20話 逆転の兆し①

綾乃視点


 ——怖かった。


 悠斗お兄ちゃんが、あんなに強い口調で怒るなんて。


 玲司くんのことを必死に弁明しようとしたけど、全然聞いてもらえなかった。


 「もう二度と玲司とは関わるな」


 そう言われた時、何も言い返せなくて、ただ立ち尽くすしかなかった。


 なんで……? 玲司くんはそんな人じゃないのに……。


 確かに、玲司くんは周りから誤解されやすい。口も悪いし、ぶっきらぼうなところもある。でも、私は知っている。彼が本当は優しくて、思いやりのある人だということを。


 肝試しの時だって、私が怖がったらさりげなく気を紛らわせてくれたし、変にからかったりもしなかった。ただそっと、手を引いてくれた。そんな人が、人のジャージを燃やしたりする? そんな卑劣なことをする?


 絶対に違う……玲司くんは、やってない!そう思うと、心の中にふつふつと怒りが湧いてきた。


 悠斗お兄ちゃんは昔から私のことを大事にしてくれるし、正義感が強い人だ。だけど……今回は間違っている。


 玲司くんは、きっとえん罪を着せられている。


 どうすれば、玲司くんの無実を証明できるんだろう……?


 私は自分の手をぎゅっと握りしめる。このまま何もしなかったら、玲司くんは悪者のままだ。


 ——私が動かなきゃ。そう強く決意するのだった。










玲司視点


 机に向かいながら、俺は深くため息をついた。


 朝のラジオ体操が終わっても、俺はまだ自由に行動できず、別室で反省文を書かされている。まるで本当に俺がやったかのような扱いだ。


 ――冤罪なのに。


 手元の作文用紙には「今回の反省点」とか「今後どう行動すべきか」とか、適当なことを書かされているが、正直こんなもので俺の潔白が証明されるわけでもない。


 ……くそ、どうにかして無実を証明しないと……。ペンを握りながら、考えを巡らせていたその時。


 ふと、窓の外で誰かが動いているのが見えた。


 施設のスタッフだろうか? 何やらぶつぶつ言いながら、大きなゴミ袋を抱えて歩いていた。その中に入っているのは――何かの燃えカス?


 キャンプファイヤーの後始末か?一瞬そう思ったが、何か違和感があった。キャンプファイヤーの燃えカスなら、もっと広範囲に片付けるはずだし、スタッフがこんなに不機嫌そうな顔をすることもないだろう。


 周囲に先生がいないのを確認してから、俺はそっと椅子から立ち上がり、窓から顔を出してスタッフに呼びかける。


「すみません、それ……何を片付けてるんですか?」


 スタッフは俺をちらりと見て、一瞬怪訝な顔をしたが、特に気にした様子もなく答えてくれた。


「なんか、山の方で勝手に焚火したやつがいたみたいでな。今その後始末をしてるんだよ」

「山の方……? キャンプファイヤーの場所じゃなくて、ですか?」

「そうそう。普通、火を扱うなら決められた場所でやるもんだろ? なのに、わざわざ離れた場所でこそこそ燃やしてやがったんだ。迷惑な話だよ。幸い大事にはならなかったけど、下手したら山火事になってたかもしれねぇしな」


 そう言ってスタッフはため息をついた。……焚火をした形跡? まさか、それって……。


「それって、昨日の夜の話ですか?」

「ああ、そうだな。俺らが気づいたのは今朝だけど、どうやら昨夜のうちにやられたみたいだ」


 やっぱり……。俺は確信した。


 昨日の夜、琴音のジャージが燃やされた。つまり、ジャージを燃やした犯人は、あの焚火の場所で何かを燃やしていた可能性が高い。となると……!


「それって、誰がやったか分かってるんですか?」

「いや、まだわからん。でも、施設の監視カメラに何か映ってるかもしれないから、今から確認するところだ」


 そう言ってスタッフは袋を持ち直し、施設の奥へと歩いていく。


 監視カメラ……!もしそこに犯人の姿が映っていれば、俺の無実が証明できるかもしれない。


「それって、監視カメラとかで確認したりするんですか?」

「ああ、これから確認するところだよ。さすがに野外だから死角は多いが、山の方の入り口のカメラには誰が出入りしたかくらいは映ってるはずだ」


 チャンスだ……!


 俺は喉の奥でごくりと唾を飲み込む。


 まだ俺が疑われていることがスタッフに伝わっていない今なら、変に警戒されることなく情報を引き出せるかもしれない。


「実は俺、今、冤罪を着せられてるんです……。だから、その映像で誰が焚火をしたのか分かったら、教えてもらえませんか?」


 そう言うと、スタッフは「へぇ?」と少し驚いたように眉を上げた。


「冤罪って……お前、何か疑われてるのか?」

「ええ……まぁいろいろとありまして……」


 俺は苦笑いをしながら頷いた。


「でも俺、本当にやってないんです。だから、もし映像で犯人が分かったら、教えてもらえませんか?」


 俺の言葉に、スタッフは少し考え込むように腕を組んだ。そして、やれやれといった様子で肩をすくめる。


「まぁ、俺も掃除させられて迷惑してるしな……。いいぜ、分かったら教えてやるよ」

「本当ですか? ありがとうございます!」


 思わず安堵の息が漏れる。


 これで、少なくとも犯人の手がかりを掴める可能性が出てきた。


 ……俺を陥れようとしたやつが誰なのか、その正体を突き止めてやる。


——— ——— ——— ———


ここまで読んでいただきありがとうございます!少しでも面白いと思った方は、応援コメント、作品のフォローや☆3をもらえるととても励みになるのでよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る