第43話

~穂風~


あたしの写真集撮影がはじまった。

まずは日本で撮って、あとは台湾でロケしたり、出版社の人に無理言って夏葉のいるアメリカでも撮ってもらうことになった。

写真集撮影が始まったのと、小さめの大会が多くてあたしはかなり忙しくなった。

夏葉とも電話できない日々…。

メッセージは毎日やり取りしてるけどね。

あとたまに数分だけ電話してる。


でも、夏葉がこの前『話したいことあるからゆっくり電話できねえ?』と言ってきた。

正直、今のあたしにゆっくり話をできる時間はない。

『再来週そっちに行くからそのとき話そ!』

そう返した。

でも、話したいことってなんだろ…。

まさか別れ話!?

そんなわけないと思いたい…。

と思っていたら、夏葉から『あ、別れ話とかじゃねえから。そんなに重要な話でもない』と来た。

ほっ…。

でも、重要な話じゃないけどゆっくり話したい話ってなんだろ?

まったく見当もつかない。

まあ重要な話じゃないらしいからあんま深く考えないでおこう…。

ただでさえ遠距離でちょっと不安なのに、余計なこと考えてたら深みにハマっちゃう。


そんなこと考えながら今日も海でサーフィン。

海の上にいる間は不安も全部消し飛ぶ。

ただ気持ち良いだけ。

のびのび波に乗る。

だけど、

「龍臣さんに乗り方そっくりですね…」

カメラマンさんにそう言われ、テンションがた落ち。

久しぶりに言われた…。

たまに似るみたいだ…。

前ほど荒れないけど、やっぱりパパと比べられるのは良い気はしない。

それでもプロなのでいつも通り波を乗りこなした。


そして今日からは台湾での撮影!

台湾はおととしのアジア大会ぶりだ。

現地の海に足を踏み入れると、見覚えのある人…。

「你是夏葉的女朋友的(夏葉の彼女だー)」

なんて言ってるかわからないけど、ニヤニヤしたこの女!

夏葉の元セフレ(みたいな人)!

名前は確か…美玲メイリン

「It’s been a long time since we met before(ご無沙汰しております)」

ムカつくから英語でわざと丁寧に話してみた。

「好笑了(ウケるね)」

何言ってるかさっぱり分からないけどなんかムカつく!

それから、『夏葉は元気?』と書かれた翻訳アプリを私に見せてきた。

『あんたに関係なくない?』

と返した。

美玲はケラケラ笑ってる。

ムカつく!!


イライラしながらその日の撮影スタート。

だけどやっぱりあたしはプロなので、イライラしててもコンディションに影響なし!

えらい!

その日の夕方に夏葉に電話した。

向こうは早朝なので、夏葉の声は寝起きだ。

「聞いてよ! 今日美玲に会ったんだけどすごいムカついたの!」

≪は? 美玲? うわ、そっちもか…≫

「そっちもって?」

≪あ~いや、なんでもない≫

なに!?

気になるんですけど!


「夏葉って元カノとか元セフレとかそういう人のこと思い出したりするの?」

≪突然なんだよ…≫

「なんか急に心配になって…」

≪まじで思い出すことねえな。俺にとってお前に会うまで彼女って存在って多分そんな大きいものじゃなかったんだと思う≫

「そうなんだ…」

ちょっとホッとした…。

思い出すとか言われたら結構落ち込むかも。

「じゃあ今もし元カノと会ったらどうする?」

≪…あのさ≫

「なに?」

そのとき、スタッフさんに呼ばれた。


「はーい、今行きます」

そう言ってから夏葉に「ごめん、あたしもう行かなきゃ! じゃあね、今日も頑張って」と言って電話を切った。

ゆっくり話すこともできないなんて寂しいな…。

早く夏葉に会いに行きたい。

会ったら仕事どころじゃなくなっちゃうかも。

今までサーフィンより大事なものなんてなかったのにな。

夏葉と出会ってから心の中が夏葉ばっかりだ。


それから台湾での撮影も終え、日本に帰国。

日本に戻ってからは写真集の宣伝のためにテレビに出たりもした。

大物男性タレントとのお昼のトーク番組…。

緊張緊張。

『伝説的サーファー・岩崎龍臣と、世界屈指のサーフボード職人・川村そよ子を親に持つ…』

苦手な紹介のされ方をしても笑顔。

「この度は初めての写真集を出すということで」

「はい、20歳をテーマに、様々なクリエイターによる撮影で現在も絶賛撮影中です」

宣伝もばっちりだ。


「岩崎穂風さんといえば、こんな写真も話題になっています」

そう言われ、モニターに映されたのは、泣き崩れるあたしを支える夏葉の写真。

この前のオリンピックのときの…。

「これは彼氏さん?」

「はい、そうです」

「顔見えなくてもかっこいいの伝わるね~」

「あはは、ありがとうございます」

テレビで紹介されるのは照れつつ誇らしい。

あたしの恋人ってことを日本中に広めていいんだ。

「しばらくスランプもあったということだけど、その間もこの彼氏さんが支えてくれたのかな?」

「そうですね、本当にずっとそばで支えてくれて。感謝しかないです」

「その彼氏さんはプロのサーフフォトグラファーということで、サーフ界で一時話題になった写真もあるようで」


そう言ってあたしが復帰したときの夏葉の写真が映し出された。

「これは綺麗ですね~」

「あはは、ありがとうございます」

「これはいつ頃の写真?」

「あたしがスランプから脱したときの撮影です。これが結構世界で話題になってくれて」

「恋人の復帰の写真で話題になるなんて、すごい良いカップルだね~」

へへ。

本当にありがたいことだよね~…。

収録が終わり、無事にオンエアされたので、オンエアのテレビ画面の写真を夏葉に送った。


『すげ~。芸能人みたいだな』

『ね、楽しかった!』

あたし、夏葉がいない間も充実して結構頑張ってるよ!

だんだんと自分が成長しているのを感じるもん。

そしてついに…。

夏葉のいるアメリカに来る日がやってきた!

ソワソワしながら空港に降り立って、はやる心を落ち着かせながら到着ロビーまで急ぐと、愛しい人が待っていた。


「夏葉~!」

夏葉に駆け寄って飛び込んだ。

夏葉があたしのことをぎゅっと強く抱きしめてくれる。

「会いたかった」

夏葉がそう言ってさらに強く抱きしめる。

あたしもそれに応えようと強く強く抱き返した。

離れたくなーい…。

夏葉の腰元に腕を回しながら夏葉のことを見上げると、夏葉がキスしてくれた。

好きすぎる~…。


夏葉とがっちり腕を組みながら手をつないで歩きだした。

夏葉があたしの荷物をもう片方の手で持ってくれる。

とりあえずあたしのホテルに向かう。

向かう途中のタクシーの中でもべったりで。

ホテルに着いてからも夏葉にべたべたとくっついてた。

久しぶりの夏葉はなんだか一層キラキラして見える。

何か月も離れていたから、会えたときの喜びはひとしおだ。


「穂風、顔あげて」

「ん?」

顔をあげたところをチューされる。

幸せ~…。

一段と濃いキスに、何度か息継ぎしながら夢中になった。

久しぶりのキスは、こんなに幸せだったっけ? っていうくらい幸せ。

頭の中お花畑になりそうだ!

それからしばらく部屋でイチャイチャ。


「そろそろ海行くか?」

夏葉のその言葉で海に行くことにした。

滞在時間は1週間と短いので、この1週間の間に良い写真を収めないといけない。

海の目の前のホテルを取ってるので、海にはすぐ着いたけど、リアムはまだ来ていない。

しばらく2人で浜辺に腰かけてた。

「そういえば、話したいことって何だったの?」

「あ、えーっとな…」

夏葉を見ると軽く頭をかいてる。

なんか言いづらそう…。


そのとき、「夏葉」と女の声がした。

声の方を見ると、髪の長い綺麗な女の人。

誰…?

夏葉のことを見ると『しまった』という顔をした。

その顔を見て、不安でドキドキしはじめる心臓。

なに…?

浮気…?

「夏葉、誰…?」

「…俺の、元カノ」

元カノ!?

なに…なんで…?


「実は…こっちに来たときに偶然会って…。穂風に言うタイミング図ってたら今日になっちまった…ごめん」

「ありえないよ!」

あたしは思わず立ち上がった。

それから夏葉の肩を殴る。

「夏葉のバカ!」

そう言って走って逃げた。

「穂風!」

夏葉が追いかけてあたしの腕をつかんだ。

それを振りほどくあたし。

あたしがいない間に、あたしが知らない間に元カノと会ってたってこと?

毎日夏葉に会いたくて、不安になったり頑張ったりしてたあたしがバカみたいじゃん…。


ホテルの部屋に引きこもって泣き続けた。

夏葉と久しぶりに会って本当にうれしかったのに。

こんなことになると思わなかった…。

あまりにもつらすぎる。

夏葉から着信がたくさん来てたけど、それも全部無視した。

夏葉のバカ…

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