第28話 ハニー・ファースト・インパクト
シャーロットの両手首を縛った縄を持ったまま、俺はエレメンタル騎士団の制服で歩いていく。
このエリアの出入口に立っていた近衛騎士2人より偉いと思われる男に先導されつつ、考える。
(シャロを取り上げられたら、終わりだ……)
聖女リナも、ティエリー王子の近くにいるはず!
そう思っての潜入だが。
(リナが四つん這いでパンパンさせられていたら、気まずいな?)
しょうもないことを考えていたら、シャーロットにじろりと睨まれた。
野営地だが、ここは簡易的な建物が並ぶ場所。
その中央にある広い天幕に招かれ、椅子を勧められた。
「ただいま、王子殿下にお伺いします……」
「お願いします」
その親衛隊は、小走りに出て行った。
当たり前だが、奴隷のシャーロットに椅子はない。
俺のほうを見たから、地面に視線を移す。
ため息をついたシャーロットは、その場に座った。
天幕とあって、別の場所から声が響く。
『アーデンティア帝国の主力は?』
『……変わらずに、正面で横一列の布陣です』
どうやら、作戦司令部があるらしい。
『こちらは、同じく正面に
『現状は、お互いの歩兵隊による衝突が行われて、我が軍が優勢……』
作戦参謀や、上にいる指揮官たちの声は明るい。
勝ち戦を疑っていないようだ。
『帝国は、どうして少数で挑んだやら!』
『突撃すれば、あっという間に蹂躙できますな!』
『ハハハ! それでは、奴らが帰った後で言い訳できん』
『形作りはさせてやらんと……』
国同士の衝突は、お約束に基づいた流れ。
外交の一部であり、王侯貴族や指揮官を捕虜にして、身代金で返すのだ。
むろん、負けた国が勝ったほうへ賠償金や相手に有利な取引、あるいは、領地を差し出す。
国境線に接している領地は、取って取られてが日常。
(体のいい、犠牲役……)
すると、さっきの男が戻ってきた。
「騎士殿! ティエリー王子がお会いになるそうです」
――王子専用の個室
先ほどの天幕の近くに、広めの個室に玄関ドアをつけたような建物。
王族の家紋がついており、ティエリーの居場所だと分かる。
ノックと返事のあとにドアを開けた男が、俺たちを招く。
中に入ったら、1人用のソファに身を沈めている若い男。
「来たか! うむ……。私を殴った女に違いない! お前は、少し席を外せ」
「……ハッ! 失礼します」
敬礼した男は、外に出てからドアを閉める。
天井からの光だけになった個室で、座っているティエリーが訊ねる。
「よくやった! 貴様の名前は?」
「……恐れ入りますが、我が騎士団への恩寵とさせていただきたく」
拍子抜けしたティエリーは、後ろにもたれた。
「欲がないな? まあ、いい……。お前の騎士団には、この戦争が終わって帰還したら報いよう――」
「殿下! たった今、エレメンタル騎士団の1人が襲われたとの報告がありました! その際に、服を奪われたようで!」
さっきの男が、今にも抜剣しそうな勢いで飛び込んできた。
立ち上がり、シャーロットに近づいていたティエリーは、面倒そうに振り向く。
「それが何だ? 邪魔をするな!」
「……この者は、まだ名乗っておりません! それを確認したら、ただちに――」
抜いていたダガーで、シャーロットの胸を隠している服を縦に切り裂いた。
とたんに、彼女の2つが大きく揺れつつ、自己主張を始める。
そちらを見たティエリーが、視線を向けたままで、言い返す。
「くどい! この女を尋問しなければならん! 貴様は邪魔だ!」
「ご理解ください、殿下――」
引かない男は、手首を縛られていたはずのシャーロットに襲われた。
ティエリー王子に注目していた男は、後手に回る。
両手を首に巻き付けられ、引き倒すように身を投げたシャーロットにより、首の骨を折られた。
ゴキリという鈍い音と同時に、男の目から生気が消える。
まだ反応できないティエリーに対して、俺が後ろに回り込みつつ、両手で首を絞める。
「き、貴様……。何者……だ」
全身の力が抜けた。
ぐったりしたティエリーの口に猿轡、手足を縛りつつ、シャーロットにドアを閉めるように指示。
バタンと閉められ、2人で息を吐く。
「リナを探してくる! お前はここで待ってろ! 誰かが来たら、プレイ中に見せかけろ」
自分もついていく、と言いかけたシャーロットは、首を振る。
「分かった……。それぞれで脱出する場合は?」
「お互いに生きていれば、いずれ再会――」
正面から顔を近づけたシャーロットの唇と重なった。
そのまま、お互いの舌を巻きつける。
同時に、俺の片手をとられ、シャーロットの片方にずぶずぶと沈む。
本人の手に導かれ、柔らかさを実感する。
やがて、シャーロットが離れた。
「私の初めて……。再会したら、続きをしましょ?」
頬を赤くしたまま、濡れた瞳をしているシャーロット。
「ああ……」
俺は、頷くだけ。
後になって思えば、彼女は本能的に察していたのかもしれない。
これで、しばらくの別離になることを……。
圧倒的に優勢と思われた、サクリフィ王国軍。
だが、少数と知りながら挑んだアーデンティア帝国は、思わぬ手段に打って出る。
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