第33話 私、遼君と出会えて本当に良かった

 俺たちは自分の部屋に戻ってきた。早速、透花のSNSをどう発信していくか考えないと。先走って、アカウントだけ開設しちゃったけどさ。


「うぇえええん……」


 何故か透花が泣いてらっしゃる。神楽坂家族の前では、あんなに凛として、カッコ良かったのに!


「どうして泣いてるのさ……」

「遼君が私のマネージャーやるって言うから」

「引退済の芸能人のマネージャーも変な話だと思うけどね」

「ううん、遼君が一緒に朝比奈透花の名前を背負ってくれると思うと嬉しい」


 まるで自分の名前じゃないみたいに言うなぁ……。国民的美少女子役だなんて言われていたけど、それだけプレッシャーも大きかったってことなのかな。


「でも、私はそのうち久賀透花になるから、私が遼君の名前を背負うことになるのかな?」

「今は、SNSの話でしょ!」


 二人きりになると油断して、すぐに話が脱線するんだから。もしかすると、透花って、二人きりじゃなくて他の人がいたほうがしっかりするのかもしれないな。


「とりあえず可愛く撮れている写真を厳選しよう。変顔っぽくなっているのは絶対にダメだ」

「なんで?」

「だって、誤解されちゃうでしょ。本物はこんなに可愛いのに」

「普通に可愛いって言われた……」

「今、そこは重要じゃないから!」


 写真の切り抜きの瞬間で、育成失敗だなんて言われるのはもうこりごりだ。今、最高の状態の透花の写真を世に送り出すんだ。あっ、この変な顔してる写真は永久保存だな。


「あとネットリテラシーは守らないと……」

「ねっとりてらしー?」

「炎上するような不適切は発言はしないとか。誤った情報を鵜呑みにしないとか」

「それは、大丈夫。写真上げたらすぐに放置する予定だから」

「まぁ、それも正直ありだよね。俺たちが思っているように成功するか分からないし」

「どういうこと?」

「そもそも、誰にも見てもらえない可能性があるでしょ」


 俺もたまにSNSは見るけど、本当に色んな人がいて、色んな意見が常に蔓延っている。それはどこかの大企業の社長だったり、どこかの政治家だったり。正直、元国民的子役がSNS上でどこまで影響があるかはさっぱり分からない。


「んふふ~」

「なんだよ、変な笑い方して」

「ちょっとだけ楽しくなってきちゃった」

「不謹慎やめてね」

「ごめん。でも、遼君とこうやって一緒になにかやるの楽しいなって」


 ふいに腕を組んでくる透花。もー、自分からやるって言ったくせに。


「かえでとのツーショット写真に絞ってSNSにはあげよう」

「うんうん」

「文章も極力最小限でいいんじゃないかな。知ってる人なら、二人の写真ってだけでかなりの破壊力だと思うから」

「お~」


 自分の考えを述べながら、初投稿の内容を決めていく。透花は、俺の意見に反対せず、ただ目を輝かせて話を聞いていた。


「遼君、本当にマネージャーっぽい」

「中学の頃、部活のマネージャーやってたので」

「そうだった」

「あとでアカウントは放置するにしても、決めごとはちゃんと作っておこうか」

「決めごとって?」

「コメントに反応しない。こちらから誰かに絡みにいかないとか」

「そういうの私がすると思う?」

「しないと思うけど、一応、明確にしておこう」


 育成ノートを開いて、透花のSNSアカウント運用の決まりごと書いていく。


・なにか呟くときは、俺に相談すること

・写真をアップするときは、俺のチェックを忘れないこと

・自分から誰かに絡みにいかない

・コメントに反応しない

・話題のニュースには反応しない

・DMは全部無視


 あとは……なんだろう。燃え上がりそうなものは全部排除しておかないと。


「こんなにルール決めなくても大丈夫だって。そんなに使う予定ないし」

「一応だから」


 透花のことだからSNSに入り浸ることはない。そう分かってはいても、手を抜くことはできないよ。絶対に、透花が傷つくようなことは避けないいけない。


「遼君、肩の力入れすぎ~」


 透花がいきなり俺の肩を揉んできた。


「そんなこと言われても、手は抜けないよ」

「私、遼君さえいてくれれば、なにが起きても平気へっちゃら」


 そして、後ろから抱きついてきた!


「私、遼君と出会えて本当に良かった」

「また大袈裟に言って……」

「ううん、本当にそう思ってるよ。きっと、遼君と会わなかったら、私は今でもずっとあの部屋に閉じこもってたと思う」


 透花が、とても心のこもった声でそんなことを言ってくる。なんだよ、もう……調子が狂っちゃうな。


「私に光を与えてくれてありがとう。芸能界はとても華やか世界だったけど、私、今が一番幸せだよ」


 あまりにも真っ直ぐな言葉に、胸が詰まった。あの日、透花に声をかけて本当に良かった。


「そんなの俺だってそうだよ。透花が笑ってくれると俺まで救われるから。俺も頑張ろうって思えるから」


 透花は一瞬きょとんとした顔をしたが、次の瞬間、くすっと笑った。


「それ私のセリフなのに」

「じゃあ、お互い様ってことで」

「ふふ、そうだね」


 透花の腕に少しだけ力がこもる。温もりが背中越しに伝わってきて、俺の胸も暖かくなった。


「……よし、じゃあ初投稿いってみようか」

「うんっ!」


 二人でスマホを覗き込み、どの写真を選ぶか、どんな一文を添えるか、真剣に相談を始めた。画面の向こうに、どんな反応が待っているかは分からない。


 けど、二人一緒ならきっと大丈夫――そんな予感がしていた。

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