17話 最悪な夜明け その1

 朝の空気はひんやりとしていて、昨日の騒動が嘘のように静かだった。けれど、それが夢であればどれほどよかったか。


 ――俺は疑われている。天宮琴音のジャージを燃やした犯人として。


「……はぁ」


 軽く頭をかきながら、ベッドから起き上がる。どれだけ否定しても、誰も信じてくれない。証拠もないのに、「火を扱える」ってだけで犯人扱いだ。


 思い出すと、胸が苦しくなる。……このままじゃ、冤罪のまま学校生活が終わってしまう。


 そんなことを考えていると、部屋のドアが開いた。


「お、起きてたか」

「あぁ今起きたとこだよ」

「まぁ……昨日は散々だったなで? お前、本当にやってないんだろ?」

「当然だ。 俺があんな事をする時間ない事くらいわかってるはずだろ? 部屋へ戻る時も綾乃と一緒だったしな」

「……だよな。俺もお前がそんなことするとは思えねぇ。でも、皆はそうじゃない。昨日の雰囲気、最悪だったからな……」

「わかってるよ」


 昨日の視線、あの冷たさを思い出すだけで、嫌な気持ちになる。


 成田は顎に手を当てて、少し考え込んでから言った。


「……何とかしねぇとな」

「どうするかな……このまま冤罪をきせられるのは嫌だな」

「俺、ちょっと周りの話を聞いてみるわ。何か手がかりくらいは見つかるかもしれないし」

「……ありがとな」


 素直にそう言うと、成田は「おう」と笑った。


 その時だった。ポケットのスマホが振動した。


 画面を見ると――相手は綾乃からだ。こんな朝早くからどうしたんだろうか?


 俺は成田が部屋を出たのを確認して通話ボタンを押した。


「もしもし?」

『あ、城咲さん? 今、大丈夫ですか?』

「大丈夫だけど、どうした?」

「大丈夫だけど、どうした?」

『あの……昨日のことなんですけど……』

「……俺がやったんじゃない」

『っ! そ、そうですよね!』


 綾乃はほっとしたような声を出した。


 こんなに心配させてしまうなんて、なんで俺こんな事になってんだろ?


『でも……みんな、すごく疑ってますよね……』

「……ああ、知ってる」

『城咲さん、本当に何もしてないんですよね?』

「だから、してないって」

『……ごめんなさい! 私、疑ってるわけじゃないんです! 』

「うん、わかってるよ」


 俺は安心させるように返事をする。


『私は城咲さんがそんなことするとは思えません。だから私、城咲さんの冤罪を証明するために動こうと思います! 』

「えっ?」

『やっぱり何かおかしいと思うんです。ジャージを燃やすなんて、そんなことする意味がわからないですし……そもそも、火を使えたらみんな犯人扱いなんて、おかしいですよ!』

「……まあな」

『だから、私も何か手がかりを探してみようと思います! 』

「えっ?」


 思わず言葉が詰まる。


「綾乃、そこまでしなくてもいいんじゃないか?」

『でも! 何もしないで城咲さんが疑われたままになるのは嫌です!』


 電話越しでもわかるくらい、綾乃の声には強い意志がこもっていた。


「……ありがとう」

『ふふっ、でも、私、ちゃんと役に立てるように頑張りますから!』

「無理すんなよ」

『大丈夫です! それじゃ、また連絡しますね!』

「うん、わかった」


 通話を切ると、俺は小さく息を吐いた。まさか、綾乃まで動いてくれるとは思わなかった。


 でも――このままで終わらせるつもりはない。


 俺は静かに拳を握った。


——— ——— ——— ———


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