37話 憎む麗奈と悠斗

悠斗視点


 「くそっ……くそっ……!」


 俺は地面に倒れ込んだまま拳を握り締める。足を出した時、あいつがあんな華麗に避けるとは思わなかった。


 くそ、クラスメイトの奴らも玲司の事を悪く言ってたくせに1位になった瞬間、拍手喝采かよ……。


「悠斗、大丈夫……?」


 麗奈の心配そうな声が耳に届く。


「うるさい! 俺に構うな!」

「……っ!」


 麗奈はビクリと肩を震わせて後ずさる。俺がこんな状態なのを見て、何を思ったんだろうな。


「おい悠斗、お前マジでクズじゃん?」

「は? 誰だよ……」


 振り返ると、クラスの陽キャグループが俺を取り囲むように立っていた。リーダー格の奴がニヤニヤしながら言う。


「だっせーよな、勝てないからって妨害とか。小学生かよ?」

「ホント、それに委員長まで巻き込むとか、最悪すぎるっしょ」

「いっつも偉そうにしてるけどさぁ、所詮はその程度ってことだろ?」


 嘲笑と軽蔑の言葉が俺に突き刺さる。足元に力が入らない。


「う、うるさい……お前らなんかに……」

「なんかに?  俺らは少なくとも卑怯なマネしねーけどな?」

「お前、もうクラスの恥だわ」


 嫌な汗が背中を伝う。体が動かない。……誰か、誰か助けてくれ……


「――おい、いい加減にしろよ」


 冷たい声が聞こえて、視線を上げると、そこには玲司が立っていた。


「お前ら、今度は俺に喧嘩売るつもりか?」

「はっ? いや、別に……」

「じゃあ消えろ。今すぐにだ」


 玲司の目つきに怯えた陽キャたちは、顔を引きつらせて後退りする。


「ちっ、なんだよ。関係ないくせに偉そうに……」

「行こうぜ、あいつ相手にしたらやばいわ」

「……ふん、わかったよ。行こう、みんな」


 そいつらは何か言い残すこともなく、足早に去っていった。


「……大丈夫か?」


 玲司が手を差し出してくる。何だよ、この状況。負けた俺を、まるで哀れんでるみたいに……。


「触るな!」


 俺はその手を強引に振り払った。玲司は一瞬驚いたように目を見開くが、すぐに冷めた顔に戻る。


「そうか。なら、無理には言わない。立ち上がれるか?」

「俺に構うな!  お前に心配される筋合いなんてない!」


 怒りをぶつけるように叫ぶ。悔しさが滲んで、言葉が震えてしまう。


「……分かったよ。じゃあな」


 玲司はただそれだけを言い残して、あっさりと去って行った。背中がやけに遠く感じる。


「なんで……なんで俺がこんな……!」


 苛立ちをぶつけるように、地面を思い切り蹴り上げる。砂が舞い上がり、俺の視界をかすめた。





 



麗奈視点


 「……どうして、こんなことに」


 二人三脚が終わった後、私は一人でベンチに座っていた。足元の草を指で摘まみ、無意識に引きちぎっている。


 悠斗にあんな風に怒鳴られたのは初めてだ。これまでずっと優しくて、いつも私を守ってくれる人だったのに。


「もっと……私がしっかりしていれば」


 小さな声が自分の中で響く。足が遅いのは分かってる。鈍臭いのも分かってる。だから、悠斗の足を引っ張ったのは全部私のせい。


 ――だけど、それだけじゃない。


 もし、あの人さえいなければ。


「城咲玲司……」


 悠斗があんな風に追い詰められたのも、全部あいつのせいだ。


「そうよ……もし玲司がいなければ……」


 胸の奥がざわざわと波打つような感情で満たされる。あいつが、私たちの邪魔をしなければ。あんなに皆から称賛されて、悠斗が罵られるようなこともなかった。


 ――悔しい。


「あんなやつに負けるなんて……」


 悠斗のために、もっと頑張らなきゃいけなかったのに。私がもっと強ければ、もっと速ければ、もっと――。


「……でも、あいつがいなければ全部うまくいったのに」


 玲司がいなければ、悠斗もこんなに苦しむことなんてなかった。私だって、こんなに惨めな思いをすることも――。


「許せない……」


 ぼんやりと沸き上がってくる憎しみ。玲司の顔が脳裏に浮かぶたび、胸の中がドス黒く染まっていく。


「必ず……絶対に……」


 私は拳を握り締めた。自分でも驚くほどに、冷たい決意を込めて。


——— ——— ——— ———


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現在新作も連載中です。こちらも合わせて良ければ読んで頂けると嬉しいです。貴族たちの陰謀で左遷された俺は、呪いの館で再会した幼馴染に『もう二度と離さない』と囁かれる「https://kakuyomu.jp/works/16818622171398700224

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