第13話 騎士団訓練場でのドタバタ接触 2

「あのう、ルーク様って本当に遊び人なんですか?」

「え……!?」

ルークが軽く瞬きをする。

同時に、エリスの顔は青ざめた。

(ちょ、セシル!?急になんてこと聞いてるの!?)

「遊び人?誰がそんなこと言ったんだい?」

ルークは笑みを浮かべつつも、微妙に目が笑っていない。

「えーっと……それは…」

エリスはセシルがさらなる爆弾を投下する前に、咄嗟に彼女の口を塞いだ。

「…なるほど?言ったのはエリスか」

ルークは苦笑する。

「えっ!? 違います!そんなこと言ってないですよ!」

エリスは勢いよく手を振る。

「ルーク様、これは完全に誤解です! 遊び人っていうのは、その……ほら! 明るくて人付き合いがいいって意味なので!」

「ふーん、明るくて人付き合いがいい、か。それ、俺のことをよく見てる証拠だね」とルークはニヤリと笑った。

「あはは、ルーク様って誰にでも優しいから、きっとたくさんの人に好かれていますよね!」

なんとか話題を変えようとエリスは強引に言葉を繋げる。

「まあね、嫌われるよりは好かれた方がいいだろ?」

ルークは軽く肩をすくめ、冗談めかした口調で言う。


「確かにそうですね!ルーク様、私も遊び人になりたいのですが、どうしたらなれますか?」

セシルがキラキラした瞳で純粋無垢に尋ねる。

「――え?」

エリスは目を見開き、セシルを凝視するが、当の本人はいたって真剣な顔をしていた。

「いやいや、何を言い出してるの!?セシル、そんなの目指さなくていいから!」

セシルは不思議そうに首をかしげる。

「え、でもルーク様ってすごく楽しそうだし、人付き合いも上手いみたいだから、私も遊び人になれば楽しく過ごせるのかなって!」

「楽しそうに見えるのは、たぶんルーク様がポジティブなだけで、“遊び人”だからじゃないよ!」

「ハハハ、確かに俺はよく楽しんでるけど、遊び人になる方法なんて聞かれたのは初めてだな」

ルークは少し笑いを堪えながら言った。


「それで、どうやったらなれるんですか?」

セシルはさらに追撃する。

「えーっと……そうだな、まずは適度に社交的になることかな?それから――」

ルークが冗談半分に答えようとしたところで、エリスが慌てて口を挟んだ。

「ストーップ!ルーク様、悪ノリして変なこと教えないように!」

「えー、エリス邪魔しないでよ~。せっかくルーク様から直々に教わろうと思ったのに!」

セシルは唇を尖らせて不満を漏らす。

「いや、教わる必要ないから!むしろ学ばないで!」

エリスは疲れ切った声でツッコミを入れた。

「そんな必死にならなくてもいいじゃん。エリスは何を考えているの?」

ルークは悪戯っぽくニヤリと笑う。

「いや、違いますよ?セシルがなんか誤解してそうだから、間違いを正したくて!」

エリスは全力で否定するが、ルークはますます面白がっている。

「まあ、もし本当に興味が湧いたら、またいつでも教えてあげるよ?」

ルークは軽く手を振って余裕の笑みを浮かべる。

(いや、絶対に教わらせないからね!?)

エリスは心の中で固く誓う。


(それにしても…疲れた。今すぐ帰りたい。でも、ここでセシルとルークを二人きりにしたら、絶対にろくなことにならない気がする……)


「セシル、そろそろ帰ろう。これ以上ルーク様の訓練の邪魔をしたら悪いし」

エリスは半ば強引にセシルの手を引き、その場を立ち去ろうとした。

「うん、それもそうだね! ルーク様、今日はありがとうございました!」

セシルは相変わらず無邪気な笑顔で丁寧にお辞儀をする。エリスも軽くお辞儀をし、そのまま足早に訓練場を後にした。

「またな、二人とも。“遊び人講座”が必要になったら、いつでも呼んでくれよ」

ルークのからかうような声が背後から聞こえ、エリスはさらに速足になった。


こうして、エリスの心臓に悪い訓練場での一件は幕を閉じたのだった。

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