えてー」

「待て待て、お兄ちゃんまだ夕飯食べてないんだぞ」

 父親は雪翔を止める。

「いいよ……後で食べる」

 兵太は雪翔と共に、2階にある子供部屋に向かった。

「お兄ちゃんまだご飯食べてないの?」

 美宙が聞く。

「あぁ、その……塾が長引いたらしくってな」

 父親は嘘をつく、万引きのことは娘には言えなかった。


 しばらく経ち、兵太が2階から降りてきた。

「どうだ? 雪翔の宿題、終わったか?」

 父親が聞く。テーブルには兵太の夕飯が並べられていた。

「いや……今は1人で頑張ってるよ」

 兵太はお盆を取り出し、その上に皿を並べ直す。

「おい、兵太……」

「部屋で食べる……」

 兵太は2階に上がり、自室に籠ってしまった。父には見送るしかできない。


 兵太はパソコンのモニターを見ている。そこにはゲームの画面が映っていた。

 戦車に乗り、照準を合わせ相手を撃つ。爆発して消滅する相手プレイヤー達。爆発を見つけた他のプレイヤーが兵太の姿を探す。しかし兵太は、撃った後にすぐに姿を隠していた。そんなことを繰り返し、ダメージを受けないまま敵を倒し続ける。しばらく経つと画面には『VICTORY』の文字が、兵太以外の全てのプレイヤーが倒れたようだ。

「…………うん」

 兵太はあまり納得いかないような表情をしている。スマホを手に取り、すぐにSNSのアプリを開く。

『バイソンさんどこいました??』

 兵太の元にメッセージが届いている。

 ゲーム画面には自身のプロフィールが表示されていて、そこには『_bison』と書かれている。バイソンとは兵太のことらしい。

『ずっと動いて隠れてました山の中とか地下とか』

 返事を返す兵太。すぐにまた返事が来た。

『もしかして足下急に爆発したのってバイソンさんがやりました?地下から地上ってどうやって見てるんですか???』

『通ると思ったので撃ちました見えてはないですタイミング合わせて感覚でやりました』

 兵太がそう返すと相手は驚いていた。

『能力者????』

 褒めてくれているというのは兵太も理解している。しかし満足はできていない。さっきの勝負の中で、地下から地上を撃つというのは何度か挑戦していた。だが成功したのは2回だけ、このメッセージ相手を狙った弾も、1度は外れている。今日はいつもより上手く立ち回れていない。

 今日あった出来事を振り返る。塾帰りにたまたま出くわしたクラスメイト達、連れられてきたコンビニ、怒る店員、頭を下げる父親。頭の中に靄がかかっている。兵太は椅子の上で膝を抱えて丸くなる。


 仏壇の上に写真が置いてある。父親はその写真に向かい話しかける。

「なぁ、なつ……こんな時どうしたらいいんだろうな……」

 写真に写る女性との会話を思い出す。

「ねぇ創司そうじ君、兵太のことなんだけどね? あの子、もしかしたら学校で嫌な想いしてるんじゃないかって思うんだけど……」

 創司は写真に写る夏に話し続ける。

「俺、あいつが何かに悩んでることに最近になってようやく気づいたよ……情けないよな、父親として……今日の事もそれと関係してるのかな……」

 創司が悩んでいると、そこへ美宙がやってきた。

「お父さん……」

「あぁ……美宙。どうしたんだ? お風呂入ったのか?」

「うん……」

 美宙は創司の隣に座り、写真を眺めている。

「お母さん……」

 美宙はしばらく黙って写真を見ていたが、泣き出してしまった。


 * * * * *


 月曜日の朝、登校中の刀魔は浅羽家に向かっていた。

「よう、刀魔。おはよう」

 通りすがりの車が窓を開け、中から樹が手を振る。

「おはようございます。樹さん」

「今日も早いな」

「そうですね……なんか早く目が覚めて」

 昨日の戦い、龍海がいなければ死んでいたかもしれない。そう考えるとあまり眠れなかった。

「この前もそんなん言ってなかったか? ちゃんと寝れてるか?」

 樹は刀魔を心配している。

「まぁ、大丈夫です。昼眠いとかはないし」

「そうか……? まぁいいけど、無理すんなよ。じゃあな、鈴音を頼むぞー」

 樹は車を走らせ去っていく。刀魔は樹を見送り、再び歩き出す。

 しばらく歩き、浅羽家に到着。刀魔は玄関前に立つ。インターホンを押し、鈴音を呼び出す。

「おーい、鈴音ー」

 返事がない、物音すらしない。

「……鈴音ー?」

 刀魔はドアを開けようとする。しかし鍵がかかっている。先に行ったのかと振り返る刀魔。すると、物陰から何者かが刀魔に飛びかかってきた。

「わぁっ!!」

「うおっ……鈴音? 何してんの……?」

 刀魔は突然目の前に現れた鈴音を見ている。

「あれ? あんまり驚いてない?」

「いや、まぁ驚いてはいるんだけど……」

「うーん……ま、いっか。学校行こ」

 刀魔へのいたずらが思ったように上手くはいかず、鈴音は次のいたずらを考えながら歩き出す。

「いや、今の何だったの……?」

 刀魔はわけがわからず、先を歩く鈴音を追いかけた。


 * * * * *


「我が主、志崎壕介様。面白い者を連れて参りました。」

 コオロギが女の悪霊を連れて、志崎の前で頭を垂れる。

「ほう、面白い者と……何者だ?」

「地上で見つけました。私が見た時は1人の少年を殺めておりました。おそらく、過去にも何人か手にかけているかと……」

 コオロギが説明していると

 ゴオオオォォーーッッ!!

巨大な火柱が上がった。

「ひ……こわい……! いや……ッ!!」

 火柱を見た女は怯えて暴れだした。コオロギは暴れる女を押さえつける。

 志崎は女の顔が半分溶けてなくなっていることに気がついた。

「火傷跡か?」

「そのようですな。ここまで火を恐れる辺り、死因も全身火傷などが考えられるかと」

「その中でも、顔の火傷は心にも深く傷を負わせたようだな。だからこそ悪霊となっても尚、傷が残っているのだろう」

 志崎は女に近づき、顔を見る。そしてしばらく考えた後、口を開いた。

「宮村はマグマレックスを完成させたようだな」

 志崎は自身の遺した設計データを思い出している。

「あれは炎を操る機体……そしてデモンカイザーにはあの力が……よし、次はこいつを使うぞ」

 志崎はコオロギに合図を送り、女を解放させる。

「他の霊魔や悪霊共の力を吸わせろ。この者をさらに強化し、より強い霊魔にする」

「承知しました。すぐに手配を」

 コオロギは女を連れて消えた。

「……さて、お前の真価を見せてみろ。デモンカイザー……!」

 闇の中で、志崎は笑っていた。


 * * * * *


 放課後、刀魔と鈴音は帰路に着く。そんな中、刀魔のスマホにメッセージが届いた。

「結子おばさん? えー、そうかぁ……どうしよっかな?」

「どうしたの?」

 鈴音が聞くと刀魔はスマホの画面を見せて言う。

「仕事が長引いて帰ってくるのだいぶ遅くなるんだってさ。だから夕飯は自分でなんとかしてって……どっかで食べるかなぁ」

「あっ! じゃあ私も!」

 鈴音は手を挙げて言う。

「私もって……お前は樹さんと……」

「いーんです! お兄ちゃんも適当になんか食べるでしょ」

「酷い扱いだな……まぁ俺はいいけど、ちゃんと樹さんに連絡しとけ」

「わかってますー」

 鈴音はスマホを取り出すと樹にメッセージを送った。

「よーしっ! 行こー! 私ハンバーグ食べたい!!」

「お前が決めるのかよ? まぁいいや。行こうハンバーグ」


 * * * * *


「おーい、青木くーん?」

 少年達が兵太を取り囲んでいる。

「お前昨日失敗してたよなぁ? どーすんだよ、お前のせいで俺が流行に乗り遅れちゃったら。どう責任取んの?」

 1人が兵太に詰め寄ると、兵太は鞄から漫画雑誌を取り出した。

「こ、これ……」

「えぇ、何? 買ったん? 盗もうとして見つかって結局買ったのかよ? うわぁーダッセ!」

 不良は兵太から漫画を取り上げる。

「悪ぃなァ、買わせちゃって」

 不良達はそう言いながら、兵太を馬鹿にして笑っている。

「で? 他になんもないワケ?」

「え……他って……」

「わかんだろ? 出せよ、ホラ」

 不良達は兵太を追い詰める。

「ご、ごめんなさい……今お金持ってない……です…………」

「はァー? なんだそれ? しょうがねぇ。おい、やろーぜ」

 1人が兵太を羽交い締めにする。

「いいか? 持ってきてねぇのが悪いんだ」

 そう言って不良は兵太を殴ろうとした。しかし、兵太の前にまた別の少年が顔を出し、その拳を顔面で食らった。

「えっ……矢次龍海……?!」

 不良は自分が殴った相手の顔を見て驚く。

「俺を殴ったなァ? これは殴り返してもいいよなァ!?」

 龍海は目をギラギラさせて笑いながらそう言うと、目の前の不良の顎下から拳を突き上げた。不良は後ろ向きに倒れ、痛みで叫ぶ。

 龍海は不良を掴むと、持ち上げて壁に叩きつける。

「おいおい、次はお前の番だぞ? やらねぇのか? やらねぇならもっぺん俺の番でいいよなァ?」

「ま、待って……俺は喧嘩しない……」

 不良は龍海に言い聞かせようとするが、龍海は不気味に笑いながら、今度は顔面を殴った。不良は殴られた衝撃と、殴られた反動で頭をコンクリートの壁にぶつけてしまったことで気絶した。

 龍海は伸びてしまった少年を投げ捨て、次の標的に寄って胸ぐらを掴む。

「よォ、殴れよ。ほら」

 掴まれた少年は怯えている。

「殴れッてんだ! 来いよ!! オイ!!」

 怒鳴られた少年は震えながら龍海の肩に拳を当てた。虫すら殺せなさそうなパンチだった。

「舐めてンのかア゙ァ!?!」

 龍海が拳を振り上げる。しかし

「ま、待って!!」

兵太が声を上げた。

 龍海は怯える少年を突き飛ばし、兵太の方を向く。

 不良達は仲間を拾って逃げていった。

「……お前この前のやつだな?」

 龍海は今叫んだ少年が前に不良達に絡まれていた少年と同じだということに気がついた。

「なんなんだ? お前よ」

 龍海は兵太に近づき、ついさっきと同じように胸ぐらを掴んで壁に叩きつけた。

「お前立場わかってんの? お前からやってやろうか? ア゙?」

「……喧嘩は……よくない……ので」

 兵太は怯えながらも、真っ直ぐ龍海を見つめる。

 そこへ遠くから小太りの男が走ってきた。

「兵太あああーーーーッッ!!!」

「えっ……お父さん……?」

 創司は龍海の腕を振り解き、兵太の前に盾になるように立つ。

「な、なんなんだお前は!! 俺の息子に手を出すな!!」

 創司は息を切らしながら龍海を威嚇する。

「待って、お父さん! この人は違う!」

 兵太は目の前の少年は自分を助けてくれたと父親を説得しようとする。しかし創司は取り乱して、話を聞かない。

「……なんなんだよ、クソッ……!」

 龍海は息子を守ろうとする父親の姿を見て動揺している。苛立ちながら、舌打ちをして去ってしまった。

「兵太! 大丈夫か? 怪我してないか?」

 創司は全身に汗をかき、兵太の肩を持つ。

「うん……」

 兵太は複雑な表情をしていた。


「なんなんだよ……なんで俺には……っ!」

 龍海は親子の姿に苛立っていた。

 自分の父親の姿を思い出す。

「あぁ……クソッ!!」

 コンクリートの壁を殴り付ける。少しひびが入り、欠片が下に落ちる。龍海の手にも血がついている。

 ドオオォォォォォンン………………

 太鼓の音が聞こえた。龍海は辺りを見回す。すると、神が龍海を見ていた。神は後ろを向き、歩いていった。

「……丁度いいぜ、ストレス発散してやるよ」


 枯れた大地の上で巨大な植物が揺れている。巨大植物は蔓を伸ばすと、それを空間のひびに叩きつけた。割れ目が広がり、瘴気がどんどん流れ込む。

「ダアアァァァぅら゙あ゙あ゙アアァァァァァッッ!!!」

 マグマレックスが勢いよく植物に突っ込んだ。強烈な頭突きを喰らい仰け反る植物。しかし植物は体勢を戻し、マグマレックスをはね飛ばした。空中で姿勢を変え、なんとか着地するマグマレックス。

「なんだァ? 花……木か? おあつらえ向きじゃねェか。キャンプファイヤーにしてやるよ!!」

 マグマレックスは大地をしっかりと踏む。力を溜め、口を開き、一気に放出する。

「バアアァァァァァニングゥッッ……ロアアアァァァァァァッッッ!!!」

 業火が植物を包む。炎はどんどん大きくなり、黒煙が立ち上る。

「おー、随分派手に燃えるもんだなぁ」

 龍海は炎を見つめている。しばらくして火が消えると、巨大な炭が見えた。

 マグマレックスが炭と向かい合っているとデモンカイザーがやってきた。

「悪い! 遅くなった!」

「遅すぎんだよ。もう終わったぞ」

 龍海はもう帰ろうとしていた。しかしモニターを見ていた宮村がそれを止める。

「まだ終わってない! 気をつけろ!」

 炭にひびが入り、崩れていく。すると中から再び巨大植物が現れた。

「ア゙ァ……? んだそれ……だる」

「終わってないじゃないか……遅すぎなかったな」

 刀魔は少し嫌味っぽく言う。龍海はデモンカイザーを睨むと舌打ちをした。

「よし……やるぞ、デモンカイザー!」

 刀魔が呟くとデモンカイザーは体を低くする。片足を引き、拳を握る。

「魔皇撃神ッ!! デモンカイザアアァァァァァァッッッ!!!」

 刀魔の叫びと共にデモンカイザーは右腕を高く掲げ、そのまま大地へと振り下ろした。地が割れ、光が溢れる。

「ダークネスブレイドッッ!!」

 引き抜いた拳には大剣が握られている。

「うおおおおあああアアアアッッ!!」

 デモンカイザーは霊魔に突っ込み、振り上げたダークネスブレイドで霊魔の体を斬る。刃が食い込み、霊魔の体に絡まった無数の蔓が次々切り落とされていく。ついに剣が霊魔の本体である、巨大な幹に届いた。しかしどういうわけか、デモンカイザーの動きが止まった。

「なんだこれ……?! 止まった……!」

 いくら力を入れても、ダークネスブレイドはそれ以上敵の体を斬ることができない。

 デモンカイザーが剣を動かせずに足掻いていると、霊魔はデモンカイザーを目掛けて触手を伸ばしてきた。その先端には大量の棘がついた口のような葉がついている。霊魔はその葉でデモンカイザーの頭に噛み付いた。

「うわあァっ!? なんだ!?」

 コクピットの中で警報が鳴る。頭部カメラに異常が起きているようだ。

「無様なもんだなァ? そこでおとなしくしてろよ……!」

 龍海はそう言うと、マグマレックスの体勢を低くさせる。

「1回でダメならもう1回だ! バアアアァァァァニングゥッ……!」

 再びバーニングロアーを放とうとする。その時、霊魔を覆っていた蔓の中央が左右に分かれて、中から顔のない白い女のような不気味な影が現れた。女が腕を広げると、腹が裂け中には水のような何かが見えた。

「これは…………っ!? 龍海君、ダメだ! 今撃っては……!!」

 宮村は龍海を止めようとする。しかしもう遅い。

「ロアアアアァァァァァァァァァァッッッ!!!!」

 渾身の一撃が口から放たれた。同時に女の腹から水のような溶液が勢いよく飛び出す。炎と溶液が競り合うようにぶつかる。すると、ぶつかったエネルギーの中心で大爆発が起きた。

「うわああアアアアアっっ!!?!」

 爆風に飲まれ、デモンカイザーは火達磨になりながら大きく飛ばされた。

「刀魔君ッッ!!」

 宮村が身を乗り出して叫ぶ。

 龍海は吹き飛んだデモンカイザーを見ていた。

「おい……嘘だろ? こっち来んなよ……ッ!!」

 吹き飛ばされたデモンカイザーはマグマレックスの上に落ち、そのまま押し潰した。

「グァああッ!?!」

 2体は地獄の底に転がった。

「龍海君!! 2人共しっかりするんだ!!」

 宮村の声がコクピットに響く。

 霊魔も爆風に巻き込まれ、枯れたようにぐったりとしている。すると霊魔の周りに奇妙な紋様がいくつも浮かび上がった。

「なんだあれは……?!」

 宮村が驚いていると紋様は強い光を放ち辺りを覆う。光が収まるとそこには霊魔の姿はなかった。

「!? 逃げたのか……? いや、今はそんなことより……!」

 宮村は2人を回収しようと必死だ。


「志崎壕介様、回収は完了致しました」

 コオロギの横には全身に葉や花を生やした白い女がいた。

「思ったよりもダメージが大きいようです。この者はもう使い物にはならないかと。例の計画へ流用しますか?」

 コオロギは使い捨てにするよう提案していた。しかし志崎はそれを止める。

「いや……回復させてもう一度出せ。計画のためにもな」

「承知しました」

 そう言うと志崎は女と共に、光に包まれ姿を消した。

「……デモンカイザー……まだ早かったようだな……1度繰り手の顔を見ておくか?」

 志崎は目の前に転がるデモンカイザーを見つめている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る