阿号基地

@tateba_factory

ボクシングジムの奇跡

薄明かりのボクシングジム。トレーニングバッグが揺れ、グローブを打ちつける音が室内に響いている。その中央では、ふわふわしたツインテールの少女・千代(ちよ)と、茶髪のふんわりショートの少年・悠真(ゆうま)が向かい合っていた。どちらも真剣な眼差しだが、その姿はまるで文化祭のペアダンスのようにどこか微笑ましい。


「はぁ…はぁ…千代ちゃん、なかなかやるね!」悠真が額の汗を拭いながら息を整える。


「悠真くんもね。でも、私、まだまだ行けるよ!」


千代のグローブが軽やかに揺れる。そのピンクのグローブは、まるで可愛いおもちゃのようだが、力強い。


コーチの小柄な男性がリング脇で腕を組み、温かく見守っている。


「いいぞー!テンポを意識しろ!足も止めるなよ!」


コーチの声に応え、二人はステップを踏みながら間合いを取る。悠真が軽くジャブを放つと、千代は見事なスウェイで避けた。


「おおっ、すごい!千代ちゃん、それどうやってやるの?」


「えっとね、ダンスのステップを応用してるの。ほら、こうやって…」


千代はクルリとターンして見せた。まるでダンスホールにいるかのような滑らかさ。


「お、おしゃれすぎない!?」


悠真は驚きつつも、笑顔を見せる。観客席にいた仲間たちも「おお~」と声を上げた。ジム全体に柔らかい笑い声が広がる。


「次は私からいくよ!」


千代がグッと前に出て、ストレートを放つ。悠真はギリギリでそれをガードしたものの、体勢が崩れた。


「うわっ!」


リングの上でよろける悠真。慌てて千代が手を伸ばし、彼を支えた。


「だ、大丈夫?」


「ありがとう…あ、あれ?これってボクシングだよね?」


悠真は立ち直りながら、何とも言えない表情を浮かべた。


「えへへ、ボクシングだけど、友情も大事だよね?」


千代の言葉にジムの空気が一層和やかになる。観客からは「いいぞ、仲良しペア!」なんて声も飛んだ。


コーチは腕を組んでため息をつきながらも、口元には笑みを浮かべた。


「こりゃ、ボクシングじゃなくて新しい競技かもな…いや、悪くないか」


リングの上では、再び千代と悠真が軽やかにステップを踏み始めていた。迫力ある拳の応酬も、二人の可愛らしいやりとりと混ざり合い、まるでジム全体が笑顔で包まれるかのようだった。


ボクシングは殴り合いだけじゃない。誰かと心を通わせる新しい形が、ここにあった。

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