荒れる聖騎士
「んっぐ…………ちょっとウィル! 聞いてよ?」
「どうしたんだい、エレン? 今日は随分荒れてるみたいだけど、捜査で何か上手く行かない事でもあったのかい?」
「今日は、じゃなくて、きょ・う・も・よ! またあの”現場荒らし”に先を越された挙句取り逃がすし、おまけに”コソ泥”には一杯食わさせるしで、散々な一日だったのよ~ ううぅぅ……」
私は今日も仕事が上手く行かなかったストレスを発散するため、ヤケ酒を煽りつつ、このバーのオーナーであり、幼馴染でもあるウィルに、何度目になるか分からないあの子悪党二人に関する愚痴を聞いてもらっている。
「その言い回しだと、今日も捜査現場に巷で噂の『髑髏の闇騎士』と『銀青の泥棒猫』が現れた! って事かな?」
「そうなのよ~!
ホントに何なのよアイツ等!!
私達の仕事の邪魔ばっかりしてくれちゃって!!!」
(そして今日も愚痴ばっかりでごめんね、ウィルぅ~)
今日もウィルのバーにて、大いに愚痴を喚き散らしてしまっている事を、申し訳ないと思いつつ、大いに感謝する。
それは彼ことウィルが、いつも私の話を黙って聞いてくれるし、私のこの状況に対しても、大いに理解を示してくれるから。
昔からの縁もあるという事もあって、ウィルは私にとって数少ない気心の知れた仲だからか、ついつい思った事を全て話してしまう。
王国から栄誉ある
それに聖騎士選抜戦にて、上位のクラスを勝ち取った事から、聖騎士の中でも特別な称号である「
でも目の前にいるウィルは、そんな私を、パラディンとしてでもなければ、この街の有権者の一つであるバーキン家の子爵令嬢としてでもなく、只の”エレノア”として今も昔も見てくれるし、こんな情けない姿も笑って受け入れてくれる。
そんな”元婚約者様”事、「ウィルフレッド・オーウェン」の存在は、未だに私にとってとても大切な存在だ。
(なんせ今日だって、私が愚痴を喚きちらかしてしまう事を察してか、お店を貸し切り状態にしてくれているしね)
そんな気遣いをしてくれるウィルに、私は今も昔も甘えてばかりな気がする。
「エレンの今日の仕事が、どれだけ大変かつ、どう上手く行かなかったのか、僕には全部分かってあげれないかもしれないけど、エレンが誠実かつ、真摯に仕事に取り組んでいる事だけは、僕だって分かってるよ。
だから、そんな一生懸命仕事に取り組んでいるエレンの愚痴なら、僕は幾らでも聞くに決まってるじゃないか」
「ありがとう~!
ウィル、ウィルだけだよ~!!
こんな不出来な騎士の私に、そんな優しい事言ってくれるのって~!!!」
「そんなの当たり前じゃないか。
エレンは毎日この街の事を思って、身を挺してこの街の為に働いてくれているんだもの。
そんなエレンが不出来だなんて、誰も本気で思ってないから、そんなに心配しないでよ」
「そうかな!?
でも、そうだと思って行動したって、結果は付いて来ないから……現実は非常なのよ~!!」
「アハハハ……そんな悲観的にならないでくれよ。
僕としては、エレンが危険な目に遭う事無く、無事な姿を僕に見せてくれて、このバーで今日の出来事を話してくれる事ってのが、僕からすると一番嬉しい事だよ」
(うっ! 優しい、優し過ぎるのよ、ウィルって~!!)
流石私の元婚約者様! もう私を甘やかす事に関しては、両親以上に上手いかもしれないわ!
今日も彼の心から私の無事を祝ってくれる言葉は、私の心の大きな癒しとなるのだけど、ウィルがここでこうして働いている姿を見ていると、どうしても未だに捨てきれない、ウィルに対する数々の未練と、あの時の出来事を思い出すと同時に、私は深い後悔の念に囚われてしまう。
「ねぇ……私、今だって思うの。
ウィルがあの時、私なんかを庇って怪我さえしなければ、今頃ウィルは私なんかより優れた騎士になって、私と一緒にこの街を、サナッタ・シティを守っていたハズなのよ!、
それに私があの時しっかりしてれば、ウィルのお父様とお母さまだって……」
「ストップ、エレン!」
「……でも!」
「前にも言ったよね?
僕の左手の怪我は僕にとっては『当時婚約者だった君を守った名誉の負傷』だと!
それに、僕の両親が死んだのだって、君の所為じゃないんだ!
だから『もしも』を考えるより、お互いこれから『先の事』を考えよう、って約束したよね?」
コレで、何度目になるか分からないやり取りを、また私は酔った勢いでやってしまった……この流れになると、毎度私の「たられば」から始まり、ウィルの「諭し」で終わる流れになるのよね。
「ごめんなさい……もう『この話は終わり』って二人で前に約束したのにね……それなのに、まだ口に出してしまうなんて、私も相当酔いが回ってるわ……」
「良いんだ。
僕がエレンの立場だったら、僕だって君と同じ気持ちになってると思う。
だからもう気にしないで!」
ウィルから、「もうこの話は終わりにしよう」、と言われてしまった以上、私はもうこの話題を、これ以上続ける事はしなかった。
だけど、いくらウィルにそう言われても、私にとっては未だにあの事件で起きた出来事は、割り切ろうにも割り切れないでいる。
(ウィル、あなたがいくらそう言ってくれたとしても、私はあの時の事を未だに、「あの時悪党に立ち向かう勇気があったら……」、って考えてしまうし、ウィルが私を庇って怪我さえしなければ、今頃ウィルは私なんかより立派な騎士となって、私がその隣に並び、二人で堂々とこの街を守っている。
今でも私は、ウィルのそんな
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