異世界転移して3年……クラスメートがクラス転移してきた!?
剣の舞姫
プロローグ
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此処は、どこなのだろうか。
だだっ広い草原のど真ん中でそんな事を考えながら辺りを見渡す少年の名は立華 剣佑、年齢は15歳で高校1年生だ。
短めの髪をツンツンに立たせた美形ではないが男らしさを感じさせる顔つきは困惑の表情を浮かべ、明らかに鍛えている肉体を包む高校の制服は学校であれば違和感が無かっただろうが、こんな何も無い草原では明らかに浮いている。
「確か、学校が終わっていつも通り道場に行こうとしてたよな、俺……」
少年の手には竹刀ケースと胴着を入れた胴着袋、足元には学校指定の鞄、靴を見れば先日剣道のインターハイ準優勝祝いだと道場の師範が買ってくれたスニーカーを履いている。
これは間違いなく下校途中、小学生の頃から通っている剣道の道場へ向かっている途中の荷物と恰好だ。
いつも通り、朝起きて学校に行き、授業を受けて、放課後になると毎日欠かさず通っている道場に向かっていた筈なのに、何故こんな草原に立っているのか。
思い返してみても記憶に無い。そもそも道場へ向かっている途中だったという事までは覚えているのだが、肝心なところの記憶が全く無いのだ。
周囲を見渡してみるも、遠くに見覚えの無い山が見える程度で人影どころか動物の姿も見えない。というか、少なくとも家や学校の近所にこんな場所は無い。
「携帯は……圏外か」
念のため制服の内ポケットに入れていたスマホを取り出して家族の誰かに連絡が取れないかと思ったのだが、圏外の文字に諦めて電源を落とすと再び内ポケットへ。
いよいよどうしたら良いのか判らなくなった剣佑は不安を押し殺すように両手で頬を叩くと、学校指定の鞄から学校の購買で買っておいたペットボトルの水を取り出して一口、全部飲み切るのは現状を考えて不味いだろうと一口だけ飲んで蓋を締めると再度鞄に仕舞おうとして動きが止まった。
「何だ、あれ……」
視界の先に何かが見える。人の形をしている何かが倒れていて、そこに何かが突き立てられているように見えるのだが、流石に遠すぎる。
荷物を持ってその場所まで歩いていくと、近づくにつれて嫌な臭いがしてきた。吐き気を催すようなツンとしたこの臭いは、恐らく腐敗臭だろうか。
昔、冷蔵庫に入れていた豚肉の存在を忘れていた母が慌てて取り出した時に嗅いだ臭いと同じだ。
「うぇっ!?」
近づいて、そしてようやくソレが何なのか判った。
「ひ、人の死体……!?」
そう、そこにあったのは明らかに死んでいるであろう血まみれの人間の死体だったのだ。
死後何日も経っているのだろう。ハエが集って腐敗も進行しているのか蛆も湧いている人間の死体、思わず目を反らして胃の中の物を吐き出してしまいたくなるのを我慢しながら、死体に突き立つソレと、死体が着ている物に注目する。
「剣と……皮鎧って言うのか? 最近流行りのファンタジー物のアニメとかマンガとかに出て来る……ほ、本物か?」
そう、死体が着ているのは化学繊維とは違う麻か何かの服と、その上に皮鎧と呼ばれる鎧で、突き立てられているのは剣佑にとって馴染みのある日本刀とは違う鉄製の剣、いわゆるロングソードと呼ばれる剣だったのだ。
ロングソードは死体の丁度心臓の位置に皮鎧を貫通して突き刺さっており、これが致命傷になっているのは間違いない。
見た所ロングソードも刃引きという刃を潰す加工が一切されていない本物の剣で、明らかな殺人現場に警察へ通報するべきかと考えたが、肝心のスマホは圏外、今いる場所がどこなのかも不明なので近くの交番へ駆け込むなんて事も出来ないのだ。
「ギャギャギャギャ!!」
「な、何だ!?」
突然の叫び声。死体を前にどうしたら良いのかと考えていた所に聞こえてきたそれに驚き、人間の声ではないと思いつつ声のした方を向くと……。
「ギャギャギャ!」
「ゴ、ゴブリン、だったか?」
人間の形をした、人間ではない生き物がそこにいた。
緑色の皮膚にぼろ布一枚を腰に巻いた姿、人間で言うところの小学生低学年くらいの身長に醜い顔つきの異形は、普段ゲームをしない剣佑でもわかる。
ファンタジーゲームやアニメ、マンガでお馴染みのゴブリンと呼ばれるモンスター、大抵の作品で雑魚モンスター扱いされる存在が目の前に5匹、ボロボロのショートソードや棍棒といった武器を手に汚らしい涎を垂らしながら殺意の籠った目を剣佑に向けているではないか。
「まさか、この死体はこいつらの……!」
恐らく、この死体はゴブリンに殺されたのだろう。見れば全身に細かな切り傷や打撲痕があるので間違いない。
こうして死体を放置して、近寄って来た人間を襲う。低能だとよく言われるゴブリンにしては随分と小賢しい罠を張っていたものだ。
「ど、どうする……!? 何か武器は」
明らかにこちらを殺す気で殺意を向けるゴブリンに抵抗するべく武器を探す。竹刀ケースには竹刀が入っているが、ボロボロとはいえ間違いなく本物であろうショートソードまで持っているゴブリンを相手に心許ない。
そうして考えていると、棍棒を持ったゴブリンとショートソードを持ったゴブリンの2匹が走り出して飛び掛かって来た。
「っ! 借ります!!」
咄嗟に手に持っていた竹刀ケースを棍棒を持ったゴブリンへ投げつけつつ、右手で背後の死体に突き刺さっているロングソードの柄を握り、一気に引き抜いて飛び掛かる途中のショートソードを持つゴブリンの腕目掛けて刃を振り上げた。
「ギャガガガガアアアア!!?」
「次!」
ショートソードを持つ腕を切り落とされたゴブリンが叫びながら落下して転げまわるのを放置して、振り上げたロングソードの柄に左手も添えると、竹刀ケースを弾いた棍棒を持つゴブリンへ唐竹一閃、その身体を縦に両断した。
「嫌な感覚だ」
剣で生き物を斬るという初めての感覚に嫌悪感を浮かべつつ、今はそんな事を気にしている場合ではないと腕を切り落としたゴブリンの首を刎ねて残る3匹を睨み剣を正眼に構えた。
反撃され狼狽えているのか、それとも様子見なのか動く様子が無い。むしろジリジリと後退しているようで、戦意喪失しているようにも見える。
流石にゴブリン相手とはいえ戦意を失った存在を相手にこちらから襲い掛かるのもどうなのかと思って剣先を下そうとしたその時だ。
「逃がさないで!」
「っ!?」
女性の声と共に剣佑の横を一瞬で通り過ぎた。
「ギャガッ!?」
見れば残りのゴブリン達の額に矢が突き刺さっており、そのままの勢いで後ろに倒れ絶命する。
完全に脅威が取り除かれたのを確認した剣佑はようやく剣先を下して一息、そして声がした後ろへ振り返ると、そこには弓らしき物を持った一人の女性の姿が。
「危ないところだったわ。ゴブリンは見かけたら逃がしたら駄目よ?」
「……」
思わず見惚れてしまった。
まるで細い金糸ではないかと錯覚してしまうほど美しく長い金髪にサファイアの如き瞳、新緑のような緑色のミニスカートと白いブラウスのような服の上に茶色の革製の胸当てに薄茶色のローブを纏った長身の女性。
剣佑が知るどのモデルや女優よりも整ったスタイルと細すぎず太過ぎない手足に色白の肌、整いすぎている美しい顔の横には長い耳が……。
「エルフ……?」
「ええ、そうよ。私はエルフ族、フィリア・ケルトウッド……君は?」
「あ……俺は剣佑、立華 剣佑。えっと、助けてくれてありがとう」
「タチバナケンスケ……変わった名前ね」
明らかに日本人ではないであろう彼女に名乗ると立華を名前だと勘違いされてしまいそうだったので慌てて立華が姓……ファミリーネームで、剣佑の方が名前だと訂正を入れた。
「そう、ケンスケね。見た所冒険者じゃなさそうだけど……貴族かしら?」
「き、貴族? 冒険者? いや、俺はただの高校生で、家も普通の一般家庭だけど」
「コウコウセイ……? 一般家庭って事は平民よね? あなた歳は?」
「15……」
「15歳? 確か人間族の成人年齢は15歳だったから……一応成人してるか。でも冒険者じゃないのに、何でこんなところに居るの? それに、そこの冒険者の死体も」
問われたので一先ず落ち着いて現状を説明した。
自分は学生であり、いつも通り学校が終わって剣道の道場へ向かっている途中で気が付いたら此処にいた事。死体は偶然見つけたもので、そこをゴブリンに襲われて刺さっていた剣で迎撃した事まで。
全てを聞き終えたフィリアは少し思案顔になり俯いて何かを考え込んでいたが、やがて顔を上げると困惑した表情を向けて来た。
「えっと、冒険者の死体の事は理解出来たんだけど……その、ガッコウ? とかケンドウ? とかいうのが理解出来ないのだけど、一応気付いたらこのブリスト草原に居たって事で良いのよね?」
「ブリスト草原……? ゴブリンとかが実在している時点で察してたけどやっぱり日本じゃないんだな」
「ニホンっていうのは貴方の居た所? なら違うわ。此処はルーンメイル王国、王都の西側にあるブリスト草原っていう場所よ」
ルーンメイル王国、ブリスト草原、初めて耳にする国名、地名だった。そして、少なくとも剣佑が知る限り地球上にそんな国名も地名も存在しない。
「じゃあ此処は……異世界なのか?」
クラスのオタク達が話しているのを聞いた事がある。今は異世界転生モノや異世界転移モノが流行っていると。
所謂、ラノベやアニメ、マンガなどで地球とば別の世界に死んで転生したり転移したりするものらしいが、剣佑は興味が無かったので詳しい知識が無いものの、現状を考えるとそれくらいしか思い浮かばなかった。
「ねぇ、良ければ王都までついて来る? 貴方が何処から来たのか皆目見当も付かないけど、さっきの剣の腕を見る限りそれなりに戦う事は出来るみたいだし、一先ず冒険者になってみるのもアリだと思うの」
「冒険者に……」
元の世界に帰る方法なんて判らない。そもそも何故この世界に来たのかも記憶に無い現状、日々の生活の糧を得るにはそれしか無さそうだ。
「それじゃあ……よろしくお願いします」
「ええ、任せて」
それから二人は死体からロングソードの鞘を回収、その場で丁重に埋葬した後は荷物を纏めてルーンメイル王国王都へと向かう事となった。
剣佑の腰には死体から回収した鞘に納めたロングソード、両手には学校指定鞄と竹刀ケース、その先にぶら下げた胴着袋を持ってフィリアの案内で歩き出す。
これが、剣佑の異世界での生活の第一歩となった。3年後、運命が動き出すその時まで、剣佑の冒険者としての生活が、ここから始まったのだ。
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