第28話

林の中を長い枝で雑草をかき分けながら進むが、ここ数日で近場の燃やせそうな木の枝などの薪は既に拾ってしまっているので、中々焚き火に使えそうな物は見つからない。


浜辺には燃え尽きた灰しかないのである程度は拾って戻らないといけないが、二十分程経って拾えたのは木の枝三本だけだ。


しかも、朝方雨に降られているせいで拾った枝は湿気っている。

乾燥させないと燃えないのではないかと、少し不安になる。


林に分け入れば分け入る程に、雑草が鬱蒼と茂っている為、体力もそれに伴い削られていく。

顔に当たる枝や木の葉の不快さのせいでストレスが段々と蓄積し、呼吸や脈拍が荒くなっているのが自分でも分かる。


三十分程歩くと落ちている木の枝もだいぶ増えてきて、拾いながら少しずつズボンのポケットに詰め込んでいく。

サイドポケットとお尻のポケット、それに両手一杯程拾えれば二日は持つだろう。


足元を念入りに探しながら歩いていると、顔の横を何か紐の様な物が通り過ぎた。

蔓の割にはやけに太いなと思ったが、それを手で振り払おうとした瞬間に、頭の中に何か悪い予感の様な物がバチっと走る。


飛び退いて、先程の蔓を見るとやはり悪い予感は当たっていた。

蛇だ。


蛇が木の枝からぶら下がり、体を揺らしながらこちらに赤い口の中を見せてこちらを威嚇している。

体長は目算で1メートル、体の太さも4cmはありそうだ。

そんな蛇が口を開けて舌を出しながら、こちらをじっと見つめている。


視線を合わせたまま、このまま逃げようかとも思ったが、蛇は栄養があると昔、誰かから聞いた事を思い出す。


ハブを漬けたお酒もあるくらいだし、若菜の体調回復にも良いかもしれないと思い直すとズボンのポケットの中から太くて長めの枝を取り出した。


蛇は木の枝に体を絡みつかせゆっくりと動いてはいるが、逃げようとはせずにずっとこちらを見ている。

試しに木の枝を蛇の顔に近づけると、シャッという鳴き声と共に枝に噛み付く。

その動きは想像よりも早い。


毒があるかは分からない為、絶対に噛まれないようにしなくては。

そして、絶対に逃がさない様にもしないといけない。


枝に巻き付いた蛇を叩き落とせる程の太さの枝は持っていないので、どうにかしてあの口を制圧しなければならない。

素手のままだと、先程の様なスピードで噛みついてこられると口を押さえる前に噛まれてしまうだろう。


どうしようか悩んでいると、蛇は枝に巻き付いたまま少しずつ後退して行く。

みすみす貴重な栄養を逃すわけにはいかないと、僕は右手に持った枝を蛇の顔に向かって勢いよく振りかぶる。


蛇は勢いよく近づいてきた枝に威嚇する様に大きく口を開いたかと思うと同時に素早く枝に噛みついた。

僕はすぐに左手で、枝に噛み付いた蛇の頭の後ろを掴もうとする。


蛇は瞬間、噛みついていた枝から口を離すと、左手を目がけて勢いよく噛みついてきた。

左手の人差し指の腹を蛇の顎が掠る感触があったが、すんでの所で蛇の首根っこを押さえる事ができた。


蛇を引きずり下ろそうとすると蛇は枝に巻きつく力を強めたが、すぐに観念した様に脱力したかと思うと、するりと僕の左腕に絡みついてきた。

締め付ける力は強くはないものの、体に絡みつかれるのは恐怖感がある。

もし、首に移動して巻き付かれたら力は弱くても失神してしまう可能性もある。


一刻を争う状況で、僕はゆっくりと屈むと左手で掴んだ蛇の首を地面に押し付ける。

蛇は口を開けて抵抗するが


「ごめん」


と僕は言いながら右手に持った枝を蛇の頭に一気に突き刺した。

一撃で仕留められた様で、蛇は直ぐにダラリと体の力が抜けていき、縄の様に脱力した。


命を頂いた事に感謝し、蛇に手を合わせる。

空を見上げると、またポツポツと雨が落ちてきており、雲の音か風の音なのか分からない低いブーンという音が遠くから聞こえる。


若菜が雨に打たれる事はないだろうが、近くの枝をかき集めると、僕は浜辺に戻る事にした。

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