Column10 「玉蜀黍」は何と読む?

 今回は「玉蜀黍」の読み方について取り上げようと思います。


     ☆


 皆さん、突然ですが問題です。タイトルにある「玉蜀黍」という漢字は何と読むでしょうか。


 ヒントは、今の時期よく食べられるある野菜の名前です。蒸したり、ゆでたり、時には焼いたりして食べることもあると思います。缶詰になっているものもありますね。

 

 色は、日本の市場を見た限りでは黄色と白が多い印象ですが、あずき色のものや、粒が色とりどりであるため虹色と言われるものもあります。


 さて、分かりましたか?


 では、答え合わせをしましょう。


 ……正解は、「とうもろこし」です。


 私自身、普段ひらがなか、カタカナで「とうもろこし」「トウモロコシ」としか書かないですし漢字の表記を見る機会もないので、調べるまで知りませんでした。

 そのため漢字で書くと「玉蜀黍」であることを知って、「『とうもろこし』は漢字でこう書くんだ……!」としみじみ思ってしまいました(笑)


 それにしても、「玉蜀黍」を「とうもろこし」と読むのは正直難しいですよね。

 何故、「玉蜀黍」は「とうもろこし」と呼ばれるようになったのでしょうか。


 気になったので調べてみたのですが、中々に複雑な事情があることが分かりました。よって一つずつ確認しながら見ていきます。


「とうもろこし」の名前の由来を考えるに当たり、「とう」と「もろこし」に分けて考えます。


 まず、「もろこし」を考えましょう。「もろこし」は元々「諸越」と書きまして、これを音読みすると「しょえつ」と読みます。意味は「中国の越の国」。それを訓読みして「諸越もろこし」と読んだんですね。


 次に「蜀黍」を考えます。これは音読みすると「しょくしょ」と読みます。

 ですが日本語で「蜀黍」は、普通「もろこし」と読みます。このように読む理由ははっきりとわからなかったのですが、『精選版 日本国語大辞典』の「もろこし」の項目に、次のようなことが書かれていました。下記に引用します。


**********

【もろこし(唐土・唐)】『精選版 日本国語大辞典』

(「諸越しょえつ」の訓読みからできた語か。諸越は百越などと同意)昔、日本から中国をさして呼んだ名称。また、中国から伝来した事物に冠しても用いた。「唐土船」「唐土書」など。(以下略)

**********


 引用した中に、「中国から伝来した事物に冠しても用いた」とありますね。

「蜀黍」は中国から渡来してきたものらしく、「もろこし」という読み方が「蜀黍」に定着したのだろうと思います。


 次に、「とうもろこし」について考えましょう。

「もろこし」は前述したとおりです。

 では、「とう」は何か、というと「唐」のことです。これも、中国の名ですね。

 ですから、「もろこし」の本来の意味に戻ると、「唐諸越」となって、中国の名が重なってしまっているわけです。このおかしな点については、言語学者や『精選版 日本国語大辞典』でも指摘されています。


「おかしい」はずなのに、なぜそのまま「とうもろこし」という読み方になったのか。

 それは、のちに「玉蜀黍」が渡来して、先に日本に入って来ていた「蜀黍」の名前の由来が忘れられ、「唐から伝わった蜀黍もろこし」という意味で、「玉蜀黍」が「とうもろこし」と呼ばれるようになったからのようです。

 面白いですねぇ。


 ちなみに、「とうもろこし」の原産はアメリカです。

 その中でも「どこが原産なのか」というのは、調べるものによって違います。

 多くは「アメリカ大陸熱帯地方の原産」としているものが多いですが、「北米大陸」としているものもあって、「どこが原産なのか」特定の難しさを感じます。

 というのも、どうやら「とうもろこし」の原生種というのは見つかっていないようなんですね。


 それと、日本では「とうもろこし」は「唐から伝わった蜀黍もろこし」としていますが、実際には中国経由で日本に渡来したかどうかは分からないそうです。理由は「とうもろこし」を、「ナンバン」「ナンバ」「ナンバンキビ」などと呼ぶ地域があるからなんですね。


「とうもろこし」が入って来たのは十六世紀以降ですから、そのときの日本は大体安土桃山時代です。

「ナンバン」つまり「南蛮」を指す言葉は時代によって違いますが、十六世紀ごろならば「ルソンやジャワなどの東南アジア方面をさして用いた呼称、もしくは東南アジアに植民地をもつポルトガル・スペインをさした呼称」(『精選版 日本国語大辞典』を参照)なので、ここから「とうもろこし(玉蜀黍)」が中国から経由して入ってきたものなのか、曖昧あいまいな部分があるようです。


 ですから、「とうもろこし」は「唐から伝わった蜀黍もろこし」として名前がついてはいますが、「とうもろこし」が入って来た地域まで正確かどうかは何とも言えないということのようです。


 ……ということで、「とうもろこし」のお話は終わりです。

 いかがだったでしょうか。

「玉蜀黍」を「とうもろこし」と読む理由は、少々複雑でしたが伝わるものがあれば幸いです。

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