建築方法
前回に続き、高橋氏が過去に寄稿を行っていた雑誌記事を以下に転記させていただきます。
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『別冊グロー』(2019年1月12日発刊分)【寄稿:高橋誠吾】
「流転建築」は、かつて日本にて確立された建築手法の一つである。その初出について詳しい事は判明していないが、戦後間もない1950年代ごろに確立されたものであるとされ、当時の日本国内において非常に優れた建築手法であるという評価を受けていた。
流転建築の優れた点は、建築学的な合理性はもとより、居住者の精神状態をきわめて安定的な状態にさせられることにある。今に残る詳細な記録は非常に少ないものの、流転建築によって構築された住居に住んだ場合、居住者の精神性は極めて良好な状態で維持され、攻撃的な性格や態度は鳴りを潜めていたという。戦争経験によって精神錯乱状態になっていた者や、PTSDを発症してしまっていた者、先天的に攻撃的な性格をしていた者に至るまで、流転建築によって構築された住居にしばらく居住すれば、非常にスムーズに穏やかな精神状態となり、まるで別人のように落ち着いた状態となっていったという。ストレスに対する抵抗性も非常に大きいものであったとされる。そのような性質ゆえ、この建築法を一般化してほしいという国民の声は日に日に大きなものとなっていき、ある時には日本国の住居建築の標準的な方法として公的に指定をしてもいいのではないかというところまで話は勧められた。
しかし、流転建築はある日をもって建築業界から姿を消し、国民の記憶からも抹殺されることとなった。あらゆる建築法を記す専門書や解説書からもその名を消され、学会等において名前が挙がることもなくなり、次第に触れられることさえなくなっていった。今を生きる人の中においても、流転建築という言葉を聞いたことがあるという人は非常に少ないであろう。どうしてかつてあれほどの勢いを持っていた流転建築が一気にタブー視されるようになっていったのか、その詳細な理由は今だ判明していないものの、まことしやかにささやかれている一つの噂が存在する。
それは、流転建築という手法の中において、ある重大な欠陥が発見されてしまった、というものだ。取り返しのつかないなんらかの重大な欠陥が発見されてしまった結果、秘密裏にその存在を消されてしまうこととなってしまったのではないか、という噂である。
しかしとは言っても、その欠陥が具体的にどんなものであり、どのような影響をもたらすものであるのか、その理由は全く明らかとなってはいない。そもそもこの噂が本当かどうかも確かめようのないものである。しかし、最盛期には国を挙げてのプロジェクトとなっていたこの建築手法が一瞬のうちに闇に葬られてしまう事となったからには、それなりの理由があるに違いないと考えるのは極めて自然な流れである。これらの件に関して、かつての建設省である国土交通省に対して質問状を送付したものの、今に至るまで明確な回答は得られていない。流転建築によって建設された住居は今もなお日本の中に多く残っていると言われているが、その実態は謎のままである。
【参考文献:杉下守『人類学の進歩』】
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【出典】
山田哲夫・(寄稿:高橋誠吾)『別冊グロー』総合医療社,2019,p27
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