秋田追放
金澤流都
1 馬鹿しゃべすな
ギャル女子高生日本国大統領、譲葉サユは言った。
「秋田県いらなくね? インバウンドもよわよわだし食べ物大して作ってないし人いないじゃん! 秋田県、あるだけ無駄だし日本じゃなくすればよくね?」
なんということだ、ギャル女子高生日本国大統領のセリフは国会中継で流れ、間に受けた大人たちのせいで文字通り秋田県は日本から追放されることとなったのである!!!!
◇◇◇◇
「どでんしたなんす。これどうするすか」
どでんしたなんす、と言うのは「動転しました」という意味であるが、県議会議員がそう言う。秋田県知事である佐竹ルイ15世(18歳)は頭をかかえていた。
「どうしようもねんだは……このまま滅びるしかねぇびょん」
びょん、というのは「だろう」という、推量を意味する言葉である。
もともと秋田県は譲葉サユからの「クマちゃん殺すのかわいそうじゃん! なんでそんなことするの!?」という鬼電に悩まされていたので、いっそのこと追放されたのはありがたいこととも言えた。だがそれにしたって打撃が大きすぎる。
秋田県のようなクソ田舎といえども、人は住んでいないことはないし、人が住んでいるならその生活を維持しなくてはならない。そして秋田県の中だけで生活をまかなうのは難しいことなのである。
スーパーを見れば味噌すら他県産のものだ、これから秋田県内で作るにしてもその技術は「ロスト・テクノロジー」であった。
図書館に知恵を求めることも考えたが、図書館はすでに維持管理が難しいほど人口が減っており、ほとんどの本が廃棄されていた。
AI汚染の進んだ時代である、ネットに知恵を求めるのは命に関わる。そもそも県外のサービスを利用しているインターネットは停まっている。
秋田県は追放されてしまったのでテレビもラジオも衛星放送も停波して、あっという間に秋田県では視聴できなくなった。
(いや、ただクソ田舎具合が増しただけでねが。なんとかなるべ)
佐竹ルイ15世は拳に力を入れ、膝の上の愛猫ミケちゃんを撫でようとして噛まれた。
◇◇◇◇
秋田県が日本から追放されて1日。
テレビやラジオ、ネットなどの情報インフラが絶たれ、人々は新聞を手に入れようと魁新報社や北鹿新聞社にたかったものの、こちらも大統領譲葉サユが秋田県を追放した以上の情報を持っていなかった。
県境は封鎖され、杉林を抜けて青森・岩手・山形に脱走しようとするものが相次いだものの、季節が冬だったので死者がドンドコ出るだけで終わった。
佐竹ルイ15世は必死で考えていた。なんとかして、秋田県を独立国として守らねばならぬ。
西暦20XX年1月。
秋田県は独立国家となるべく、佐竹ルイ15世は演説を行った。
「井上ひさしの吉里吉里人を読め! 我々は戦い、そして生きていく! 日本など恐るるに足りぬ!!!!」
「あの、質問だす。井上ひさしズのは誰だすか? 吉里吉里人ズのはなんたらもんだすか?」
「……え?」
佐竹ルイ15世は秋田県の上位8%の富裕層であった。それゆえに書籍を読み、教養を持ち合わせていたわけだが、秋田県民の大半は、旅行に行ったことも、本を読んだこともなかった。
いちおう小学校や中学校というのは各市町村に一つずつあるかないかくらいで存在していたが、遠くなってしまうと通うのが困難になり、車で通えていたある程度の収入のある層はともかく20XX年において、最底辺の秋田県民は読み書きもおぼつかないのであった。
それもあって秋田県は日本から追放されたのだな。
佐竹ルイ15世はおのれの愚かさを噛み締める。
◇◇◇◇
世界は日本国のこの動きをどうとも思わなかった。
独裁政権の続く旧アメリカ合衆国こと「ベスプッチ帝国」と、その周辺の諸国との戦争状態終結が、喫緊の課題だったからである。
ベスプッチ帝国は世界一の大国である、とベスプッチ帝国の国民は信じている。日本国はベスプッチ帝国に揉み手してヘコヘコする一方であったが、譲葉サユが「それは筋通ってないんじゃね? ダサッ」と言ってから、ベスプッチ帝国と日本国は睨み合い状態であった。
日本国は第二次世界大戦から100年以上経った現在も、平和憲法を死守していた。
その一方で「機動戦士ガンダム」や「宇宙戦艦ヤマト」といった兵器、「ショッカー」などの強化兵士の生産に成功しており、その兵力は世界最強とも言えた。
そんな中、ただ1人……ベスプッチ帝国皇帝、ジーザス・クライスト・スーパースターは、あることを目論んでいた。
(だれもなんとも思っていないことに価値がある。あのアキタケンとかいう土地、利用できるのではないか)
◇◇◇◇
「はぁ!? ジーザス・クライスト・スーパースター陛下が秋田サ来る!? そんな馬鹿みでったことあるわけねぇべした!!!! 馬鹿しゃべすな!!!!」
佐竹ルイ15世はひっくり返った。
なお「馬鹿しゃべすな」というのは「馬鹿なことをしゃべるな」という意味である。
「だども知事! いまあっちからベスプッチ帝国王室専用機が来てらす!!」
「仕事が早すぎるでば!!!!」
佐竹ルイ15世は、議員が突然入ってきて大声を出したせいでビックリした愛猫ミケちゃんに噛まれながら、覚悟を決めた。
そうして、日本史上に残る壮絶なタタカイが、たぶん始まったのである。(つづく)
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