Column5 「スコーン」の名前の由来(後編)

 前回のColumnに引き続き、「スコーン」の名前の由来のお話です。


 ここでは、前々回提示した、②の説について考えます。一応その内容をこちらにも提示しておきますね。


②スコットランドで王の戴冠式に使われていた椅子の土台「the Stone of Scone(ザ・ストーン・オブ・スクーン)」(またの名を「the Stone of Destiny(ザ・ストーン・オブ・ディスティニー)」)に似せて作ったことに由来するという説。


     ☆

 

 次に②の由来の内容について考えます。


『増補改訂 イギリス菓子図鑑 お菓子の由来と作り方』の中に登場しました「the Stone of Scone」という石は現存しておりまして、今は、スコットランドの博物館で一般公開されています。


「the Stone of Scone」は王の戴冠式に使用された歴史ある石であり、「運命の石(「the Stone of Destiny)」とも呼ばれています。


 この「運命の石」というのは、イスラエルの聖ヤコブが枕にしていた際に、夢の中で神の啓示を受けたものだそうです。


 それが何故スコットランドにあるのかといいますと、ケルト王子と駆け落ちをしたエジプトの王女がアイルランドに持ち込み、その末裔まつえいが今度、スコットランドに持ち込んだと言われています。


 そのため、この時点ではスコットランドの国王が「石の上」で戴冠式を挙げていたようなんです。


 しかし、1296年にイングランドのエドワード一世がスコットランドに攻め入ります。この戦いに勝ったエドワード一世は、戦利品として「運命の石」をロンドンのウェストミンスター寺院に持って行くのです。そしてこれを椅子の下にめ込み、イングランドの王が戴冠式に座る際に使ったのでした。


 これにより、スコットランドの人たちは怒りました。彼らには「イングランドの王の尻に敷かれた」というふうに見えたからです。


 そののち長らくイングランドにあり、スコットランドの学生が盗み出したこともあったのですが、1966年にイギリス政府からスコットランドに返還されました。


 返還後はエディンバラ城に置いてありましたが、2024年3月にスコットランドにある博物館で常設展示されるようになったようです。


 他にも話は色々あるのですが、「スコーン」の名前の由来を知る上では、これくらいで十分でしょう。


 さて、ここまでの話から、②の由来が少しおかしいことにお気づきでしょうか。


 ②では「スコットランドで王の戴冠式に使われていた椅子の土台」と書いてありますが、実際に王の戴冠式で「運命の石」を「椅子の土台」として使っていたのは、「イングランドの王さま」です。


 ですから、②の文章は本来、次のようになるのかなと思います。


②スコットランドの王の戴冠式で使われていた「the Stone of Scone(ザ・ストーン・オブ・スクーン)」(またの名を「the Stone of Destiny(ザ・ストーン・オブ・ディスティニー)」)に似せて作ったことに由来するという説。


 想像するにどこからかの文章やら資料やらを転載していくうちに、変わってしまったのかもしれませんね。


「スコーン」の名前の由来の話から、歴史の話になってしまって随分遠回りになってしまいましたが、ここで話を「スコーン」のほうへと戻しましょう。


 ②の由来(修正したほう)について、どうして「スコーン」が「運命の石」に似せて作ったものと言われているのかというと、「運命の石」があったのが「スクーン宮殿」で、英語で「Scone Palace」と書くからです。この「Scone」がお菓子の「スコーン」と同じつづりなので、「スコーン」が誕生した一説として語られているのです。


「運命の石」は少なくとも十二世紀にはスコットランドにありましたし、「スコーン」の見た目はごつごつとしているので、「運命の石」に似せて作ったというのも納得できる人が多いでしょう。そして「スコーン」に関する記述は十六世紀にはあるとされているので、これらのことを総合的に考えて②の説が存在しているようです。


 以上、「スコーン」の語源に関する②の説のお話でした。

 Columnを三つまたいでのボリュームある内容でしたが、いかがだったでしょうか。

 個人的には、「歴史あるお菓子だからこその、複数の語源の説があるのが面白かったな」と思います。

 何はともあれ、楽しんでいただけたら幸いです。

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