第7話 これからの話

 朝、目が覚める。

 時間を見て、一瞬焦るがそうだった。

 もう、アルバイトは辞めたのだった。


 俺が新たな戦術を身につけてから数日、ゴブリンにリトルビー、それからスケルトン……様々なモンスターを倒すことができるようになっていた。

 そのお陰でお金も入るようになり、なんなら俺たちのパーティは今ではちょっとした小金持ちである。


とはいえ、習慣がそう簡単に変わるわけではなくいつものようにヒーコが用意してくれた朝ごはんを囲む。

 いただきます、そう言って一口目を口に運ぼうとしたその瞬間……


「たのもー!

 久しぶり、どうやら頑張ってみるみたいじゃないか!

 そろそろ話すとしよう……この世界での使命を!」

「……颯太をどこに連れてくのも自由ですけど。

 一旦、朝ごはん食べ終わってからでもいいですか?」

「あ……はい」


 ちょこんと玄関で正座しながら待つエクセア。

 ヒーコは少し前まで彼女に信仰心すら抱いていたはずなのに、信頼って崩れるのはすぐなんだな……。


 というわけで、ご飯を食べ終わった俺はエクセアについて行ってみる。

 まあ正直言って、俺たちは結構強くなった。

 ここら辺のモンスターなら倒すことができる……いや、スライムにはもう二度と挑まないけど。

 少なくともあれほど特殊じゃなければ戦えるレベルになっており、ある意味じゃマンネリ化を感じていたのだ。


 エクセアが入ったのは酒場。

 ……そういえば最近会わなかったけど、もしかしたらずっとここに入り浸ってるのかもしれない。

 俺たちが席に座ると、すぐに酒場にいた周りの人々も寄ってくる。


「エクセア聞いて〜、また5万負けたー。

 生活費使おうか迷ってるんだよね……」

「フー……ギャンブル買ったら金貸してよ……。

 あたしも最近タバコ吸う量また増えたんだから。

 嫌よね、こんなストレス社会」


 そんな話を聞いて、昼間っから酒を流しこむエクセア。

 何なんだこのイキリ大学生を三等分したような集団は。


「それで、俺に話があるんじゃなかったんでしたっけ?」

「あーそうそう、見てこれ……惚れ薬。

 颯太異性の知り合い多いじゃん、使ってみてよ」


 俺をイキリ大学生第四の柱にしようとするな。

 呆れた俺が席を立とうとすると、流石に焦った様子のエクセアに止められる。


「あー嘘嘘!違った、これじゃなかった!

 そうそう……使命の話だよね。

 これは、数十年前に遡るんだけど……」


 あれ、これ回想始まる?


「私の世界は、ひょんなことから魔王に支配された。

 そのために異世界から勇者を呼び出すことにしたの。

 そしたら、めちゃくちゃ効率厨で3日で攻略した」


 目を閉じて思いを馳せていたエクセアは目を開く。

 ……ん、これ回想一瞬で終わったっぽいな。


「でもその勇者はまさしくチート能力者でバッファーとしての力を与えられたのね?

 まさしく『異世界転生した俺がバッファーの能力で自分のステータス上げまくって無双しちゃった件!?』って感じだったんだけど……あまりに攻略が早過ぎた彼はとあることを思いつくの」


 3日で世界救った話ってラノベってより神話とかでしか聞かないけどな。

 でもまあ、正直絶望的な事情は見えてきた。


「……そう、多分颯太の考える通り。

 刺激を求めた勇者は、他のモンスターたちにバフをかけることにより、どんどんと難易度を上げて自分のために鬼畜なダンジョンを作り上げていった。

 そして結果的には、自分で作ったラスボスにやられてしまったの……」


 なんて最悪な置き土産だ。

 ……しかし、これでどうしてこんなに鬼畜難易度の異世界が出来上がったのかはよくわかった。


「そんなわけで、私ですら制御できないほどにモンスターたちは強くなったのだああああ!!

 ……こんなのもうお酒飲まないとやってられない」

「事情はわかりました……とりあえずその強力なモンスターたち、なんならラスボス?とやらまで倒せば良いってことですよね」


 首を思いっきり縦に振って強調しすぎなくらい強く同意するエクセア。


「それでとりあえず、現状は何をすればいいんですか?」

「まずは町周辺のモンスターたちを統べる最初のボスを倒さなくちゃいけない。

 ……これも勇者の仕業かは分かんないけど、この世界でも私たちが立ち入れるのは現状たった10%ほどなの。

 その範囲は恐らく、そのボスを倒せば広がる」


 なるほど、確かに俺たち異世界人が考えそうなゲーム的な設定だと思う。

 というか、エクセアは神のくせに権限なさすぎだろ。

 本当に天界に行けるだけの、ただの酒飲みだ。


「とにかく!……私はそのせいで、こうしてお酒で気分を紛らわせていないとやっていけないの!

 お願いだから、世界を救って〜!」


 ……切実すぎるな。

 とりあえず、事情を聞いた俺はどうするかを相談するために、一度家に戻ることにした。


「ただいまー」

「あら、だる絡みされてたのでもっと遅くなると思ってましたよ」

「颯太もババ抜きやる?」


 帰ってきたら、アリビアが遊びにきている。

 ……丁度パーティメンバーが全員揃っていることだし聞いてみるとするか。


「なんかさ、ボス倒すように頼まれたんだけど。

 ……どうする?」

「それって、強いんですよね」

「勿論……」

「ボスってもしかして……お兄ちゃんが命からがら逃げ出したって言ってたやつかな?」


 あのダクスさんが!?……今のレベルを確認する。

 レベル12、これまでの戦闘で確かに上がってきてはいたが、それにしてもまだ低い方だろう。


「…………やめるか」

「はい、それが得策だと思います。

 今のままでも、十分幸せな生活は送れてますし」


 俺はテーブルに座って渡されるカードに目をやる。

 そうだ、俺たちの戦場はこのテーブルの上。

 震えた手で、アリビアの手札を引く。


「……がああああああああ!」


 ニヤニヤ笑うアリビアと手元にあるジョーカー。

 さっきのリアクションから恐らく、ヒーコにも俺の手札は勘付かれたことだろう。


「それじゃ……ここです!」


 結局、俺たちのトランプ遊びは夜まで続いた。

 あー、生活に余裕があるってまじでいいなぁ。


 アリビアが帰って、風呂に入ってご飯を食べてベッドの中に潜る。

 今日もあまりに平和な一日だった……。

 明日から、またゴブリン討伐頑張ろ!

 ……気づけば俺の頭の中に、既にボスを討伐して世界を広げようという気持ちは無くなっていた。

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