アルファンタジー〔超人イケメン英雄11歳が異世界転生したらディストピアの常識ガン無視で革命連発ハーレム形成。これはそんな頭イカれて心イカした、善を笑い悪を挫く、傍若無人の日常コメディ〕
東雲ツバキ
第一部
プロローグ‐カードの次は
第1話 猿も木から落ちる、神も仕事ミスる
宇宙空間に対面して立つ二席の椅子。
それに座る少年は熟睡から目覚めると、目の前に座る少女がプロフィール帳を読み上げる。
「アルファ。生誕2月24日。11歳。さかな座。AB型。171cm。利き手はクロスドミナンス。座右の銘は|天上天下唯我独尊・一滴潤乾坤世界救《まくとぅそーけーなんくるないさー・the hand that rocks the cradle rules save the world》。趣味はヒーロー系とロボット系。特技は初見二流のお手並み・なんでもできる器用万能。家族構成は愛と勇気。性格は一言で言うとひねくれ者/
目が覚めたら宇宙空間で、女神のような美少女から学級プロフィール帳を読み上げられていた件について。高身長の少年・アルファは(夢かな)と思い、再び入眠するため片あぐらをかいて目をつむる。対する少女は淑やかな所作でプロフィール帳をパタリと閉じた。
「マセガキのプロフィール帳ですね」
「ちょっと早い中二病に
「思想が強い高いと、よく言われますか?」
「まぁね。で、端的に状況を教えてほしい」
「私は女神です。アルファさんは元の世界で死んでしまいました。これから転生の儀を行います」
「まったく身に覚えがないのだが!」
いつ死んだというのか。女神と転生の件はオタク知識で理解できる。だが死亡に関しては記憶がない。かといって先ほどまで何をしていたのかも思い出せない。これはどうしたことか。
ふと女神は人差し指を虚空に突き出して、ちょんちょんと突っつくと、何もない空間に紫色の小さな波紋が広がる。まるでホログラムデバイスのキーボードに文字を打ち込んでいるような仕草だ。
「えーっと……あれ? ちょっと待ってください。おかしいですね……」
何を待てというのか。何がおかしいのか。既に全てがおかしい。待てと言われても居ても立っても居られないのだが。それでもアルファは急かしたくなる気持ちを抑えつける。いったい女神は何をしているのか。自分はなぜ死んだのか。
嗚呼、孤児院の子供達はこれからたくましく生きていけるだろうか。愛する女達はこれから幸せな相手を見つけられるだろうか。元の世界に未練はないが心配はたっぷり。なんとも生き急いで駆け抜けた人生だった。アルファ物語、ここに堂々の完結。などとアルファは諦念に耽る。
「な……なんでぇ? 死亡記録がどこにもない……まさかネット、壊れちゃった……?」
そして第二の物語が幕を上げようとしている。女神は情けない声を出してオロオロと焦っていた。すかさずアルファは呆れた様子で口を出す。
「大事件じゃないですか世界滅亡ですね。いいから読み上げてくださいよ。なんか検索してるんでしょ」
「は、はい……アルファさん、普通に生活していて……突然、この空間に転送? されたみたいで……こ、こんなこと、ありえないんだけどなぁ……なんでだろなぁ……」
先ほどまでの淑女然とした威厳はどこへやら。今の女神は、まるで仕事中にありえないミスを発見して、上司に相談もせずあわてふためく新米OLのように映る。
「じゃあ元の世界に帰してくださいよ。それで今回の件は夢ってことにしますんで」
「ちょ────ちょっと待ってくださいね!! あ~……やっぱりぃ?」
突として挙動不審に陥る女神は、まるで上司に叱られるのが怖くてミスを無かったことにする言い訳を考えているように、宇宙の斜め上を見上げる。そして良心の呵責と戦うように、開けてはならない口を迷った末に開けた。
「そ、そのぅ……やっぱり就寝中に、なんかあって死んじゃったかもしれません!」
「そうですか。了解しました。転生の儀をお願いします」
「ですよね~“なんかあって”ってなんだコノヤローって話ですよねぇ~あははは~────……えぇっ!?」
なぜか女神の方が両手を挙げて驚く。てっきり苦しい言い訳を突っ込まれると予想していたのだろう。
「どうしたんです? あとの仕事が詰まっているのでは?」
「エッ……ア、ハイ……」
なんだか試されているような気がする女神は、ホログラムデバイスを打ちながら、良心の呵責と戦うように世間話を始める。
「じ、実はそうなんですよ~……! 私、女神として死者を転生させる仕事が溜まっておりましてぇ……」
「分かります分かります。どれだけ長いこと働いてもノルマ達成ができなくて、それで上に叱られるのが怖くて、なんかミスってもそれに時間を取られたくないから、うやむやにしたがる気持ち。分かります」
「もしかして私の心を読んでますぅ!?」
アルファはニヤケ半分の呆れ顔で呆れ果てる。こんな単純な
「女神だから人間と思考形態や精神構造が違うのか。それとも夢だから辻褄が合わないのか。悩ましい難題だ」
「?? あ、あのう……つかぬことをお伺いしますが、元の世界に未練とか、ないんですか……?」
「ない。と言えば嘘になるし、あると言えば裏切ることになる。インターネットだかゴッドネットだか知りませんが、ちょちょいっと突っついて、俺の生涯を調べてみてはいかがです? そこそこ超人的な経験を積んでいると思いますよ。タイトルは【アルファと愉快な仲間たちのカードバトル】です」
「は、はぁ……そうですか……」
まったく興味なさそうな相槌を済ませた女神は本業に戻る。
「そ、それでは、転生の儀式を始める前に、いくつか説明することがあります。よろしいですか?」
「どうぞ。痛む心があるのなら」
「ぐぅ……」
渋い顔をする女神は左胸を抑えてうなだれる。だがそれも少しの間だけ。次に顔を上げた時、そこには精一杯の淑やかさを取り繕う女神の美貌が浮かんでいた。
「────古今東西に伝わる神話を語りましょう。神々は二つの勢力に分かれて戦争していました。女神と死神の戦いです。神々の戦争はいくつもの宇宙を焼き滅ぼしてしまい、残る戦場は生命の生まれた宇宙しか残っていませんでした。そこで死神は休戦を提案します。さすがの死神も、神々の戦争に巻き込まれて全ての生命が死んでしまえば、全ての宇宙から死の概念が消えてしまいます。それは死神の消滅を意味するため、これ以上の死を恐れたのです」
「死神が己の死を恐れたのか。皮肉な話だな。で、女神は人類の庇護者。死神はモンスター的な何かの庇護者。両陣営は生命のいる宇宙を焼き滅ぼさないように休戦。その代わり、お互いに庇護する種族同士を争わせて勝敗を決めようって魂胆なわけ。つまり代理戦争ってことか」
「なんで私のセリフを取るんですかぁああああああ!? ここ私が一番かっこいいシーンなのにぃー!! 大好きの時間を取られたぁああああああ!!」
「マジかよ当たってのかよ」
「というか、どうして私のセリフを取れるんですかぁああああ!? あなた、なんの変哲もない人間ですよねぇええええ!? まさかエスパー!?」
「あー……なに? 神ってこんなにポンコツなの? この駄女神だけがヤバイの? 誰でもいいから、実はコイツだけがバカって言ってくれ」
「バカって言うなぁあああああ!」
涙目で抗議する女神は椅子の上で地団駄を踏む。かんしゃくを起こして暴れるため、完璧に中を守るはずの
「しかも笑われたァ! なんかよくわかんないけどイヤな笑い方されたァ!! しかもなんか冥福を祈られた気がするー!」
腐っても神か。内心で吐き捨てた暴言は、なんとなく伝わってしまっている様子。そもそもなぜ暴言を思ってしまったのかアルファ自身にも分からない。どうしてかこの女神はいじりたくなる。アルファは謝罪も兼ねて、少女にかっこいいシーンを譲り渡す。
「しかし、なぜ神々は転生者を必要とするのか? そこがわからない」
「!! そ、それはですね! えっへん! ────死神陣営の魔王が、女神陣営の勇者に倒されて久しく。死神は起死回生の一手として、宇宙神話に語られる名状しがたき生き物を召喚してきました。これに女神側も召喚で対抗。ただし、いきなり生きた人間を召喚して戦わせても、人間側のモチベーションが続かない上、そもそも神話生物には勝ち目がありません。そこで頭のいい女神は考えました!」
「死人なら第二の人生を楽しめるからモチベ続くし、ついでにチート的な何かを授ければ勝ち目あるだろうって?」
「だからなんで私のセリフを取っちゃうんですかぁああああああ! また私の大好きな時間が奪われたぁあああ!」
「この手の展開は、うちのクラスメイトが絶賛して勧めてくる異世界転生系ラノベとやらで予習済みです。興味ないからあんま知らんけど」
また女神のかんしゃくが始まった。涙目で地団駄を踏んで椅子の背もたれに噛み付く。その間はヒマになるため、アルファは頭上の宇宙を見上げて独りごつ。
「でも俺はニチアサが好きだからなー。あー俺、ヒーローのいる世界に転生したかったなー。なれるもんならブルーになりたかったなー。いやでもただの一般人で、ヒーローに助太刀するポジションも捨てがたいなー。ずっとそれで妄想してきたからなー。ザコ怪人くらいなら殺せなくても、格闘して時間稼ぎができる程度には
「ただの人間はゴブリンにも勝てないんですよ! 22世紀の地球人なら尚更ですよ! 戦争知らずの平和な世の中で育ったんですから! そんな男の子チックな夢は潔く諦めて捨ててください!」
「いたいけな少年になんてこと言うの。こう見えて11よ? 親のおかげで背が高いから大人に間違われること多いけど、心はいつでもホップステップジャンプしている友情努力勝利の少年なんだよ?」
「そんなおっさんくさいセリフを言う11歳はいません! いいからさっさとチートスキルやチートアイテムを選んでください! ひとりにつきひとつまでですよ!!」
鼻をすする女神はホログラムデバイスを可視化させて、放り投げるようにそれをスライドさせる。アルファの眼前にスライドしてきたホログラムデバイスには〈地球終末決戦用チートカタログ〉というページが表示されていた。アルファは、そのラインナップを見て何かがおかしいと思い、読み上げる。
「……〈
「あわわわわわわわわわ!? それ違います違います間違えましたぁあああ!」
慌てて椅子を蹴り立って走ってきた女神は途中で転びそうになりながら、アルファの隣で突っついて紫の波紋を出す。素早く画面を操作して、今度は〈転生者用チートカタログ〉を表示させた。
「なるほど……ラグナロクが封印されたのもアーサー王がアヴァロンで眠ったのもワイルドハントの伝説も、全部お前らが関わっていたのか……」
「誤解ですぅうう! 今のは地球の神々と同盟した際に渡されたカタログで……ってこれ禁則事項ぉおおお! お願いします忘れてください! 後生の頼みですぅうううう!」
「わかったわすれた」
面倒事には巻き込まれたくない。もし本当に神様なら、その権能を使って、口封じに存在を消される可能性もある。
「んー。美女が欲しいなー」
「えっ! そ、そんなのでいいんですか……? チートの中では、
「別にチートなんて要らん。強いて言うなら俺自身がチートだ」
「なっ……! なんて傲慢な人間でしょう!」
「むしろ、そのために俺を呼んだんじゃないのか? 死人じゃないのに召喚したってことは、それなりにピンチってことだろ」
「ななななな何を言い出すんですか死人に決まってるじゃないか! それに全然ピンチではありません!」
アルファは見抜く。前者のどもりまくったセリフはともかく、ピンチかどうかについては真実を言っている。どうやらそこそこ平和な世界のようだ。
「ふーん。で、早くいい感じの美女をくれない?」
「エッ……ア、ハイ……じゃあ、コモンカタログを開きましてぇ……」
なかなかの美少女が揃う。しかしアルファは、そのカタログをチラリとも見ない。懸命にホログラムデバイスを操作する駄女神の横顔を見つめている。
「どんな感じの女性が好みでしょうか?」
「んー。好きなタイプは純粋な人格」
「純粋……ってそれ心の問題じゃないですか! 見た目は!?」
「特にない。中身重視なもんで。あーでも、強いて言うならスタイルのいい奴がやっぱそりゃね?」
「スタイルですね! 全体の黄金律が取れている美女ということで……こちらはどうでしょう!?」
女神によって、ズラリと美女の全身絵が並べられる。
「ちなみにこの美女達、どんな理由でここに載ってるわけ? もし本当に俺が選んで連れて行けるなら人権侵害じゃね? この人たち召喚した途端、『アンタなんかとは旅したくないわ!』ってビンタされてさよならとかあるよね?」
「ご安心ください! 今回のような事例は初めてですが、特別に召喚した美女さんには、あなたに惚れるように魔法をかけてあげます!」
「あーそういうのは生理的に受け付けないんで断固拒否します。女は口説き落としてナンボでしょ」
「……そういうものなんですか?」
「俺はそんな趣味を持つ、というだけの話です。洗脳系なんて論外だ」
アルファは片あぐらを解く。背もたれに身をあずけて楽な姿勢となり、頭上の宇宙を見上げてわざとらしくつぶやく。
「あのー早くしてくれません? 美女が欲しいって注文したんですけど」
「え? だから早くカタログから選んでくださいよ!」
「わざわざ?」
「わざわざです! それともなんですか、私が選んでもいいですか!?」
「や、そうじゃなくて」
女神の瞳を見据えるアルファは、キメ顔で言う。
「目の前に絶世の美少女がいるのに、それは選んでくださらないのですか?」
女神は目を点にする。いま何が起きたのか理解できない。アルファは今、女神の顔に間近まで迫って言った。つまり女神に向けて発言した。つまり、まさか口説かれた? アルファは透き通った爽やかイケメン顔で微笑みの視線を送っている。なるほどたしかに、これは大抵の女性は落ちるだろう。しかし女神は断固拒否した。
「あ、ごめんなさい。私、好きな神がいるので……」
「かーっ! そうでしたか! すみませんね! 自分、間男だけにはなりたくないんで、潔く身を引きますよ!」
その時だった。
突として宇宙の左側から波紋が広がり、黒スーツに身を包んだ仮面紳士が現れる。
「フハッハー! それでは困る! そしてアルファよ、貴様の案はすこぶる気に入った! その駄女神、もらってやって────」
「クレープぅうううう!」
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