島村武志氏に関して

”島村武志”という名前で検索を行ってみたところ、以下の雑誌記事がヒットした。該当箇所をそのまま転記する。


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『新興宗教の実態2006』より抜粋。


オウム真理教が引き起こした大事件の傷は、今なお癒える事なく多くの人々の心に暗い影を落とし続けている。法治国家における一宗教団体の行いとしては空前絶後といえる規模の事件であったが、その影響から人々は抜け出すことが出来るのだろうか。人間の作り上げてきた歴史はそのまま宗教の歴史とも言い換えられる。それゆえ、短い時間に悪たる宗教からその心を律することは、決して簡単な話ではない。

さらにそんな中で問題となるのが、陰ながら勢力を強めている新興宗教の影響である。これまでの教えとは一線を期するその内容に魅了される若者は多く、孤立した社会の中に自分の居場所を求めるものも多い。我々はその真実に迫るべく、数ある新興宗教の中から、この章では”島村武志”なる人物が率いている”光の救済寺院”について取材を行うこととした。


光の救済寺院は、島村武志氏が中心となって立ち上げられた団体である。宗教法人格は所有していないため、ここでは同団体を”宗教団体”と表記することを控える。人数規模は100人にも満たず、団体が所有する施設は本部と言える寺院一か所のみである。取材に訪れた我々を前にして、島村氏は開口一番にこう言葉を発した。「私は、皆を救いたいわけではない。救うという言葉は、自らの安寧を脅かす者がいたとして、その者の事を排除せずに受け入れるという意味だ。私はこれは間違っていると思っている。それゆえ、私は脅威と言える相手の方を排除する教えを広めたい。救いを求めるのではなく、自らが大敵を排除するのだ」


妙に攻撃的ともいえるその教えに感化されたのか、我々が取材に訪れた日も多くの若者たちが島村氏の言葉に耳を傾けていた。かけられる言葉を心の底からありがたがっているその様子は、どこか狂気的であった。するとその時、一人の男性が我々に声をかけてきた。


「皆様も見学ですか?」


声をかけてきた男性は、寺院に集まっている人々とはやや異なった雰囲気を醸し出していた。我々はすかさず言葉を返す。


「我々は取材です。あなたは、ここに見学に来られたのですか?」

「そうです。私にはもう、先生しか頼れる人はいないのです」

「先生しかいない?」


我々の質問に対し、男性は重々しい様子でこう言葉を続ける。


「私は、家族を失ってしまったのです。私が守れなかったばかりに、妻も娘も失ってしまったのです」

「え…え?」

「無念で無念で仕方がなかったはずなのです。しかし私の力だけでは、どうすることもできないのです。それはもう、ひどく絶望しました。しかしある日、先生のお言葉を聞いて私は目が覚めたのです。私に必要だったのは救いではなく、排除だったのだと」

「……」


我々に向けて言葉を続ける男性の表情は、”信者”の姿そのものだった。仮にここで我々がどのような言葉をかけたところで、もう手遅れなのだろう。その瞳はもう、島村氏の事しか映っていないように見受けられた。


こういった新興宗教においては、信仰を始めるにあたっては家族と衝突するケースが非常に多い。中には家族と絶縁をしてまで信仰に足を踏み入れるものもいる。この男性の場合においても、おそらくそういったケースなのであろうと見受けられる。男性が島村氏に傾倒していく一方、家族は信仰を拒否した。その結果、島村氏の事を受け入れない自分の家族など死んだも同然だ、といった行き過ぎた考えにこの男性は陥ってしまったのかもしれない。考えのひとつでここまで家族が分裂してしまう。それほどに”信仰”というものには大きな危険性が潜んでいるのだ。


「私はもう先生に身を預ける覚悟です。皆様にもいずれ、その言葉の意味が分かります」


男性はそう言葉を口にし、島村氏の元へと向かっていった。そんな彼にかける言葉など、我々取材陣にあろうはずもなかった。それは言ってみれば我々の目の前で、一人の人物が新興宗教に心を落とした瞬間ともいえた。


「皆さんの幸福を阻害するものの排除こそ、我々が真に前に進む力となるのです。どうか私を信じてついて来ていただきたい。皆様が願う、外敵の排除。私はそれを必ずや実現してご覧に入れましょう」


その後の説法においても、”外敵の排除”という言葉を執拗に口にする島村氏。我々にしてみればそれは恐ろしい意味を持っているものではないかと勘繰ってしまうが、その点についての明確な回答は得られなかった。詳しく知りたければ、入信するしかないという事なのだろう。


取材の終わり際、島村氏は我々にこう言葉を発した。


「あなた方にも、気に入らない人間の一人や二人はいる事でしょう。これをご覧になっている方々においても、それはきっと同じこと。であるなら、ぜひ私の元までお越しください。その願いが、きっと叶う日が来ることでしょう」


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【出典】

滝大助・共著『新興宗教の実態2006』,アルカ共同出版社,2006,p112


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【※特記事項】

追跡調査の結果、島村武志氏は現在すでに死亡している事が判明。寺院に関してもすでに解散してしまっているような様子。詳細は判明次第、当作品中にて紹介いたします。

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