1幕
1幕
§1 The Cage, the Moon
少女、檻の中から三日月を見上げる。ふきっ晒しの檻の中にいる少女を激しい雨が打つ。
歌 The Cage,the moon
少女:
美しい月が今宵も
醜い私を照らし出す
誰も助けてはくれない 絶望の生き地獄
死ぬ事も出来ない 喜びなどどこにもない
せめて心を無くして 生きることが出来たら
少女:死ぬ勇気も無い、飢えと寒さで体は壊れそう。せめて心を無くせたらいいのに……。
§2 The birthday of 10
〇 王宮にて(夜)
豪華絢爛な王宮の広間。王子10歳の誕生パーティにて、城中の人達が祝っていた。国王は愛人たちと戯れながらワインに豪勢な食事を楽しむ。
王子は上辺だけの頬笑みを浮かべ、外の世界のことを考えていた。
歌 ジェンカ国王万歳
家臣/召使いたち:
さあ、はじまる豪華絢爛な誕生日
王子様の10歳の生誕祭
メイドに執事、家臣に兵士
王子様には目もくれず
ジェンカ国王の機嫌を取る
盃を、葉巻を、美女を、余興を、
国王様のためなら何でもする
それがこの国で生きていく術
家臣A: アレン王子!おめでとうございます。もう10歳になられて……。赤ん坊だったのが昨日のようです。
アレン:ありがとう、もう赤ん坊じゃないよ。
家臣A:分かってはいるんですがね、……おいちょっとそこの君!こんなものを国王にお出しするのか。もっと肉を、豪勢に盛らんか!ジェンカ国王は肉が好物だとあれほど……。
召使いA:アレン王子!おめでとうございます。まあなんと、見目麗しゅう晴れ姿で。
アレン:……ああ、ありがとう。僕もようやく……。
召使いA:まあ!貴女、昨夜は国王陛下にお呼ばれしたんですって。で、国王陛下はどうでしたの?
召使いB:それはそれは、もうあちらの方は戦の如く、激しくて激しくて……。
メープル:アレン王子、アレン王子!
アレン:……ああ、メープル……。
メープル:おめでとうございます、10歳のバースデー。立派な大人の仲間入りですね。
アレン:誰も僕のことなんか気にしちゃいないさ、興味があるのは僕の父だけ。
メープル:そんなことありませんよ。少なくともこのメープルは。
アレン:そう言ってくれるのはお前だけさ。疲れた、部屋に戻るよ。
メープル:8時の式典には参加してくださいよ!
アレン:……。
〇アレン、自室へ戻る
アレン:どうせ誰も僕のことなど気にしちゃいない。この国の王子だからと言って良いことなどひとつも無い。誰も僕を見ちゃいないんだ、みんな父上に取り入りたいだけさ……。
歌 ひとりぼっちの月夜
アレン:
大きな部屋でいつもひとり
心を許せる友人はいない
何不自由ない暮らしをしていても
心はひとりぼっち
こんなのは本当の自由じゃない
窓から見える綺麗な満月
月だけが僕を見ている
突然雷が落ちる。
アレン:……ガタガタと、うるさいな。ひどい落雷だ……。もし僕が部屋を抜け出しても誰も気づきやしないだろう……。
〇アレン、城を裏口から抜け出す。夜空では雷が鳴り響く。
アレン:ひどい雨だなあ!!はは、また光ったぞ!今夜は綺麗な月夜のはずだったんだけれど、天気さえも僕をバカにしているのか?ははは!いいぞ、もっと降れ!誰もここに僕がいるだなんて気づきやしない!!(両手を広げて天を仰ぐ)
カサっと物音がする
アレン:!!誰だ!そこにいるのは!!(辺りを見回す)
アレン:出てこい!さも無くば家来を呼ぶぞ!!
物陰からボロをまとった人影が出てくる
アレン:……なんだ乞食か。こんなところにまで乞食が来ているとはな……。乞食の侵入を許すほど城の警備が緩くなっているのか。今日は父上の機嫌が良いからな、みんなこぞって媚びを売りにいっているんだ。おいそこの、名前をなんて言う?
少女:……。
アレン:喋れないのか?もっと大きな声で!この雨音で聞こえやしない!!
少女:……。
アレン:まあいい、少し待ってろ。なにか食べるものを取ってきてやる。
アレン、少しして戻ってくる。
アレン:キッチンに入っても、誰も気にもとめやしない。まあ王子、お夜食が必要ですか?だって。誰も僕を気にしちゃいない……ほら、パンだ!これをやる!しまった、傘を持ってくるんだった……おいそこの!こっちに取りに来れるか?
少女:……。
アレン:おい!って、わあ!
アレン、足を滑らせ裏口扉の階段を数段滑り落ち、尻もちをつく。
アレン:いてて……うう、冷たい……、ほら、パンを、あっ……。
腰をさするアレンに目もくれず、乞食の少女、パンを引ったくって走り去っていく。
アレン:いてて、全く……あのボロボロ、女だったのか……?一瞬顔が見えた様に思ったのだけれど……。
召使い1:王子!アレン王子〜!!
召使い2:おかしいわねぇ、部屋に行ったはずなんだけれど。
召使い1:王子!アレン王子!式典が始まりますよ!!広間にお戻りを!!全く勝手なお坊ちゃまなんだから……。
王子:もうそんな時間か……いてて……。
○城の広間にて
一同、城の広間に集まる。
家臣:偉大なるノーム王国の王、ジェンカ国王に礼!
一同:(礼)
ジェンカ:これはこれは、余の愚息、アレン誕生日パーティーは順調か?アレン、ひっく、お前はもう、ひっく、いくつになった?(泥酔した様子で)
アレン:はい、10歳です。
ジェンカ:そうかそうか、余がその歳の頃は虎を狩り、
召使い3:まあ、虎ですって!
ジェンカ:隣国に攻め入る指揮を取っていたぞ
召使い4:まあなんと勇敢なこと!!
ジェンカ:お前も父を見習い、立派であれ。
家臣:ジェンカ国王〜!!!(家臣が広間へやってくる)
ジェンカ:どうした大佐殿。
大佐:国境近辺西側の村、ヘイポ村を討ち入りましたぞ!兵糧攻めが決め手となりましたな!村民らが全面降伏を掲げ、我らがノーム王国の配下になると!
ジェンカ:でかした!あの小さな、貧しい村め、やっと降伏を申し出たか。めでたいことよ!これでまた我が王国は大きくなり、ますますの繁栄がもたらされるという訳だ。
右大臣:大佐殿、きっちり女子供を集めて参っただろうな?
家臣:それはもちろんです右大臣殿。奴隷市場も安泰ですぞ!
ジェンカ:息子の誕生日といい、めでたい日じゃ!皆、我に乾杯!
一同:偉大なるジェンカ国王に乾杯!
アレン:……(退屈そうな顔をして自室に戻る)
§3 邂逅
時は経ち4年後、アレンは14歳になっていた。広間では兵士たちが武道に励んでいる。
○城の広間にて、昼間
大佐:一同、やめ!アレン王子のお通りだ!
一同:(アレンに敬礼)
アレン:午後のレッスンを開始する。
一同:はっ!(再度敬礼)
広間の扉が開き、国王と家臣が入ってくる。
ジェンカ:これはこれは、励んでおるな。
大佐:はっ、国王陛下!一同、敬礼!
一同:ジェンカ国王万歳!(再度敬礼)
アレン:どうされたのですか、父上。
ジェンカ:可愛い息子の頑張りを見に来ただけでは無いか。アレン、励んでおるな?
アレン:はっ!(敬礼)午後のレッスンを開始したばかりです。
ジェンカ:よろしい。では大佐、息子相手に闘ってみよ。
大佐:ですが国王……。
ジェンカ:遠慮は要らぬ、敵を殺すつもりで討ってみよ。無論、真剣でな。
双方に構え、緊張が走る。大佐とアレン、真剣で戦い始める。
メープルが広間にやってくる。
メープル:ジェンカ国王、こちらにおられましたか。
ジェンカ:おお、メープル。どうした、今面白いところで、
メープル:先日の戦果である奴隷一同が揃いました。
ジェンカ:おお、それはそれは!もう良い、戦闘やめ!
家臣たち、鎖に繋がれた奴隷たちを広間に連れてくる。
ジェンカ:ほほう、よく集まったな。アレン、お前にもひとつ分けてやろう、慰みにするなり、剣術の練習にするなり好きにしろ。
アレン:僕は奴隷など……(ヘトヘトになって肩を押さえながら)
ジェンカ:国王命令が聞けぬのか!!!(すごい剣幕で)
ジェンカ:……アレン、さあ選ぶが良い(微笑んで)
アレン、広間中央に行き奴隷を見つめる。
アレン:……君……君は?(ひとりの少女の前で止まり驚いた表情をする)
少女:……。
アレン:君、君のことどこかで……。
メープル:アレン様、そちらの奴隷になさいますか?
ジェンカ:ほほう、さすがは我が息子。女を選びよったか。どこの馬の骨ともしれん、愛想もなくまるで物のようだわい。それにするのか?
アレン:君……名前は?
メープル:国王、決まったようです。こちらの奴隷で。
ジェンカ:それは良い。メープル、奴隷に問題は無いな?
メープル:はい、美しく引き締まり、健康体であります。
ジェンカ:よろしい。では引き続き、剣術に励め!(国王退室)
○アレン自室にて
アレン:君、君の名前は?どこかで会ったことがある?
少女:いいえ、王宮には今日初めて来ましたので。
アレン:君、名前は?
少女:人は私をシング(Thing)と呼びます。
アレン:物……そうか……。
少女:何かありましたら、お呼びください。
アレン:(本当に、心が無いような女だな……ここまで無機質な人間に今まで出会ったことがない……)
○別日、アレン自室にて
少女:おはようございます、アレン様。(カーテンを開ける)
アレン:ああ、おはよう……見ろよシング!(窓から見える庭を指さして)もうクサイチゴの花が咲いている!だんだんと暖かくなってきたからなあ!
少女:クサイチゴ……?
アレン:ああ、あの庭の右隅に見える花だよ!綺麗じゃないか……イチゴは好きか?
少女:イチ……ゴ……?
アレン:まあいい!今取りに行ってやる!
○別日、廊下にて
アレン:シング、シング〜!どこだい?
少女:はい、ここにおります。
アレン:ああ、ちょうど良かった。大佐達が新しい剣の開発を行っているんだ。ちょっとこれを持ってみて、重いかい?(剣を渡す)
少女:……はい、少し……。
アレン:だよなあ、男の僕が持っても重いんだもの。こんなもの使えやしない。
少女:あの、誰が、使うのですか……?
アレン:さあ?大佐曰く兵力強化のために女子供にも武装させるらしい。それで我が身を守れるなら、良い事さ。
少女:……。
アレン:ありがとう!もう行っていいよ。
少女:あの、アレン様、食事の支度が出来ました。
アレン:ああ、ありがとう。もうすぐしたら行く。シングもちゃんと食べるんだ、君は細すぎる!
歌 Something different
アレン:何かが違う
今までと違う
広い城にひとり、誰も僕に気が付かない
今は違う
シングがいる
朝から晩まで、僕のそばにいる
僕の話を聞いてくれる人が、僕だけを見てくれている人がいる
少女:何かが違う
今までと違う
失った心、失った光
広い町の中で、誰も私に気が付かない
あるのは寒さと飢えだけだった
太陽のようなその笑顔
私にだけ向けられる幸せ
そばに居させて、あなただけを守りたい
あの日出会った時から
○アレン自室にて
アレン:君は?どういうところからきたの?
少女:小さな、村です。
アレン:へぇ、田舎から来たんだ。どこの村?
少女:国境近辺の……小さな、村でした。
アレン:ふうん。村ってさ、どんなところ?水は美味しいの?人も風景も、のどかなのかな。
少女:……クサイチゴや、パンの無いところです。
アレン:そう……僕には知らないようなユニークな食べ物や文化がたくさんあるんだろうな。村かあ、行ったこともないなあ。僕はこの城を出たことがないんだ。うんと昔、城下町には行ったことがあるんだよ。ものすごい人だったな……。いつかシングとも行くことが出来たらなあ。まあどうせ、僕が城を抜け出しても誰も気づかないだろうけど。
シング:アレン様は、このお城を出たいのですか?
アレン:分からない。ここにいたら、孤独ではあるけれどなにか不自由をする訳じゃない。いずれ国王になるんだ。それまで、学ぶべきことを学んで、ここで過ごすんだと思う。多分……(遠くを見つめる)
§4 16歳の家出
歌 贅沢讃歌
家臣/召使い:
今日も城は忙しく回る
朝から晩まで、王のご機嫌取りで大忙し
昨夜は奴隷を5人殺したそう
今朝は金を卵に塗って食べたそう
国王陛下の贅沢三昧
国王陛下の酒池肉林
国王陛下の機嫌を取るため偽りの戦果をでっち上げろ
国益は上々、奴隷市場はぼろ儲け
国の内情など誰も気にしない
国王陛下の機嫌さえよければ
明日は我が身だ、隣人よりも国王陛下に気に入られろ
さすれば明日は生きられる
家臣A:今宵はアレン王子の初陣だ。
召使いA:あの、奴隷と仲のいいお坊ちゃまが?
家臣B:ああ、剣術の腕は確かだが、些か度胸に欠けると見える。
召使いB:国王陛下のご子息ですもの、必ずや敵を討ち取りましょう。
少女がアレンの元にやってきてから2年が経つ。アレンは初めて出来た友達に毎日が楽しかった。ノーム王国は隣国との戦争を続け、国民たちは疲労困憊していた。
○アレン、城にて(夕方)
アレン:シング〜シング?
少女:はい、ここに。
アレン:ああ、良かった。今夜、僕の初陣なんだ。
少女:ういじん……危険、なのですか?
アレン:なあに、危険では無いさ。僕の前にたくさんの兵士達がいるし、僕は国境まで出向いて行って、戦争を、するんだ……。(俯く)
少女:体が震えておられます。
アレン:ああ、人を殺したことがないからね。怖いのかもしれない。
少女:アレン様ならきっと成し遂げられます。
アレン:父上の期待に応えられるか、不安なんだ。父上は僕がたくさんの敵人を殺すことを願っているだろう。父上の武勇伝はたくさん聞かされてきたから……。
……たまにね、父さんが分からなくなる。僕の母上は僕が生まれた時に死んじゃったんだ。父さんは確かに尊大な人だけれど、たまに父さんが分からなくなる。
少女:アレン様は、お父様を尊敬しておられるのですね。
アレン:尊敬……?してるのかなあ。この国の人はみんな父さんに気に入られることだけを考えて生きてるだろう?それは父さんが昔本当に強くて、この国を豊かにしたからなのか、それとも本当は国民たちは恐怖や我が身可愛さに父さんに気に入られようとしているのか、僕はたまに分からなくなるんだよ。どうしたら真のことがわかるのだろう。
少女:お父様が行ってること、していらっしゃる行為にこそ価値があると思います。
アレン:行為にこそ、か……そうだな、僕も今年で16だ。父さんは16で国王になった。僕ももっと立派な人間になれるよう、父さんが何をしているのか、そばでよく見てみるよ。ありがとう、シング。
○地下室にて
歌 情けは無用
兵士たち:
心を捨てろ 慈悲を捨てろ
幼子たちを洗脳するため
薬を飲ませ 残虐を叩き込め
明日は我が身、明日は我が身だ
情けを呼び起こすな
国王陛下には向かえば この目に遭うのは自分たち
自分の弟、妹と、娘息子と変わらぬ子供たち
年端もいかぬこの子らに 情けは無用
この国で生きる為に 情けは無用
所詮は敵国の子供たち
○廊下にて(夕方)
兵士:アレン様!どうかされましたか?食事の時間は暫し先です。
アレン:少しうずうずしてね。
大佐:今日が初陣ですから。きっと立派にやり遂げられますぞ!
アレン:父上は?
大佐:父上は今、地下室に……。
アレン:分かった、地下室だな。(廊下を翻して駆けていく)
大佐:アレン様、国王陛下は今お忙しく、アレン様!
○アレン、地下室へ走っていく、大佐たち、後を追いかける(日が暮れかけている)
アレン:すごい臭いだ……なんの臭いだろう……。
ジェンカ:おお、アレンでは無いか。ちょうど良いところに来おった。
アレン:父上、この……この少年たちは……?(奴隷兵士たちを見つめて)
ジェンカ:見てのとおり、奴隷じゃ。こやつらが我が国の兵力となり国力となる。
アレン:なにか、が、おかしい……?彼らの目が、目が変だ……!!
大佐:見ての通りです、アレン王子。連れてきた奴隷はすぐに服従はしませんし、自殺を試みるものもおります。それを阻止するために開発されたのがこの薬。薬で麻痺させ、依存させる。それで正常な心を奪うのです。
ジェンカ:今年の出来はよいの、今のところ1人も出ておらんのだろう?脱離者が。
大佐:はい、国王陛下。素晴らしいことでございます。
アレン:こんなことが……こんなことが許されると思っているのか……!!
ジェンカ:アレン、我が息子よ、この世で最も大切なものはなんだ?
アレン:この世で、最も、大切なもの……?
ジェンカ:すぐ答えんか!お前が幼き頃よりずっと教えておろう。我が国、ノーム王国の存続、即ち私の富こそがこの世でいちばん大切なことじゃ。
大佐:お考えの通りでございます国王。
アレン:違う、違う違う違う……!!!(頭を振り乱しながら)
ジェンカ:何が違うのじゃ、言ってみろ!この国の国王である私が豊かに生きている、村なぞいくらでもあろう、そのひとつやふたつ滅ぼして何が悪い!
アレン:この子達にも、この少年らにも人生は、心は、生き方はあったはずだ……それを、それをこんなふうに……!!嘘だ嘘だ嘘だ……!!連れてきた奴隷たちは農作や国境警備の手伝いに使っていたんじゃないのか!!
ジェンカ:黙れアレン!!!それでも我が息子の考え方か!言葉に気をつけろ。(キッと睨む)
この国を見ろ、一昨年より続く凶作に、止まぬ隣国との争い。どこをどう見たって奴隷をあてがうべきは兵力の増加だ。国民たちが飢えてようと知ったことか、この儂こそが豊かに生きるべき人間なんじゃよ。その為なら多少の犠牲は厭わん。
アレン:おかしい、おかしいだろこんなこと……何故だ、何故君たちは逃げようとしないんだ!!そんなにもこの薬が彼らを……。
ジェンカ:薬だけでは足りないがな。
アレン:なに……?(国王を睨み返す)
大佐:恐れ多くも国王陛下、これ以上はアレン様には刺激が、
ジェンカ:なに、良い機会じゃ、愚息は城でぬくぬくと育って世の厳しさを知らん。今年で16になると言ったか?政治とは、戦争とはなんたるかを教えるにはちょうど良い。連れてきた少年たちは薬だけでは完全に洗脳はされない。そこで殺させるのじゃよ、
アレン:殺させる……?
ジェンカ:そう、両親をな。奴隷を連れてくる時その家の両親も連れてくる、薬で麻痺させた後に最初の殺しを行わせる、それが親殺しじゃ。奴隷達は罪悪感と帰る場所の無くなった喪失感でだんだんと命を捨てることも厭わぬ最強の兵士となる。
アレン:嘘だーーー!!!!!!
ジェンカ:待て、アレン!
○アレン、耳を塞ぎながら地下室をかけ上る、追いかけるジェンカ。
アレン:嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!(剣を抜いて突きつける)
大佐:アレン王子!(駆けつける家臣たち)
アレン:父上あなたのやっている事は全て……!
ジェンカ:全てなんだと言うのだ?お前がこうしてぬくぬくとここで暮らしていけるのも我が国が豊かであるからこそよ!感謝こそすれこの儂に歯向かうとは!もう良い!おい、あれを持ってこい!
家臣:はっ!(家臣たち、後ろ手に繋いだシングを連れてくる)
アレン:シン……グ……?
ジェンカ:お前はこの奴隷をたいそう可愛がっているそうじゃの。それは良い、じゃが執事ならここにメープルがいるでは無いか。今宵は初陣、お前の覚悟をこの奴隷を叩き斬って見せてみろ!
アレン:待ってください父上……
ジェンカ:二言は無用!さあ、斬れ!
アレン:シング……
少女:アレン様……
ジェンカ:さあ!お前がやらぬなら儂が叩き斬ってやるわい!
アレン:やめろー!!!(ジェンカと剣を交わす)
アレン:(こんなところにいちゃいけない。僕が見ようとしていた、尊敬しようとしていた父上は幻想だ。今はっきりと、やっと真実を見ることが出来た。この国は腐っている、僕はこんなところにいたくない。例え城を追われることになっても……シング、ふたりで逃げよう、2人ならきっと……)
○アレン、家臣達と戦いながらシングを連れて城を逃げ出す。下弦の月が彼らを照らす。
アレン:(ナレーション)半分の月が頭上に昇っている。父上はこれを勝利の月と言ったっけな。もう半分が輝いていないのは敵国が、僕たちに負けて滅んだからだと。滅ぼされた国の事なんて考えたこともなかった。
もうどうでもいい、あの人は父上でもなんでもない。これからはシングとふたり、僕達は生きていくんだ。強く、強く、ふたりで、自由を探して……。
1幕終わり
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます