第5話 北の大地の村へ

夜明け前、レオとカイルは森の奥を進んでいた。


先ほどの戦いで倒した森狼シルヴァヴォルフ――いや、カイルの言葉を借りれば「オルフェン」の死骸が遠ざかる


「オルフェンってなんなんだ?あいつらはシルヴァヴォルフじゃないのか?」


カイルにレオが問いかける。


「オルフェンってのはここらの地域での呼び方だ、王国の方では呼び方が違うんだな。あまり王国の方には近づかないからなあ知らなかったよ。ただあいつらは普通の魔物とは違う。群れで行動し、狙った獲物は執拗に追い詰める。遺跡の周辺にまで現れるようになったってことは……」


カイルは険しい顔で言葉を切った。


「何か異変が起きている、ってことか?」


レオの問いに、カイルは無言で頷いた。


(やはり、ただの旅じゃ済まなそうだな)


レオは胸元に仕舞った指輪を握りしめる。




しばらく歩くと、森の景色が変わり始めた。


木々の背丈が低くなり、地面が岩混じりの土へと変わる。風は鋭さを増し、雪の名残が点在する。


「ここから先が北の大地だ」


カイルの言葉に、レオは顔を上げた。


視界の先、広大な白銀の大地が広がっていた。


「寒いな……」


「お前の格好じゃ無理もないな。この辺りの冬は、時に人を殺す」


カイルは毛皮のマントを翻しながら歩を進める。


レオもそれに続いた。





村の手前、一本道に差しかかったとき、カイルが足を止めた。


「……嫌な予感がする」


「どうした?」


レオが尋ねると、カイルは獣のような目つきで辺りを見渡す。


「この道……普段ならもっと踏み固められているはずなんだ」


言われてみれば、村に続く道の雪は、ほとんど踏み荒らされた形跡がない。


「人の行き来が減っている?」


「いや、それだけじゃない」


カイルは地面にしゃがみこみ、雪をどけた。


すると、現れたのは赤黒い染み――血痕だった。


「……最近のものだな」


レオは眉をひそめた。


「何があった?」


カイルは立ち上がり、村へと向かって歩き出す。


「確かめるしかねぇな」



村の門は開け放たれていた。


中に入ると、広場には雪が積もり、家々の扉は固く閉ざされている。


「……まるでゴーストタウンみたいだな」


レオが呟くと、カイルが口を開いた。


「人がいねぇ……いや、隠れてるのか?」


ふと、どこかの家の窓がわずかに開き、中から怯えた眼が覗いていた。


「おい、お前ら!」


カイルが声を張ると、窓は慌てて閉じられた。


「どういうことだ……?」


「何かが起きてるのは間違いねぇな」


その時だった。


「……助けて……!」


小さな声が聞こえた。


レオとカイルは素早く振り向く。


村の路地の奥――雪の中に倒れ込んでいるのは、一人の少女だった。

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