★見つけた!
アルカネイア、アルカナ魔法大学の中央棟にあるアンタレス研究室。
研究室内には様々な魔導書や魔法陣の設計図が並び、天井には浮遊するランプが淡い光を放っている。部屋の中央には大きな研究用の机があり、備え付けの豪華な椅子に座るアストレアの正面に、アズールは傍に置かれていた小さめの椅子を持ってきて座っていた。彼女は書物の山に囲まれながら、必死に魔法陣の構成を見直していた。
(ボクがやらなきゃ…アキくんを助けるために…)
彼女の手元には、一冊の厚い魔導書が広げられている。それは、アキラと共に執筆した次元魔法に関する研究書だった。アズールは食い入るように魔導書のページを追い、何度も計算式を確認しながら、アキラの消失の原因を解明しようとしていた。
だが、突然――
「っ…!」
アズールは息を呑んだ。
体内の魔力が震え、心臓が激しく跳ね上がる。今まで感じたことのない、しかしどこか懐かしい魔力の波動が、一瞬彼女の魂を震わせたのだ。
「まさか…!」
アズールは勢いよく立ち上がると、首から下げているロケットペンダントを握りしめた。次の瞬間、ペンダントの中の写真がかすかに光を放つ。
――アキくん…!?
震える声で呟く。彼女の瞳には、信じられないほどの感情が渦巻いていた。
「どうしたの?」
向かいの机に座っていたアストレア=アンタレス教授が、アズールの異変に気づいて声をかける。その声も、どこか緊張を孕んでいた。なぜなら、アストレア自身も先ほど展開していた感知魔法を通じて、強烈な魔力の波動を捉えていたからだ。
アズールは息を整えながら、アストレアに視線を向ける。
「アキくんの魔力が…! ボクのロケットペンダントを通じて、アキくんの魂の波動が感じられました!」
その瞬間、アストレアの表情が驚愕に変わる。
「やはり…!」アストレアは椅子から立ち上がり、宙に浮いている魔法陣を睨みつけた。
「私も感知しました。彼の次元属性魔法の発動と、彼自身の魔力反応を…!」
アズールは、両手でロケットペンダントを握りしめたまま、目に涙を浮かべる。
「アキくん…生きてた……!よかった……!」
感激のあまり、涙が零れる。
アズールは唇を噛み締め、嗚咽をこらえるように震えた。その様子を見たアストレアは、優しく微笑むも、すぐに表情を引き締めて言った。
「私も嬉しいわ。でも…今は喜んでいる場合じゃない。アキラくんの座標を見失わないように、すぐにアンカリングします!」
アストレアの言葉に、アズールはハッとする。
「そ、そうだよね…!」
アズールは急いで机に置かれた魔導書をめくり、次元魔法のリストを確認する。そこには、異なる次元の特定の存在を観測する魔法――第五階梯の次元属性魔法、
「教授、準備できました!」
アズールがアストレアを振り返る。
アストレアは微笑みながら「始めます」と答えた。
アストレアは詠唱の前に、一つだけアズールに忠告をした。
「本来、この魔法はアキラくんが事前準備を入念に行い、かつ彼自身の次元魔法への適性で成立させているものよ。私たちが使用する場合は、二人で息を合わせることが必須。それに、あなたのロケットペンダントを触媒にしなければ、この魔法は成立しません」
アズールは力強く頷いた。
「ボクがアキくんのために使う魔法だよ?成功以外あり得ないよ!」
2人はそれぞれ魔法陣の中央に立ち、交互に言の葉を紡いで詠唱を始めた。
「時を超え、空間を紡ぎし無限の
「光の彼方に漂う存在を見出し、ここに繋がれ」
「世界の歪みを正し、我らが探求を導け」
「求めるは遥か遠き魂の輝き、我が想いの向こうに!」
「闇を裂き、光を貫く魔法の理を示せ」
「我が名はアズール、アズール=オニキス。我と片割れの魂の繋がりを、ここに証明せよ――!」
詠唱が進むにつれ、二人の足元に蒼色の魔法陣が広がり、空中には三つの黒色の魔法陣が出現した。
「「――
アズールとアストレアが声を合わせると、アズールの首元のロケットペンダントが強烈な光を放った。
その光は、ペンダントから20cmほど伸び、まるで”見えない何か”と繋がっているかのような状態だった。
「繋がった…!」
アズールは魔法の発動を本能的に理解し、歓喜に震えた。
「アキくんとパスが繋がった!!」
アストレアも冷静に感知魔法を確認し、一息つく。
「成功ね…!アキラくんのいる次元を特定、今アズールさんのロケットペンダントを触媒として、私たちと彼との間に魔力のパスが出来たわ」
しかし、アズールが喜びに浸る間もなく、アストレアは厳しい声で告げた。
「でも、ここから先の工程を今すぐに、は厳しいですね。この魔法、消耗が激しすぎるわ」
アズールは焦燥感に駆られるが、自身の魔力が大幅に消費されていることに気づく。彼女は苦々しくも頷いた。
「…わかった。けど、すぐにアキくんを迎えに行かないと…!」
アストレアは優しく微笑む。
「ええ、でも今日は休みなさい。次の準備を整えるためにもね。」
アズールはぎゅっとロケットペンダントを握りしめ、涙を堪えながら呟いた。
「…アキくん、ボクがすぐに行くから。待っててね。」
アズールの声は、遠い異世界にいるアキラへと、確かに届いていた――。
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