城塞都市カルカソンヌ
アキラとアリアの向かう街の名前を変更しています(グロスター→カルカソンヌ)
--------
夕陽が草原を柔らかく照らす中、アキラはアリアに連れられてカルカソンヌを目指して歩き始めていた。空気は澄み渡り、どこまでも続く夕暮れの空が二人の背中を押しているかのようだった。
「カルカソンヌって、どんな街なんだ?」
アキラは歩きながらアリアに問いかけた。記憶を失い寄る辺のない彼にとって、この世界のことは全てが新鮮で、同時に手探りだった。
「カルカソンヌはこの世界、ブレイドヘイムでも有名な城塞都市よ。街の中心にはお城があって、その周りに教会や宿屋、それに冒険者ギルドが集まっているの。砦で囲まれているから、防衛力も高いわね。」
アリアは微笑みながら説明する。その表情からは、この街に対する誇りと親しみが感じられた。
「なるほど、騎士が主役の世界って感じがするな。」
アキラは頷きながら答える。その瞳には興味と少しの不安が混ざり合っていた。
「それにしても、アキラって分からない事だらけの割に冷静ね。私だったら不安で仕方ないと思うけど。」
アリアは軽く肩をすくめてみせた。
「そうかもしれないな。でも、不思議と焦りは無いんだ。それに、これだけ親切に案内してくれる人がいるんだから何とかなる気がするんだよ」
それに不思議と力を貸してくれそうな写真入りのペンダントもあるしな、と心の中で嘯いたアキラ。
アキラの言葉に、アリアは少し驚いたようだったが、すぐに微笑みを返した。
「その強さ、嫌いじゃないわ。さ、急ぎましょう。カルカソンヌまではあと少しだから。」
草原の緑が徐々に途切れ、遠くに巨大な城壁が見えてきた。その向こうには、石造りの高い塔と屋根が連なり、壮観な風景を作り上げている。
「あれがカルカソンヌか……」
アキラは立ち止まり、その姿をじっと見つめた。城塞都市としての荘厳な雰囲気と、どこか彼にとっては馴染みのない物を感じさせる景色がアキラの心を揺さぶった。
「圧倒されるのも無理ないわね。でも、まだ門の前よ。」
アリアが軽くアキラの肩を叩き、先を促す。
二人が城門に近づくと、そこには重装備の衛兵たちが立っていた。鋭い視線で行き交う人々をチェックしている。
「おい、そこの二人、立ち止まれ!」
一人の衛兵が手を挙げて声をかけてきた。アリアは表情を崩さず、一歩前に出る。
「私はアリア=ルベライト。『紅翼騎士団』の副団長よ。この方は……」
アリアが言葉を選んでいる間に、衛兵たちの視線はアキラに向けられた。
「そちらの方はどなたですか?見たところ、見慣れない顔ですが。」
衛兵の声には警戒心が滲んでいた。
「彼はアキラ。少し事情があってね。街の中で確認したいことがあるの。」
アリアはきっぱりと言い切った。副団長の肩書きが影響してか、衛兵たちはしばらく顔を見合わせた後、少し緩んだ表情で頷いた。
「分かりました、副団長殿。どうぞお通りください。ただし、問題が起きた場合は報告をお願いいたします。」
衛兵が敬礼をして道を開けると、アキラとアリアは門をくぐった。
カルカソンヌの街中は活気に満ちていた。石畳の道には馬車が行き交い、露店からは香ばしい匂いが漂う。冒険者と思しき人々が剣を携え、宿屋の前で談笑している姿も見える。
「ここがカルカソンヌか……すごいな。」
アキラは周囲を見渡しながら呟いた。これほど雑多な人々が集まり、生活を営む様を眺めて感心していた。
「でしょ?この街は要衝でね、色んな人達が集まる場所でもあるの。だから、情報を集めるには最適なのよ。」
アリアは誇らしげに言った。
「なるほど。情報を集めるって、俺自身に関することも含まれるのか?」
アキラは少し戸惑いながら尋ねた。
「もちろんよ。あなたが何者なのか、少しずつ明らかにしていきましょう。ただし、その前にまずは宿を取らないとね。」
アリアは明るく答えた。その前向きな姿勢に、アキラは少し救われたような気持ちになった。
宿を取る前に、二人は冒険者ギルドを訪れることにした。アリアの提案で、アキラの身分証のようなものを用意するためだ。ギルドの中は賑やかで、掲示板には様々な依頼が貼られているのよ、とアリアに紹介を受けながら、足早に向かうアキラであった。
「冒険者ギルドになら、何かヒントがあるかもしれないわね。」
アリアが小声で言った。
一歩ずつ、アキラの新しい生活が幕を開けようとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます