第13話 選ばれた理由

 マグエヌの話は基本的に毎日同じだった。マグーヌとウナ族についての話から始まり、マグーヌに選ばれた僕とエリスを妬み、最後には自分の能力は素晴らしいといった内容で締めくくられる。おかげで記憶の整理には役立った。





「……あ」


 目が覚めて数日が経ったある日のこと。傷が癒えるのと同時に、僕の体は元に戻った。あまりにも突然で、バスケットから大きくはみ出ながらも呆然とマグエヌを見つめることしかできない。彼女の方が意外と冷静だった。


「ふっ……あはははは!!! あはははははははっ!!!! ああ、生きていると思ってたわラクリ!!! ああ、ああ、やっとこの時が来た……!」

「や、やあ……久しぶりだね。助けてくれたのには感謝してるよ。だけど、言っている意味が——」

「欲しいのはただ一つ。あなたの特別な力よ。それをもらうの。あなたは二つ持っているでしょう? 片方私にくれたって構わないわよね?」


 高笑いしながら、彼女は狂気に満ちた目で僕を見つめる。僕はバスケットから降りて床に足をつけた。怪我は完治しているようだ。事を荒立てるつもりはないが、いざとなったら力ずくでも逃げられる。

 マグエヌの言う通り、僕は特別な力を二つとも保有したままだ。見抜かれたのはこれが初めてだったけれど。



 ”ダメだ、エリス!!! 僕じゃないっ!!!”



 エリスが死ぬ間際に僕に渡してしまった力。そして、特別な子が二人で分けて保有しないとよくないことが起こる力……それは今も僕の中にある。マグーヌ自体にも知られずに。


 ……でも。


「残念だけど、それはできない」

「どうして? えっ……なに? この後に及んで力を独り占めするつもり? エリスはもう死んでいるのに!!」

「そうじゃない。君が選ばれし子供の器ではないからだ」


「……は?」


 彼女は不機嫌そうに眉を釣り上げた。毎日話を聞いていたからわかる。彼女はマグーヌの力を手に入れることを心から望んでいた。諦めがつくように伝えなければならない。


「君のおかげで記憶がようやく戻った。僕とエリスには選ばれた理由があることもね」

「理由……?」

「どうして君が僕の目の色を気に入ったのか。それが答えだよ。もし器ではない君が力を受け取ったら、どうなるか保証ができない」


 僕は祖母譲りの鳥色の目を持っている。その目はかつてウナ族の女王のそばにいた薄水色の鳥と同じ色で、祖母は生まれ変わった魂の一部だとも言っていた。

 そしてエリスは、ウナ族の女王と同じ痣を首に持つ少女だった。


 だから特別な子供として、ウナ族と深い繋がりを持つ僕らがマグーヌに選ばれた。記憶は完全に戻っている。マグーヌを慕う気持ちも芽生えていて、自分が少し嫌になった。幼い僕はマグーヌにかなり心酔していたようだ。これじゃあ政府から見て”洗脳が強いから処刑対象”となってもおかしくない。


「ウナ族について調べていた君ならわかるだろう。鳥色の目のことも、女王の痣のことも」

「あ……ぁ」


 彼女は絶望したように床に座り込んだ。


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