第三章 3 発表会の練習

 柔軟して、軽くバーレッスンしてバー片づけたら、早々にセンターでの振り付け練習になった。

 そこで動きやすい様に、トウシューズからバレエシューズに履き替えた。くるみ割り人形にはポワント・ワークは必要ない。むしろ走り回ったり、ジャンプしたり、軽快なステップが必要だ。


 小学校高学年以上は兵隊役。小学生の4年生まではネズミ役。

 さて、ネズミ役の子と兵隊役の子達は、役割別に左右に分かれて集合した。

 そのネズミの先頭には王様のキーちゃん。

 そして兵隊の先頭には、くるみ割り人形役のボク。

 先生が音楽をかける。音楽は一章まるまる一連の続きになっているので、今はまだクリスマスツリーが伸びるところだ。その終わりに先生が合図する。それに合わせてボク達は、立ち回りを始める。


 ネズミ達が、こっちを伺っている。

「はいここで、兵隊入場!」と先生の声。

 それに合わせて兵隊2名が更新してきて、ライフルを構える。

「ライフル撃つよ、3・2・1!」

 音楽中で『ドン!』と鳴るタイミングに合わせてボクはサーベルを振り下ろす。兵隊は銃を撃つ。撃たれてひっくり返るネズミ。でも仲間のネズミに助けられて奥に引っ込む。


「王様入場!」

 さあ、対峙だ。ネズミは王様を先頭に一団でこっちを伺う。

 こちらも兵隊たちが行進して一列に陣を引く。

 音楽が盛り上ってきた。


「2人、一騎打ち!」

 ボクは単身、王様と一騎打ちで挑む。

 王様も単身で迎え撃つ。

 互いにチャンチャン・バラバラと、サーベル・蛮刀で、打ちあったり、体を入れ替えたり。


「兵隊たち、行進!」

 その背後で、兵隊は音楽に合わせて行進したりライフルを振り回したり。

「ネズミ達も様子を伺って」

 ネズミ達、兵士に襲い掛かったり、逃げ回ったり。

「はい、くるみ割り人形は跳んで!」


 そしてここが見せ場! 兵隊の横をすり抜けて連続開脚ジャンプと回転。

「王様も、連続ターン」

 ネズミの王様も、不敵に歩いてきて連続ターンした後、刀を振り回す。

 一進一退。

 兵隊の行進、ネズミも襲い掛かったり逃げ回ったり。

 交差するその前で、ボクと王様のキーちゃんが、また一騎打ち。


「兵隊たち、それぞれ退場」

 徐々に追い詰められ、蹴散らされて、いつの間にか兵隊たちはいない。

 ボクだけが、ネズミ達に取り囲まれている。

 袋叩きにあって、痛っ! 誰だ、ボクの頭を叩いたのは。


「スリッパ投げるよ、3・2・1!」

 そこで音楽が、チャチャっ! と鳴る。展開ではクララが投げたスリッパが王様に当たるという展開で、ネズミ達は、何故かスゴスゴと退却していくのだが、その一団が去っていった後に、くるみ割り人形であるボクが横たわっている、と。


「はい、そこまでです」

 先生がまた手を叩いて合図して、強制終了になる。音楽も止める。


 これで、このシーンはおしまい。この次の展開では、本来のボクの役であるクララが、王子様になったくるみ割り人形とパドドゥを踊るシーンに繋がっていくのだ。

「それじゃ、今のところだけど」

 先生がそれぞれ、ダメ出しをして指導していく。


 いくつか指導を入れているが、ボクへの指導は特にない。まぁ多少間違えていても、覚えなきゃいけない訳じゃないから、ちゃんとした振り付けは本来の人形役の山本さんの時にかな?。

「じゃ、もう一回行くよ」

 先生は、CDを開始32分の所にセットし直している。


 思ったより楽しい。

 ここのところは当然クララばっかりで、くるみ割り人形みたいに連続開脚ジャンプとか、派手なターンとかは無かったので、ちょっと気分転換かも。




――― 第3章 4 に、続く ―――

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