第二話 人間界へ
一
月が夜を明るく照らす。風が吹くと肌寒く夏の終わりを知らせている。
広い庭園の中、上半身裸で踊るように木刀を振る少年。
鍛え上げられた身体、無駄の肉のない膨れ上がっな筋肉が綺麗に割れ目に影を作っている。うっすらと汗が蒸気のように身体を纏い、少年は目の前に敵がいるように動き続けていた。
が、急に動きを止めて木々の影に目をやって、
「何者だ? 」
少年は声を投げかけた。
影の隙間から拍手をしながら姿を見せたのはマリー・アリシア。
「なかなかいい動きをするな
と、話すと同時に聖道結城と呼ばれた少年の左額にマリーの右足が飛んでくる。
当たるほんの一瞬で聖道は持っている木刀と右手の腕で額を守るが重く鈍い音と共に聖道は横に飛ばされながら上体を逸らして右手で地面を叩いて再度マリーと対峙する形になる。
重い痛みが右腕に鼓動のように残る。
マリーは驚いたように目を見開いて、
「見事な身のこなし、だが……」
言葉を言い終える前にワンステップで聖道の前に詰め寄り正面に拳を撃ち抜く。
木刀と右手の腕で十字の形で受ける形を取り、当たる寸前でマリーの攻撃の威力を利用して後ろに下がり距離を取る。が、想像以上のパワーに吹き飛ばされる形になり木刀を地面に突き刺してなんとか止まる。そして、木刀の先をマリーに向け立ち上がった。
マリーは聖道をみて嗤う。
「何故、反撃しない? 」
「反撃? 理由がない」
即答する聖道。
それを聞いてマリーは声を出して嗤う。
「馬鹿か。なら死ね」
マリーは聖道の前から消える。
聖道は焦りから唾を飲む。と、同時に背後に強い衝撃が襲い前に倒れ込みうつ伏せになりすぐさま仰向けになる。
すると、マリーが聖道の顔目掛けて真上から降って来ており、すぐさま聖道は横へ転がるように交わしてその勢いのまま立ち上がる。背筋はズキズキと痛み、その痛みは全ての動きを鈍くさせる。左の頬に薄らと赤い線が入り血が垂れる。
「戦いに理由などない。そんな事を言ってるのは親の教えか?」
馬鹿にしてマリーは聖道に問いかける。
「親はいない」
聖道は淡々と答える。
ニヤリと笑うマリーは、
「知ってるさ。お前の親を殺したのは私だ」
聖道は目を見開いてマリーを見る。
「お前の親もさぞ悲しんでるだろ、そんな子の為に命を落としたのかと。哀れだ、まさに哀れ。無力な親に無力か子だな」
マリー楽しそうに言葉を並べる。
聖道はマリーを睨みつけ木刀を強く握り締め、奥歯を噛み締めキシキシと音が聞こえるほど。それから一瞬で詰め寄り木刀をマリーの頭目掛けて振り下ろす。
マリーは悠々と身体を逸らし交わした。
その一瞬をマリーは見落とさなかったのである。木刀を交わす瞬間に一瞬だけ青色のオーラが目に映った。
「理由が出来て良かったな」
容赦なくマリーの左拳が聖道の右肋を打つ。聖道は鈍い音と共に息が溢れ出し呼吸ができなくなり、痛みと共に全身から力が抜ける感覚に襲われるが、それを認識する間もなくマリーの右の掌で聖道は右胸の心臓のあたりを突かれた。
全身に電気のような刺激が走り骨は軋むと同時に後ろに飛ばされて屋敷の壁に叩きつけられ口から大きな血の塊を出して意識が遠のいていく。
二
マリーは動かなくなった聖道を見ている。
死なない程度、いや、壊さない程度には攻撃をした。殺そうと思えば簡単に殺せるくらいの力の差はある。
それにしても人間にしては反射能力、防御の対応を見る感じ腕利き奴が近くにいるのは間違いないだろう。
聖道結城は幼な頃に目の前で両親を殺害された。両親は道場を開いており、その門下の者たちも一人を残してみな殺されたようだ。ただ現世では未解決のままだったようだか、天使の仕業である事は間違いない。
ルージュに言われ監視対象の場所に、ここを拠点にしプラスで聖道結城を守れと告げられて来たがマリーに守る気はない、もちろん死なぬように動くがルージュの事だ、守れるように育てろという事だと捉えているから奇襲をかけてやったのだ。
マリーは聖道に近づき運ぼうと手を伸ばすと、いきなり聖道の手がマリーの手首を握る。
聖道は顔をあげマリーを睨みつけて、
「両親は……、無力なんかじゃ……ない」
そういうと聖道は再び全身から力が抜け意識を失った。
マリーは薄らっと笑みをこぼして、
「合格だ」
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