第20話 私の寝言はちょっとおかしい

 一階に降りると、お父さんとお母さんが帰ってきていた。


 時間はもう午後の三時。

 二人ともすぐに「痛いところはない?」「大丈夫?」って心配してくれてとても嬉しかった。


「……ところでホタルはどこ?」

「二階で寝てるみたい。ホタルもショックだったみたいね」


 お母さんが心配そうな顔で上を見た。


 なんだあいつ、一緒に寝ていたのか……。

 嫌なことがあると不貞寝するところは姉妹でそっくりかもしれない。


「マユ、本当に大丈夫?」

「全然平気! それよりもお腹すいた!」

「ふふっ、マユのそういう明るいところ本当に素敵だと思うよ」


 お母さんが目尻を下げて喜んでくれた。とてもほっとした顔をしている。


 二人に心配かけちゃって悪かったな……。

 でも、これでお父さんとお母さんのほうは大丈夫かも。さっきまで険しい顔をしていたが、いつもの表情に戻ってくれた。


 あとはホタルの件をなんとかしよう。


「……」

「どうしたの?」

「やっぱり今はご飯やめとくね。夜、ホタルと一緒にご飯食べるから」

「ふふっ、分かった。今日は二人の好物にするからね」


 わー、楽しみだなぁ。

 昨日食べそびれた分も沢山食べないとね。ホタルと一緒に。


 私は再び二階に戻ることにした。







「ぐすっ……」


 部屋に入ると、すぐにホタルのすすり泣く声が聞こえてきた。さっきは全然気がつかなかった……。ホタルはどうやらずっと泣いていたようだ。


 よしっ! 真・お姉ちゃん好き好き作戦決行のときだ!


「ホタ――」


 ……あれ? 声をかけようと思ったら上手に声がでてこない。


 冷静になったら私、ものすごく恥ずかしいことしようとしてない? 身近な人に直接好きって言うのってかなり勇気がいる行為じゃん。


(待て待て待て!)


 とりあえず自分のベッドに戻った。

 布団にくるまって一旦作戦を考えよう。


 ホタルは起きてる……。

 起きてるってことは直接言わないといけないってこと。


 直接言うってことはかなり恥ずかしいこと。


 恥ずかしいってことは私がダメージを受けるってこと。


 ダメージを受けるってことは自爆するってことだ!


 よく考えたら私にメリットなくない?


 武田たけだ観柳斎かんりゅうさい(新選組の軍師だった人)もびっくりするほど無能な作戦だよ。


「ぐすっ、うぐっ……」


 ベッドの上からはホタルのすすり泣く声が聞こえてくる。


 あいつの泣き声を聞くとどうしてこんなに胸が痛くなるんだろう……。一緒に泣きながら生まれてきたはずなのにね。


「はぁ……」


 一回、深呼吸をしよう。

 一回、自分の考えを整理しよう。


 私、ホタルに「大大大ッ嫌い」って言われた。大を三つもつけて嫌いって言われた。


 でもさ、本心ではないと思うんだよね。


 こんなこと言ったらまた怒られそうだけど、あいつの本心って実は寝言のほうなんじゃないかなとも思ってるんだ。


 寝言……寝言か……。


「うーん、むにゃむにゃ」


 私は仰向けになって、ホタルに聞こえるようにを言うことにした。


「むにゃむにゃ、お布団気持ちいいよ~」

「……」


 ホタルの泣く声が止まった。

 多分、ちゃんと聞こえているよね? このまま続けちゃうからね。


「お布団ふかふかで気持ちいいよ~」

「……」

「うーん、むにゃむにゃ……私、ホタルのこと好きだよ。ホタルになに言われてもホタルのこと大好きだよ」

「はぇ!?」


 上からホタルの変な声が聞こえてきた。


 うん、ちょっとおかしな寝言になっちゃったけどこれならすんなり言いたいことが言えそうだ。


「私、ホタルにどんなに嫌いって言われても私はホタルのこと好きだよ」

「……」

「だから泣かないで。どんなに嫌われても私はずっとホタルの味方だよ」

「ふぇえ……」


 なんか今、猫の鳴き声みたいなのが聞こえてきたな。


 くぅうう……今ホタルがどんな顔しているのか見たいのに、これじゃ全然分かんないよ。


「私、ホタルのこと好き。素直じゃないホタルも好き。意地っ張りなホタルも好き」

「はわぁ……」

「真面目なホタルが好き。照れ屋さんなホタルも好き」

「ふにゅう……」

「たまに一緒にDVD見てくれるホタルが好き。たまに私とおそろいにしてくれるホタルが好き。たまに遊びに誘ってくれるホタルが好き」

「はわわわわ」

「そして私のこと心配してくれる優しいホタルが好き」


 ……自分で言っておいてびっくりだけどホタルの好きなところがいっぱい出てくる。今まで言語化しようだなんて思ったことなかったもんね。言葉に出すことで自分でも色々気づくことができたような気がする。


「私、ホタルのことが大好き。妹やめるなんて言われてもそんなの知らないもん」

「ぐすっ」

「これからもずっと好きだよ。そもそもホタルの言葉が全部本音じゃないって思ってるし」

「えぐっ……ぐすっ……」


 再びホタルのすすり泣く声が聞こえてくる。でも、さっきとほんのちょっぴり泣き方が変わったような気がする。


 あいつ、今どんな気持ちで私の寝言を聞いてるんだろう。あはは、双子なのに分かんないことだらけでちょっとおかしいや。

 

「わ、私も寝言だから言うけどぉ……」


 ホタルが声を震わせながら私に声をかけてきた。良かった、とりあえずちゃんと聞こえてはいたみたいだ。


「ああ言っちゃったけど、私マユのこと嫌いじゃないもん……。私だってマユのことしゅきだもん……私のほうが絶対にマユのことしゅきだもん。しゅきな気持ちは絶対に負けないもん……」

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