40話 仕掛けられた罠 ②

 反省文の最後の一文字を書き終えた瞬間、俺は解放感に満たされた。


「……ったく、無駄な時間だったな」


 机に突っ伏しそうになるのをぐっと堪え、伸びをする。


「違います! 私、本当にそんなことしてません!」


 耳に飛び込んできたのは、綾乃の声だった。


 驚いて綾乃のいる方を見ると、教師に詰め寄られているが見えた。


「でも証拠の映像があるんだよ? 君が関与していないとは言い切れない」

「本当に違います……! 私、そんなの……」


 必死の形相で否定する彼女を見て、俺の胸が痛んだ。


 ……クソ、全部悠斗のせいだ。本当なら、今日は楽しい体育祭で終わるはずだったのに。


「おい城咲。体育祭が終わったから、委員長と一緒に体育倉庫の片付けを頼む」

「はいわかりました」


 俺は淡々と返事をし、教室を後にした。


 運動場に出ると、体育祭の後片付けが進んでいた。


「……あんなことがなければ、もっと楽しかったんだろうな」


 深くため息をつきつつ、教師に言われた通りに道具を体育倉庫へ運ぶと、そこで出くわしたのは……。


「まあ、反省文はもう書き終わったの?」


 麗奈だった。


「……ああ終わったよ」

「あら、ご苦労さま」


 口元に笑みを浮かべながら、彼女はひらりと手を振る。


 相変わらず煽りが上手いな……こいつ。


 ニヤニヤと笑いながら、麗奈が体育倉庫から出ようとしたその瞬間。


 バタンッ!!


 重々しい音と共に、倉庫の扉が閉じた。


「……え?」

「……ちょっと、扉が開かないんだけど?」


 麗奈が扉を引こうとするが、ピクリとも動かない。


「おいおい、まさか……」


 俺も試してみるが、鍵がかかっているらしい。


「閉じ込められた……?」


 一瞬の沈黙の後。


「誰かーっ! 開けてーっ!」

「おい、冗談だろ……」


 外からの応答はない。


 俺は天井を見上げ、深いため息をついた。


 とりあえず綾乃に助けを……。


 俺はポケットからスマホを取り出し、綾乃に助けを求めようとする。


 だが、画面が付かない。


「……嘘だろ」


 画面は無情にも真っ暗なまま。電池切れだ。


「何やってんのよ?」


 麗奈が覗き込んできた。


「綾乃に連絡しようと思ったんだが、バッテリーが……」

「……え、ちょっと待って。私のスマホも……」


 慌てて麗奈がポケットからスマホを取り出し、電源ボタンを押す。


 だが、やはり画面はつかない。


「……まさかの、二人とも電池切れ?」

「……これはもう、誰かが気づいてくれるのを待つしかないな」


 俺たちは倉庫の壁に寄りかかり、黙り込む。

 

 マジで最悪だ。さっき貶めようとした奴と一緒になるなんて……。


 どう脱出しようかと考えていると、唐突に麗奈が「ねぇ」とか細い声で呼びかけてくる。


「さっきのこと、ごめん」

「……さっきのこと?」

「その……あなたを陥れるようなことをして、本当にごめんなさい」

「ふざけんなよ。お前、何であんな映像まで捏造してまで、俺を貶めようとしたんだ?」


 少し語気を尽くして言うと麗奈はビクリと肩を震わせた。そして、しばし沈黙の後——。


「……ある人に、脅されているの」

「脅されてる?」

「そう。もし言うことを聞かなかったら、私の……大事なものを奪うって」


 そう言って怯えた表情を浮かべた。


「お願い……助けてほしいの」


 その言葉が落ちた直後。突然、体育倉庫の鍵が開いた。


「おいおい、何やってんだよ、お前ら?」


 扉の向こうから現れたのは——悠斗だった。


 悠斗は興奮した様子で麗奈を見つめる。


「麗奈、お前、まさか玲司と何かしてたのか?」

「ち、違うわ!」


 焦ったように首を振る。


「おい、悠斗。やめろ」

「は?  何でお前が偉そうに命令されなきゃいけないんだよ?」


 そう言って、悠斗の顔が一瞬で険しくなった次の瞬間、拳が俺に向かって振り下ろされる。


「……ッ!」


 咄嗟に避ける。


「チッ、避けんなよ!」

「避けるに決まってんだろうが!」


 再び拳を振るう。だが、俺はすぐさま悠斗の腕を掴み、捻り上げ、悠斗の身体が傾くと、俺はそのまま悠斗を地面に押さえつけた。


「ぐっ……!?」

「観念しろ」


 床に這いつくばる悠斗の背中に膝を乗せ、動きを封じる。


 こういう時のために護身術を習っておいて正解だったな。


「……お、おい……何してんだ……!」


 もがこうとするが、俺の力が強すぎて動けない。


 よしこれで後は、教師にこいつを突き付ければ……。だが、その時だった。


「きゃああああ!!!」


 突如として、甲高い悲鳴が響く。


 振り返ると、大勢の女子たちがこちらを見ていた。


「城咲くんが篠宮くんを襲ってる!!」

「えっ!?  違う、これは……!」


 慌てて誤解を解こうと説明しようとするが、女子たちは一方的に叫び続ける。


「先生を呼んで!!」

「誰か助けて!!」


 女子達の悲鳴を聞いて、近くにいた先生が駆けつけてきた。


「何をしているんだ!?」

「違う! 俺は——!」

「城咲君が、麗奈ちゃんを体育倉庫に閉じ込めて、悠斗くんまで襲って……!」

「嘘だ! 俺じゃない!!」


 だが、女子や教師は俺の話をまるで聞こうとしない。


「うっ……玲司が怖かった……」


 後ろで見ていた麗奈がぽろぽろと涙を流し始めた。


「え……?」


 俺は絶句する。


「麗奈、お前……」

「ちくしょう……。お前、本当にどうしようもねぇな。俺たちが何されたか、先生にちゃんと話すからな」

「お前ら……」


 そうか、これは最初から仕組まれていた罠だったのか。怒りで拳を握りしめる。


「城咲……。もう1度指導室に来なさい」


 先生の冷たい声が響く。


 反論しようとするが、四方を囲まれ、どうすることもできなかった。


 こうして、俺は一方的に連れて行かれてしまったのだった。


——— ——— ——— ———


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