ボクのバレエな日常 ~女の子になっちゃったらバレエが大好きになっちゃった件~

かもライン

ボクはバレーがしたかった

ボクは座れなくても良かった

 日曜の午前9時半。平日ではないからラッシュはない。

 電車に乗り込むと席はあちこちに空いているが、2人揃って座れるところは無かった。


 ふと、こちらを見ていたオジサンが、何か嫌らしい目をしている気がした。

 自慢ではないが、ママは美人だ。昔はタカラジェンヌだったと聞いたことがある。そのタカラジェンヌは辞めてパパと結婚したが、未だにその色は褪せていないと思う。ボクはそんな綺麗なママが大好きだ。

 ママはその視線を、気にするでもなく無視するでもなく、さらっとかわした。


「この車両じゃダメね。隣に行きましょう」

 ママはそう言って、連結から隣の車両に移動。ボクは黙って、その後ろから付いて行った。


 隣の車両に来たが、この車両にも2人分の空は無い。ギリギリ座れない事もないスペースはあったが、ちょっと話しかけるには怖そうな大人が足を広げて座っている。

「ダメね。もう一つ隣行きましょうか」

 隣の車両との扉を見たら、女性専用と書かれてある。


「ママ、女性専用車だよ。ボク行けないよ」

「小学生は大丈夫よ。ママと一緒だし」

「でも」


 ボクは、今のこの車両内を見渡した。2人揃っては無理だが、1人ならゆったり座れるスペースはある。

「ここで良いじゃん。ボク立ってるよ」

「良いのよ。一緒に来なさい」

 ママはさっさと女性専用車に入っていく。

「あ……」

 ボクは付いて行くしかなかった。


 入ってみたら、当たり前だが女性ばっかりだった。一瞬、みんなの視線がこっちを向いた。

『うわ』


 嫌だな。この感じ。

 やはり女性専用車だから、他の車両よりは空いていた。2人揃って座れるところも幾つかあった。


「ここでいいわ。座りましょ」

「でも……」

「いいの。貴方は小学生なんだから」

 これは他の乗客たちにも聞こえるように言ったのか?


 ボクは小学5年生だが、他のクラスメイトより背は高い。155cmはある。

 でも顔はそれ程ゴツくない。ママに似て女顔で可愛いと言われる。嫌だけど。

 ママは本当は娘が欲しかったんじゃないかと思う事がある。でもボクは一人っ子。下に妹も弟も出来なかった。


 ちなみに今、ボクはピンク色の服を着ている。一応は男物の服だし、デザインもそんなに女の子っぽくないから良いけど、ちょっとユニセックスな感じもする。Gジャンとか黒ジャケットとか男々している服はママが買ってくれないし、野球やサッカーチームに入りたかったけど、ママが許してくれなかった。野球やサッカーは、もはや男女関係ないと思うけど、やはり男子主流のイメージがあるからか。


 今回も何とか頼み込んで、スポーツセンターでやっているバレーボール教室の体験会に行く事は許してもらった。男女関係なく出来る、というより女子の方が主流なイメージの競技だからかな?

 市民スポーツセンターはちょっと離れていて、最寄りの駅までは電車移動するしかなかった。


 電車移動は良い。座席が無いのも仕方ない。でも男の子のボクが女性専用車で座るのは、はっきり言って居心地悪い。

 今、こうしてママの横で座っていても、回りから好奇心の目つきで見られている様な気がする。

『あの子、男の子でしょ?』『何で、女性専用車に?』

 そう思われている気がして、じっと目を瞑る。いっそ寝ているフリでもしようか。


 ガタンガタン。

 適度に揺れ、適度な騒音が、眠気を催してくる。

 いいんだ。知らない、知らない。知らないふりして眠ってしまえば……。

 

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