ボク、バレエ続けたい!
ママが走ってこっちに来た。
「もう、良かったわ。本当に初めてじゃないみたい」
手放しで褒められた。ママに褒められるなんて、もう何年ぶりだろうか。
でも気持ちはとても複雑だ。
何か色々考えていたら、涙が出てきた。
「どうしたの、アユミちゃん。そんな泣いて。興奮しすぎた?」
「違う。違うの。楽しかったの。とてもとても楽しかったの。でも……」
他の子達が、そんなボク達の横を通りながら「バイバーイ」とか「またねー」とか声かけたり、肩や背中を叩いて行ったり。
そんな今日出来た友達たちに、小さく手を振った。
そして彼女たちを見ていたら、また涙が出てきた。
「でも、今回だけだからって。ボクが決めたから。だから」
「あらあら」
ママはそんなボクの肩に手を置いた。
「それは始める前に、アユミが勝手に言っただけでしょ。承諾した覚えはないわ。今回のレッスンが終わって、どうしても嫌って言われたらそうしたかもしれないけど」
「え?」
ボクはママの顔を見た。とても満足そうに笑っていた。
「きっとアユミだったら、続けたいって言うと思ったから」
ボクは涙をぬぐってママの方を見た。
「いいの? 続けていいの? また来週も来ていいの?」
今日出来た友達、ネギさんやキーちゃんや、他の子達ともまた会える。
「続けたいんでしょ。その方がママも嬉しいわ」
そう言ってママはギュッと抱きしめてくれた。
「ありがとう。私が好きだったバレエを、アユミちゃんも好きになってくれて」
「ママ……」
下を向くと、無意識か? ママの足が5番ポジションになっていた。
と、そこに、今日補助してくれたお姉さんが近付いてきた。
「お疲れ様~。今日は良く頑張ったね」
そう言って、頭をなでなでしてきた。
「本当に初めてと思えない位。身体はとても柔らかいし、一回やった動きもしっかり覚えているし、バランス感覚も良いし。もう最高よ」
「ご指導、ありがとうございます」
ボクの代わりに、ママが応えた。
「それで、相談なんですけど」
お姉さんの声が、ちょっと内緒話っぽくなった。
「アユミちゃんの才能、凄く見込みあるから、良ければウチの教室に来ませんか? 週3回のコースもあります」
どうやら、このお姉さんや先生は、ちゃんと自分たちの教室を持っていて、日曜日のスポーツセンターはバレエを広めるための広報の一環らしい。
「今から本格的にやれば、一流のバレエダンサーになるのも夢じゃありません!」
断言した。きっぱりと断言した。
ママはボクの顔を覗き込む。ボクはただ、当惑している
「すみません。まだこの子、バレエを始めた興奮が冷めないようで、この先まで考えられないみたいです。でも」
ママはくるっとお姉さんの方を向きなおし、
「来週からもこの教室は続けますので、やっていて、もっと上を目指したいとか、バレリーナになってみたいとか。そういう気持ちになったら、是非お願いしたいと思います」
そう言われて、お姉さんもちょっと表情を緩めた。
「急ぎ過ぎちゃったかな? 今日、初めてバレエ始めたんだからね」
そう言いながら、またボクの頭に手を置いた。
「アユミちゃんなら身長もあるし、その気になったらタカラヅカのトップスターも目指せると思います」
「まぁ」
そう言われてママも目を見開いた。
「そうね、ママは身長足りなくてトップスターになれなかったけど、この子だったらなれるかもしれないわね」
ママがタカラジェンヌだったことは知っている。でも大活躍したという話は聞いていない。トップスターになれなかった理由は、身長だけでは無いんじゃ……と言いたかったけど、流石に今、それは言えなかった。
「そうね、アユミはちょっと男顔だし、男役が似合うかもしれないわね」
今朝、ここに来るまでは正真正銘の男だったのに、ここに来る途中で女になっちゃってバレエのレッスン受けて。もし、タカラヅカで男役になんかなったら……、もうボク自身アイデンティティ保っていく自信が無い。
でも、これだけは自信を持って言える。
バレエをやりたい。これからもバレエをやって行きたい。
その為に今、女の子になって良かった。
でも今、男に戻ったとしても、もうバレエをやりたいとは全然思わない。
だって、
この教室内に貼ってあるバレエの公演のポスターに、男女のペアが並んで踊っている。そしてその男の方はピッチりしたタイツを履いて股間をこんもりさせている。
アレは絶対嫌だ。仮にバレエを続けるにしても、男としてのアレだけは絶対嫌だと、心の底から、そう実感していた。
―― 終わり ――
まず最初に謝らないといけないのですが、実は私、バレエ全然知りませんでした。やった事無いのは当然としても、色々な演目も公演観た事もない。物語の展開的に、やっぱバレエやったら面白いだろうな、とバレエ編に突入するも、全然知らないから、情報は全部ネットからの付け焼刃だったり。
続編書きたくなって、改めて読み返したら……ああ、結構やらかしている。
知らずに、ここまで踏み込むのはやっぱ無謀でした。
とはいえ、今回は書いていてとても楽しかったので、特にバレエに詳しくなくて、こういう展開が好きな人は、充分楽しめるんじゃないでしょうか?
今更バレエレッスンの初心者向き講座見せられても、との指摘もありましたが。
さて、この流れで続編も読んでいただければと思います。
そっちはもう、入門から半年後で発表会やら、その練習とかありますのでバレエ好きな方でも、何とか耐えられるんじゃないかと思います。
一応、ちゃんとバレエに詳しい人2名に観て貰って、色々ダメ出しは頂きましたが、バレエ好きな気持ちが溢れているから、それなりに楽しめると太鼓判頂きましたので、もう大丈夫です。
そういう訳なので、ここからが本番です。
よろしければ、どうぞお付き合い願います。
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